黒猫ツバキのご主人様
作品②主人公の名前を出すタイミングを工夫する
ここはボロノナーレ王国、辺境の地。
冒険者の男が大ピンチに陥っていた。凶悪なモンスターに襲われてしまったのだ。
「単独行動など、するんじゃ無かった。誰か助けてくれ~!」
叶わない願いと知りつつ、男は天に祈る。その時!
「《火球》!」
凜とした女性の声が、辺りに響く。
火の玉の直撃を受けたモンスターは、一目散に逃げていった。
間一髪のところで助かった男が天を見上げると、箒に横座りしながら空中に浮かんでいる女性の姿があった。赤い髪の若い美人……その服装、加えて見事な魔法による攻撃から察するに、魔女であるに違いない。
魔女の肩には黒猫がチョコンと座っている。彼女の使い魔のようだ。
「あ、貴方様は、まさか!」
驚きの声を上げる、男。
猫が魔女へ語りかける。
「ニャン。ご主人様は、この人と知り合いなニョ?」
「いや、初対面だ。たまたま危ない場面に出くわしたので、思わず助けてしまっただけだ」
「でも、ご主人様のことを知っているみたいニャン」
「ふふ。それだけボロノナーレ王国では、私が有名だということだよ。私は大変に優秀な魔女だから、当然ではある」
「ご主人様、凄いニャン!」
「もっと私を褒めろ、ツバキ」
盛り上がる主従。
男は魔女へ礼を述べた。
「ありがとうございます。貴方様のおかげで命拾いをいたしました」
「これからは気を付けるんだね。あと、私が如何に王国屈指、名声が世に知れ渡っている超一流の天才魔女とはいえ、そこまで畏まらなくても良いぞ。私の名を呼ぶことを、お前には特別に許してやろう」
「え゛!?」
固まる、男。
(マズい! この魔女の名前なんて、俺は知らないぞ。最初の『まさか!』は勢いで言っただけで…………猫の名が『ツバキ』なのは分かったが)
魔女と黒猫が、どちらも期待に満ちた瞳で男を見つめてくる。今更『貴方様の名前を教えてください』と頼めるような雰囲気では無い。下手したら、怒った魔女に、お仕置きされる可能性が……先ほどとは違う意味で、男はピンチになった。
「あ、あ、貴方様は……」
「貴方様は?」
「アニャタ様は?」
「…………貴方様のことは……『黒猫ツバキのご主人様』と、呼ばせていただいても……宜しいでしょうか?」
男の発言に魔女と黒猫は少しの間、沈黙した。
そして。
「良し!」と魔女。
「それ、素敵にゃん!」と猫。
「なんだか納得のいく呼び名で、私はとても満足した。サラバだ!」
魔女は喜びの表情を見せ、あっという間に箒に乗ったまま飛び去っていく。
男は「モンスターの襲撃からも、魔女のお仕置きからも、助かった~」と安堵の息をついた。
♢
飛行中の魔女と猫。
「ねぇ、ご主人様。もしかして、あの冒険者さん。ご主人様の名前を知らにゃかったなんて事は……」
「馬鹿だな、ツバキ。私は超有名な魔女なんだぞ。そんなこと、あるわけ無いだろう。あっはっは」
「だよネ~。ニャンニャンニャン」
こうして黒猫ツバキと魔女コンデッサは、楽しく我が家へ帰っていったのだった。
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♢以下、後書きです。
「ねぇ、ご主人様」
「なんだ? ツバキ」
「今回の宿題のお題は『主人公の名前を出すタイミング』にゃんだよネ? このお話の主人公って、アタシにゃんじゃ……?」
「違うぞ。主人公は私だ」
「でも、アタシとご主人様が登場する短編のタイトルには、必ず『黒猫ツバキ』というアタシの名前が入ってるニャン」
「ツバキ。よく考えてみろ。『ドラ◯もん』の主人公は誰だ? 〝ドラえ◯ん〟じゃ無くて〝の◯太〟だろ? それと同じことだよ」
「ニャン。確かに、グータラ主人公を万能な猫(型ロボット)がサポートする展開って、アタシたちの短編と『ド◯えもん』とでは共通してるけど……」
「誰がグータラ主人公だ! あと〝万能な猫〟など、シリーズのどの作品にも登場しないぞ。〝無能な猫〟なら毎度、居るがな」
「ニャ~!!!」
タイミングの工夫については……『話を引っぱって、そのあとに、さりげなく主人公(コンデッサ)の名前を出す』という形にしてみました。
※この短編に限ると、冒険者の男が主人公っぽくもありますね……(汗)。ここから『魔女コンデッサのモンスター退治・無双物語が始まる(ツバキは見てるだけ)!』ということにしておいてください(ペコリ)。
あと、ツバキにはドラえも◯と違って〝四次元ポケット〟はありませんが、〝異次元ボケツッコミ〟があります(爆)。