模擬戦決着
「どうしたヴィラルド?そんなモノか?お前の信念とは。こんな脆弱な奴の信念など…何ッ!?」
「ふぅ…やっと呼吸が…!分かった、姉さんの言ってた事全部理解したよ。下手したら大怪我処じゃないから避けてくれ。最終奥伝が一ぃ…!〈災禍乃鷲獅子〉ッッ!」
鷲の頭と翼、鉤爪にライオンの胴体。
幻獣と呼べる類いの生物で死の届け人だ。
俺はそのグリフォンそのものに変化した。
両手を前足として背中には人間に備わっていない白の大翼がはためいておりその体躯を空へと浮き上がらせた。
「美しい姿だ。ならばーーはぁッ!!何ッ?!」
強化された四肢の跳躍によって整備された訓練所の床をを抉り空中へと躍り出す。
風を捉え一本の矢のように姉さんの軸足である左足へ爪撃を放つ。
これが何とか掠り傷ではあるが当たる。
やっと一撃、でも向こうは軽傷。
こっちは解除まで秒読み…だが活路はある!
「抜けた鷲羽を自由に扱えんだーーよッ!」
白羽は姉さんの視界を一瞬だが塞いだ。
だがその一瞬が命取りだ。
懐に飛び込み握りしめた鉤爪を腹に放つと姉さんの身体が宙を浮き、壁に叩きつける。強固な作りの壁を揺らし一部が大きく崩れ始める音が俺には聞こえる。
「姉さんすまないーーおしまいだッ!!」
白羽が姉さんを覆うように舞い、俺は千載一遇の好機を逃さず背後を取りその首筋に鉤爪を添えた。
もう時間制限ギリギリだ…これで終わってくれ…!
「もう…降参してくれよ。姉さん。」
それが俺の本音だった。
姉さんの顔は息も切らし満身創痍兄弟同士で争う必要がなかった。
そこに正義はあるのか。
「降参?英雄連に九位の座を渡されたこの私が?何を言ってるのかしら、この子は…甘えた事抜かしてるんじゃないわよ!」
「甘いのは分かってる…でも姉弟で、例え模擬戦といってもこれ以上は殺し合いになってしまう。度が過ぎてるんだ!俺は姉さんをこれ以上傷付けたくないッ!!」
変身が解ける。気付けば頬には滴が伝っていた。
俺の心からの訴えに姉さんは理解を示してくれるだろうか?
「はぁ…私の負けね…!いつの間にこんな力を手に入れたのやら…廻理の力を認めましょう。行くのよね、桜峰に?」
「あぁ。もう時間もない、知識を頭に詰め込んでプロのヒロイックの教員に認められる様な実力も付けないとな。」
「実技はもう通った様なものよ。この私から一本取れたんだもの、並みのヒロイックじゃ相手にならないわ。それこそ理事長か《至高》くらいじゃない?それと私も桜峰に教員として赴任することになったから。一緒に学校通えるわね、カイ君?」
「え?そんな話聞いてないんだけど…どうして姉さんが桜峰に?」
「英雄連からの要請よ。それにカイ君、意地でも受けるんじゃないかと思ってお手伝いに来たの。今年の受験生…結構曲者が多いらしくてね?北海道には産休で休んでた前任の《グラビティ・ララ》が再任する事になってるし暇だから受けたのよね…」
また凄い名前が上がったな。
《至高》や理事長、《グラビティ・ララ》なんて序列1位2位と4位じゃないか。
姉さんは6位らしいけど、一年目でその順位は凄いと思うが。
「分かった。姉さんが色々教えてくれるなら大助かりだよ!ありがとう!」
「全くもう…!カイ君はやっぱりカイ君ね…あぁ血が繋がってなかったら今すぐ押し倒してたのに…!くぅッ…!」
「ならば私が代わりにーー」
「「それはダメだ!(ですッ!)」」
麗愛さんのボケに全力で突っ込む姉さんと灰猫たん。
いや、姉さんも押し倒すとか冗談だよな、さすがに…ねぇ?
「流音?少しは頭を使いましょう。姉は弟よりも上。そして弟は姉の支配下にあるのですよ?姉弟だからダメ…なのではなく、逆に考えるのです。姉弟だからこそ…と!」
「おぉ…!そうか…姉弟だからこそ。正に至言だな!よし、カイ君の部屋に行こうか!」
「よし、じゃねえよ!麗愛さんも悪乗りし過ぎだ。風呂浴びてくる!着いてくんなよ?」
俺は貞操に危機感を感じその場を離れる為に適当にそれらしいことを言うとその場を離れた。
灰猫たんが後ろからこっそり着いてくるのを感じながらも中浴室にでも向かうか。風呂が四つも有るなんてさすが華族だわ…!