先輩は真面目スパルタ
ハッと我に返る。周囲を見回してみると始業式が終わった直後のためかみんな帰っており誰もいなかった。そんな中私は自分の机で勉強しているところを考えるとエリートとしての自負がこみあげてくる。
まさか無意識のうちに明日以降の予習を始めるとは自分のことながら誇らしい気持ちになる。えっそれをネタで考えてないとしたらお前はほんとにアホだよですか。ネタの意味がわかりませんがバカにされてるのはわかるので怒っていいですか?いやまあわかってますよアレですよね?アレ中の人が表に出たんですよね?今のは当てずっぽうだろって、そ、そんなことあるわけないじゃないですか私はエリートなんですよそれくらい普通に察しがつきます!
むー……今の反応からして私の予想は当たってるようですね。中の人は度々私が寝てるときに私の体を動かしているらしい。最初に出会ったときの誓いはどこへやら私の体は私の許可なく好き勝手動いていることになんとも思わないらしい。私はこんなにも不服であるのに。私が戦闘で気を失ったときも彼に体の操作が移ってどうにかなることも多いのと私の知らないところで痴態をさらしていないので情状酌量の余地はあるものだ。まぁ一度でも失態を犯そうものなら容赦はしないけど。
なんのことを考えてたって?言うわけないじゃないですか
中の人の存在を何とか許容しているもう一つ理由がある。どうやら私の意思で中の人の声を聞かないこともできるし私の声も届けないこともできるらしいのだ。イメージとしては普段は中の人の部屋に入り浸ってるが時々個室に戻ることが出来るみたいな感じだろうか。
……なんか私が中の人が大好きだから部屋に入り浸ってるように感じられて嫌だな。うん逆だ、中の人が私の部屋にきたから追い出す。こっちだな
大事なことを忘れてた。すいません私っていつ気絶したんですか?クレアさんに友達だって言われたら気絶した?あはは……そんなことで気絶する人間がどこにいるんですか~からかうのは休み休みにしてくださいよ。あれ?なんか中の人からかわいそうな目で見られてる感覚がある、え?ほんとに私そんなことで気絶したんですか?嘘ですよね?嘘だと言ってくださいよ!
恥ずかしい……会話で気絶するってなんなんですかぁ~、え?そろそろ時間は大丈夫かって?
教室にある時計を見ると皇子のところに行くにはちょうどいい時間になっていた。私は広げていた勉強道具を片付けて皇子でいるであろう生徒会室に走って向かった。
曲がり角を曲がろうとすると飛び出してきた誰かとぶつかる
「うおっ」
「きゃっ」
ぶつかった相手を見ると私がよく知る人物だ
「大丈夫ですか?ってザンカか、廊下は走るな危ないだろうが!」
皇子護衛の騎士の一人……つまり私と同じエリートの先輩だ。先輩は私と違い皇子の護衛として皇子と同じ年に入学を特例で許されており本人曰く勉学も最上級クラスでも通用するとか、それと私が最も嫌いな人間だ中の人判断で鍛え抜かれた筋肉は美術品レベルであり彼の水着すちるにときめかないものはいなかったとか
「先輩こそなんで私だとわかった瞬間声を荒げるんですかひどくないですか!?」
この人の嫌いなところはここだ普段は騎士の中の騎士といわれるくらいしっかりとした礼節を持った人間なのに私に対してだけはしかりつけたり怒ったりする。差別ではないか?
「厳しくするのは当たり前だろが。お前の近衛騎士としての教育係は俺なんだから、それと声を荒げてはいないただ声がデカくて通りやすいだけだ」
「それでも私からすれば結果が変わらないのでできればやめていただきたいです!優しくしてほしい!」
「最初のころは俺だって優しくしてたはずだが?」
思い返すと確かに昔の先輩はいまより優しかった。あの頃はよかった
「じゃあ戻ってくださいよ」
「ダメだ。この場所はお前が仕えるべき皇子がいるんだぞ生半可な教育でお前がご子息、ご令嬢方に粗相を犯してみろお前の首が飛ぶのはもちろんだがそんなやつを皇子の側に控えさせたという皇子の目が節穴になってしまう。いいかお前の一挙手一投足は皇子の器を示すものと思え」
「私が皇子の名を汚すとでも?」
「する。お前は無自覚にするんだ。お前が良かれと思ってやったことが原因で俺が何度フォローに入ったと思う?」
先輩は私が先輩に怒られたいくつかのことを思い出し今にも堪忍袋の緒が切れそうだ。さっさとこの場を離れた方がよさそうだな
「先輩、私は皇子の下に行く用事がありますのでそろそろこのあたりでお暇させてもらってよろしいでしょうか?」
「ん?ああそうだ忘れるところだった皇子からの伝言だ。ザンカ今日は来なくていいらしいぞ」
……は?
「え、あの、なんでですか?」
「なんでも急な予定が入ったらしくてな挨拶に来なくていいらしい。今日の午後は自由に過ごしていいそうだ」
「あ、なるほど私が何かやらかしたとかではないんですね……」
「そこは安心していいぞ。暇ならお前の勉強を見てやろうか?」
「いえ大丈夫です……」
「というかお前どこのクラス入ったんだ?流石に一番下のクラスではあってほしくないんだが……」
「安心してくださいBクラスです!」
ピースサインを作って誇らしげにして見せる
「おおーよく頑張ったな」
そういって先輩が私の頭をなでる、嫌いな先輩の数少ない好きなところだ
「ちゃんと褒めるところは褒めてくれる先輩好きです~」
「っん”ちゃんとほめるところは褒めるからな今後とも頑張ってけ……それと俺は用事思い出したから行ってくるわ」
「先輩でも用事を忘れるってことあるんですね明日は雪でも降るんですかね?」
「バカなこと言ってないで有意義に休めよじゃあな」
そういって先輩は行ってしまった。
急な予定の消失に何をすべきだろうか……中の人に聞いてみようか。図書館に行くとよいって?先輩も中の人もそんなに私に勉強させたいんですか?いいから行けってまあ新入生もいるかもしれませんし友達作りってことですよね?わかりましたよー
というわけでやってきたが中には人はいない、友達作りのために来たのでは?そんなこと知らんって中の人が来たいって言ったから来たんですけど
中の人はそのまま黙ってしまった。これは本当に来たかっただけらしい、意外と本が好きなのだろうか。せっかくだし下校時刻まではここで本を読んで時間をつぶすことにしようか、図書館は数か月に一度訪れるくらいの頻度でしかこないが静かだから好きだ
とりあえずこの国の歴史書でも読もうか、えーとこの国のはじまりは……
寝たか、というか寝てしまったか……壁掛け時計を見るとまだ図書館でのイベント発生時刻まで時間がない起こすのは難しそうだ
これからここで起こるのはクレアと攻略キャラの一人出会いのシーンなので後々のサポートのためにもクレアが恋に落ちるのかザンカの目で見たかったのだがしょうがない、見つかってストーリーに支障をきたすと怖いので退散するとするか
後で読むかもしれないし一応ザンカを睡魔に落とした歴史書も借りて……あれ、どうやって借りるんだ?図書カードは……あるのか?借り方がわからん、図書委員とか司書的な人は、いない
悩んでいると図書室の扉が開かれた
そこには先刻友達になったクレアの姿があった
「あれ、ザンカちゃんも図書室でお勉強するの?」
まっずい本来ここにザンカはいないのに変なことは起こらないよな?
「いや、この本を借りれないかと思ったんですけど借り方がわからなくてどうすればいいと思います?」
「私もよくわかんないな……どうするんだろうね」
そうだよな、彼女も今日入学したばっかの一年生だわからないのが普通だ。というか本を借りるの諦めてさっさと退散しなければ
「今日のところは出直しますね。では!」
本を棚に戻そうとするも時すでに遅かったらしく図書室の扉が開かれてしまった
「おや?君たちは……リボンを見る限り一年生のようだが何か困ったことでもあるのかい?」
現れたのは皇子の友人であり魔法の腕前なら学園一のサルビアだ。ここでクレアが会う攻略キャラの一人でもある。
「この子が本を借りたいらしいんですけどどうすればいいかわからなくて」
「ああ、君たちは一年生だから知らないのか。ここの本はどれも追跡の魔術が付与されているから持ち出しても場所がわかるようになってるんだ。だから手続きみたいなものは必要ない、だけど貸出期限は1週間だから気を付けてくれ。返却のときは返却コーナーにおいてくれれば図書委員が片づけるから。これで大丈夫かい?」
「ありがとうございます。ザンカちゃんそのまま持ち出していいって!」
「えっと……ありがとうございます……では私はこれで」
脱兎のごとく逃げ出した俺だがこれでよかったのだろうか。会話したのは数十秒もなかったしなんの影響もないと思いたい。