流音の本心
「行った、か。」
廻理が出た後私は膝を着き、乱れそうな息を整え、何とか声を振り絞りそう告げた。
「流音、無理し過ぎじゃない?」
中々の一撃だった。
一瞬意識が飛び、虚勢を張り続けたがかなりキツかった。
でも効いたなぁ。カイ君の一撃も、言葉も。
『姉さんをこれ以上傷付けたくない』か…記憶を失くしてもカイ君は照れ屋で優しいカイ君のまんまだった。
「無理は承知よ。だが廻理が彼処まで化けるとは思ってなかった。死にかけて能力が跳ね上がったとしか思えない。」
あれは恐ろしい成長ぶりだ。
この私が息が上がり、立ち上がれない程に苦戦するとは…
我が弟ながら末恐ろしい。
今のカイ君は6位の私並みに力を持っているという事になる。
「〈部分覚醒〉…ね。でもあの理論は未だに判明していない小ネタの様な論文よ。それも実例は少ない。」
地方でごく少数ではあるが、部分覚醒したという報告は上がっている。
私だってそうだ。
〈加速〉と〈重撃〉だけの平凡な能力だったがある時を境に進化し、更には新たな恩寵が開花した。
両親や親友である麗愛にも共有していないこの恩寵は私の隠し球だ。
知るのは先生と記憶を失う前の廻理のみ。
今では先生だけか。
そう言えば恩寵が開花したのも廻理が絡んでいたっけか、ふふっ…懐かしい。
いつか機会を見て麗愛にも公表しなくてはならないな。親友を欺き続けるのも正直辛い。
だが今ではない、か。
「だがそれ故に実に夢があって良いじゃないか。先生も言っていたではないか。人の可能性は無限大。恩寵は常に進化し続けている、と。」
「葉倉先生ね。部分覚醒論を提唱した葉倉教授の娘さん。ただの受け売りじゃないかしら?」
麗愛の言葉に私は一つ頷くと漸く動くようになった体を動かし、ゆっくり立ち上がる。
「ふぅ…やっと落ち着いた。これから先生の言葉を確めてみようじゃないか。確か麗愛はA組の担当だろう?私はB組、どちらかのクラスに廻理は必ず入る。多分近親者の私じゃなくて貴方が受け持つA組に入る筈よ。」
「その可能性は高いわね。仕方ない、可愛い未来の当主様の青春を一番近くで観察するわ。流音の代わりに…ね?」
「ぐぬぬ…」
悔しがる私を尻目に麗愛は訓練所を後にした。
悔しい…!
これは英雄連と桜峰に直訴してでも何とか私のクラスにカイ君を確保しなければ…!