姉さん
部屋で常識などの知識を蓄えるため勉強を終えた後、ベッドで寝転がりながらゆったりしているとノックが響いた。
灰音かな、とどぞ~、と軽めに答えると今にも泣きそうな顔をしたとんでもなくスタイルの良いビキニアーマーの金髪の美人さんと、
泣き黒子がセクシーな優しそうな顔の執事服を身に付けたお姉さんが俺の部屋に入ってくる。
その少し遅れて灰猫たんも来た。
「あぁ…私のカイリ。記憶を失ってしまうなんて可哀想に…これからはお姉ちゃんが一生養ってあげるから何も心配しなくて良いのよ?」
ぶはっ…い、息が!
乳圧で息が出来ないし鎧が硬すぎて痛い…腕をタップして離して貰おうと思ったけど逆に締め付けは強くなる一方。
んにゃろッ!俺は身体強化を発動し、後が残らない様にゆっくりと姉を名乗る者からの抱擁から逃れた。
「あら…?異能でも使ったのかしら。やっぱり記憶が失いのね…いつもなら避けて逃げ出すのに…可哀想に…」
「えっと…貴方が俺の姉…さん、ですか?」
「そうよ、カイ君。私は流音、こっちは私の執事のーー」
「ご無沙汰しております、廻理様。お記憶を失くされたとお聞きしております。自己紹介させていただきますね。天堂家二番執事の平原 麗愛と申します。」
「あ、ども。」
んー、我ながら緊張する。一人は実の姉…らしいのだがこんな美人に突然ハグされた挙げ句、紹介するとか言いながら流れるように背後に回られベッドに座ってその膝に俺が抱えられたらこんな反応にもなる。
それも一瞬の早業だ。
「うーん、困惑してますねぇ。可愛い~!」
「はぁ。」
俺の頭を撫で始める麗愛さん。どういう状況?
「麗愛、あまりカイ君をからかうのは止めたまえ!私のカイ君だぞ?私はお姉ちゃんだぞ!」
痛い痛い…姉上~?俺の腕は玩具じゃないですよー?
「いいえ!この子は私に懐いて居ましたもの。私のものです。貴方、いつも逃げられていたじゃない?」
麗愛さんまで俺の逆腕を引っ張り始める。執事服の谷間に肘が吸い込まれる。おふぅ…
「そういう麗愛こそ、過度な密着は遠慮してくれと言われて三日間凹んでいたではないか!その手を離せ!」
「うっさい、おっぱい女!」
「んなッ!麗愛、主君に向かって暴言を吐く等言語道断だ!そこに直れ!この妖怪乳無しめ!」
え?これ偽乳なの?麗愛さんも偽乳特選体の一員なの?
平原って特選体の養成所なの?
何か子供の喧嘩じみてきたな…そろそろ何か言おうかと思った頃。
「「ぐぬぬ…!」」
「はいはい、お二人ともそこまでです。全く、坊ちゃまの事になると熱くなりすぎる癖、どうにかならないのですか?一年後には成人するんですよ?弟離れをした方が良いのでは?いつまでもそのままならば坊ちゃまに愛想を尽かされますよ。」
見兼ねた灰音が俺の両手を引き剥がし背後に隠した。
これが男女逆転世界かぁ…
灰猫さんイケメンすぎる…!
「むかーッ!」
「きぃッー!」
「どうどう…っと、あ!そうだ。ねえ、流音姉さん。少し聞きたい事があるんだけど良い?」
「んんぅ?ど、どうしたんだカイ君?」
姉さん一流らしいし、一応聞いてみるか。
「一昨日記憶を失くした後、町の散策ついでに非常警報がなってさ、避難手伝いに行ったんだ。そしたら相手のボスらしき強欲級と戦ってたんだけど、追い込んだら全身の色が変わっちゃってさ。これってもしかして位階が変わったってことなのかなーって?一流ヒロイックの姉さんならなにか知ってると思って聞いてみたんだけーー」
「な?!……今なんと言った?記憶を失くしたと言うのに避難に参加した?それに飽き足らずボスと交戦しただと?…廻理、貴様は舐めているのか?」
姉さんの雰囲気が変わった。
先程までのほんわかしていた空気が無くなり重圧感のある眼光に変わりその目からは優しさや甘えというのが消えた。
これは少し真剣に対応しなくちゃマズいな…
「全部分かってる。分かってて行動してるんだ!救助に参加したのも、ボスと戦い自分を危険に晒しても俺は俺の信念を曲げない!そこに助けを待つ人が居るのならッ!」
「ほう…ほざく様になったな。ならばお前の持つ信念とやらを私に見せてみろ!鍛練場へ来い!」
まぁ…こうなるよな。
だけど姉さんに知って貰うべきだ、
俺の力を。
考えを。
覚悟を。
信念を!
受けて立つ!
俺は気を引き締め鍛練場へ向か…
「灰猫たん、鍛練場ってどっちだ?」
「はぁ…ほんと締まらない主ですね…フフ」
灰猫たんに笑われちったわ…




