黒猫ツバキの主従逆転
作品①冒頭部分をインパクトがあるものにする
人類は猫に降伏した。
♢
魔女や妖精やモンスターが暮らしている、地球とは異なる世界。『ボロノナーレ』という名の王国がある。
ここは、王国の端っこにある村。……の隅っこにある、魔女コンデッサのお家。
コンデッサは、20代前半の美貌の魔女。
猫のツバキは、コンデッサの使い魔である。まだまだお子ちゃまなメスの黒猫だが、魔女の使い魔なので、人間の言葉が話せたりする。
ツバキが、コンデッサへ言う。
「人類さんは、アタシたち猫に降伏したのニャ」
「そうか」
「そんにゃわけで、ご主人様とアタシの立場は逆転しちゃったのニャン」
「ほぉ」
「これからはアタシが〝ご主人様〟に、ご主人様がアタシの〝使い魔〟になるのニャ」
「それは構わないが、だったら、この先はズッと、ツバキが私の衣食住の面倒を見るんだぞ」
「……にゅ? しなきゃ、ダメ?」
「当然だ。使い魔の生活の保障は、主人の義務だからな」
「でも、アタシは衣の面倒は見てもらってないニャン」
ツバキは常時、素っ裸である。猫なので。
「……まぁ、衣は置いといて、住と食の提供はシッカリとしてくれよ」
「住は今のお家があるけど……食って、朝昼晩の3食?」
「うん。食は、健康の基本だからね。使い魔が快適で楽しく、無病息災で元気に勝手気まま、やりたい放題に過ごせるようにする――主人の役目とは、そういうものなんだ」
「アタシ、そこまではしてもらって無いニャン」
「何か言ったか? ツバキ」
「何も言ってないニャン。……3食は全部、煮干しでOK?」
「NG」
「…………」
「…………」
「……アタシ、やっぱり使い魔のままで居ることにするニャン。『ご主人様は、ご主人様で居てください』なのニャ」
「分かった」
♢
「で、ツバキは、どうして『人類は猫に降伏した』なんてアンポン譚を言い出したんだ?」
「バンコーコ様が、お友だちの魔女さんと話していた時、そんにゃコトを口にしていたのニャ」
「へぇ~」
バンコーコはコンデッサと仲の良い、同年代の魔女である。
「バンコーコ様はグ~タラなご主人様と違って、立派な魔女様にゃんだから、嘘をつくはず無いニャン」
「ふ~ん」
ツバキはコンデッサにお仕置きされた。
♢
後日、コンデッサはバンコーコに会った際に、彼女へ尋ねた。
「……という出来事が先日あったんだが、本当にそんな話をしたのか?」
「ああ。それは友人が『猫の可愛さには、参っちゃう』と言ったから、冗談めかしに『人類は猫ちゃんに全面降伏ね』と言葉を返したのよ。ツバキちゃんは我が家に遊びに来ていて、たまたま、その会話を聞いちゃったのね」
「なるほど」
納得しているコンデッサへ、バンコーコが語りかける。
「私の意見に、貴方も賛同してくれるでしょ? コンデッサ。ツバキちゃんも可愛いしね~」
「…………まぁな」
「猫ちゃん達の可愛さの前に、私たち人類は手も足も出ない。これは、降参不可避!」
「まさに『幸福な降伏』だな」
そう言って、コンデッサとバンコーコは笑い合った。
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♢以下、後書きです。
◯ツバキとコンデッサの会話・その1
「『そこにあったのは〝ちっちゃいの〟だった』――これこそ、〝インパクト〟がある冒頭部分ニャン」
「〝ちっちゃいの〟……それは『インパクト』じゃ無くて『コンパクト』だ」
◯ツバキとコンデッサの会話・その2
「ご主人様~♪ 『使い魔が快適で楽しく、無病息災で元気に勝手気まま、やりたい放題に過ごせるようにする』――それが、ご主人様の務めにゃんだよね?」
「誰が言ったんだ? そんな寝言。初耳だぞ」
「ニャ~!!!」
本文パートが1200字です。
本作は『他の「黒猫ツバキシリーズ」とは無関係!』という設定で書いています。なので冒頭は説明部分が多くて……インパクトは最初の一文にかかっていますね(汗)。