黒猫ツバキ、ご主人様が男性にデートに誘われるという奇跡の瞬間に立ち会ってしまう(イラストあり)
作品④視点移動をスムーズにしつつ書いてみる
※ページ途中に、コンデッサのイメージイラストがあります(話の流れにおいて、かなり重要なイラストなので、ぜひご覧ください)。
天空に輝く、真夏の太陽!
青い海!
白い砂浜!
ここは、ボロノナーレ王国の海水浴場。20代の魔女コンデッサは、ビキニ水着にパレオを腰に巻き、波打ち際を闊歩していた。お供は、使い魔の黒猫ツバキのみ。当然ながら、連れの異性など存在しない。
だが、彼女の目に飛び込んでくる景色は……。
あっちも、いちゃいちゃカップル。こっちも、いちゃいちゃカップル。
すごい、ムカつく。
(カップルばかりだな、オイ! ふざけんな。ただでさえ暑いのに、海辺の温度がもっと上がるだろうが! 北の氷の海にでも行って、頭も身体も、2人の関係も冷やしてこい!)
冷やすべきなのは、魔女自身の頭であろう。
♢
プンプンしているコンデッサへ、ツバキが声を掛ける。
「ご主人様は孤高の天才魔女にゃんだから、釣り合いが取れる男性にゃんて、なかなか居ないのニャ」
「そうだな。ハッハッハ!」
「真実は〝単なるボッチ〟でも、モノには言いようがあるのニャン」
そんな主従の前に、水着姿の男性が現れる。
「お願いです! そこの美女さん。俺と付き合ってください!」
「え!」「ニャ!」
「俺と一緒に海で泳いでください!」
「ええ!」「ニャニャ!」
「俺と一緒に浜辺を走ってください!」
「えええ!」「ニャニャニャ!」
「俺と一緒にボートに乗ってください!」
「ええええ!」「ニャニャニャニャ!」
うろたえる魔女と猫。日頃、大言壮語している割には不甲斐ない。
「し、しかし、突然に告白されても、私にも都合が……」
「ご主人様! このチャンスを逃しちゃダメにゃん!」
「頼みます! 今日1日だけ! 1日だけで、良いんです!」
必死になる男の様子を見て、コンデッサが考え込む。
「1日だけ? 〝お試し期間〟というヤツか。そこまで言うのなら、まぁ……」
「ありがとうございます!」
「良かったニャ。これで、ご主人様にも〝春〟が来たのかニャン? もう夏だけど」
♢
こうして、その日――
コンデッサと男は一緒に海で泳いだ。全力で。
コンデッサと男は一緒に浜辺を走った。全力で。
コンデッサと男は一緒にボートに乗った。交互に全力でオールを漕ぎながら。
♢
「おい! なんで、どれも全力なんだ!? デートとは、こんなに体力を全開にして、やるものなのか?」
汗だくで荒い息を吐きつつ、コンデッサは男へ尋ねる。
「デート? 何を仰っているのですか? 美女さん。これはトライアスロンですよ」
「にゃ? トライアスロン?」
「ハイ、猫さん。〝泳ぎ・走り・ボート漕ぎ〟の3種目混合レースですね。男女がペアになって挑戦するのが、出場条件になっていまして。一緒に参加するはずだった俺の彼女が、急に来られなくなって、困っていたんです」
「…………」とコンデッサ。
「……ニャ」とツバキ。
「美女さんを一目見て、分かったんです! 〝この女性は意味不明ながら、謎のパワーに満ち溢れている!〟――と。おかげさまで優勝できました。賞金は山分けですね。では、サヨウナラ」
そのあと、浜辺で見られた光景は……。
・
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♢以下、後書きです。
トライアスロンのレースが終わった後。
意気揚々と去ろうとする男を、コンデッサが呼び止める。
「ちょっと待て」
「ハイ? なんでしょう、美女さん」
「そこに正座しろ」
「あの、砂が熱いんですが」
「しろ」
「ハイ」
「両手を、地面につけろ」
「砂が熱いんですが」
「しろ」
「ハイ」
「頭を下げろ」
「ハイ……って、美女さん! どうして、俺の後頭部を踏んづけているんですか!?」
グリグリグリ。
「ああ! 美女さんの足の裏の感触が! 痛いけど、少しだけ気持ち良いかも? しかし、何故、こんな事態に!?」
「教えてあげるニャン」
「あ、猫さん」
「アナタは、ご主人様のプライドを踏みつけてしまったのニャ」
「なるほど! だから俺は、頭を踏みつけられているんですね!」
「ご主人様のハートは、ブレイクしちゃったのニャ」
「なるほど! だから俺は、ハードなプレイを身体に刻み込まれるハメに……っ!」
「あと、ご主人様の体面も泥まみれにしてしまったのニャ」
「なるほど! だから俺の顔面は今、泥まみれ……もとい、砂まみれになっているんですね!」
「ツバキもお前も、取りあえず黙れ」
しばらく経って、コンデッサは男を解放した。
その日の夜、コンデッサとツバキは豪華な海鮮料理を食べた。
「わ~い。とっても美味しいニャン」
「くそ! トライアスロンで得た賞金なんて、今日のうちに使い切ってやる!」
「ご主人様も、早く恋のレースに出場できるようになると良いにゃんネ」
「当分の間は、レースはこりごりだよ……」
ボロノナーレ王国は、今日も平和である。
~おしまい~
コンデッサのイラストは、ファル様より頂きました! ありがとうございます! 実は今回の話は、頂いたこのFAをもとに考えまして……。
あと「視点移動」って、ややこして、よく分かりません(汗)。一応、「客観視点」→「キャラ視点」→「著者視点(ツッコミ)」でやってみました。
※トライアスロンとは、ギリシャ語由来で「3つの競技」を意味します。種目内容は基本的に「水泳・自転車・長距離走」ですが、ここでは「泳ぎ・走り・ボート漕ぎ」となっています。
♢
「ご主人様。アタシは、やったニャン! 4つの作品を仕上げて、宿題を全て提出したのニャ」
「おお、偉いぞ! ツバキ」
「夏休みの宿題、コンクリートにゃん」
「コンクリート……? 宿題を固めて、ど~するんだ」
「間違えたニャン。夏休みの宿題、コンプリートにゃ」
「ご褒美に、ツバキには金メダルをあげよう」
「ニャ~」
「……ご褒美に、ツバキには金目鯛の煮付けを夕食に出そう」
「わ~い。やったニャン~!!!」
「ツバキは〝キンメダル〟より〝キンメダイ〟を貰ったほうが喜ぶのか……。『猫に小判』『花より団子』という言葉は、やっぱり本当のことだったんだな」
♢
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