六花のリーダーの実力
本日分最後です。
芽琉さんは少し離れると呼吸を整えた。
数回ジャンプすると頬を叩き沈黙。
お願いしますと拳を構えた。
「行きますッ!ふぅ…はっ!」
駆け出し接近すると拳を前に突き出す。
渾身の一撃に近いものを放つことが出来たがしかし、あっさりと躱されてしまう。
「んなッ?!どこだ!」
腕を引き、振り返るもその姿は見当たらず…どこに消え…後ろか!
「咄嗟の判断にしては上出来です。でもこれは躱せませんよ?」
くるん、とその場でターンしたかと思ったら肩に重い一撃を受ける。
何が起こった?
はっ…蹴りか!
一歩飛び退いて体勢を立て直す。
「私の歩法をこの一瞬で見抜きますか。中々筋が良いですけど…これはどうですか?」
少し距離を離したつもりが一瞬で詰め寄られ腹に蹴りを入れられる。
たまらず膝を着き息が乱れる。
「かはッ!…はぁ…はぁ…ま、だ…まだー!」
気合いで立ち上がる。
真白さんが立ち上がれるのか?!
と後ろで驚いているが今は芽琉さんに集中だ。
あの早送りみたいな速さと身軽さ、どう攻略するか…
幸い体格の小ささでそれほど深くダメージが入ってないのが救いか。
まずは捕まえないとな。
「どうします?もう止めときますか?」
「いえ、続けて下さい!」
「全く…貴方も、ですか。分かりました。行きますよ?」
ゆらり、と芽琉さんの体が揺れる。
来る!…右肩狙いか!ならば…!
肉を切らせて骨を断つ!
「んなっ!?廻理くん下手したら大怪我してますよ?」
「へっへー!やーっと捕まえましたよ。まぁ、肘が痺れてますが…俺の勝ちで良いですよね?実力、どう見ますか?」
「廻理くんの勝ちですよ。ふふ…そうですね、かなり分析力が高いです。それに思い付いたことを即実行出来る胆力、耐久力…並外れてますね。流音ちゃんより化け物ですよ?」
姉ちゃん以上の化け物と来たか…
嬉しいんだか嬉しくないんだか微妙な気分だ。
階段に座ると真白さんがスポーツドリンクを手渡してくれる。
粗野なイメージが強いけど、結構気遣いできるよな、真白さん。
「あはは…少し傷付くな…あ、下ろしますね。」
落ち込みながらも片足を掴まれてぷらーんと揺れていた芽琉さんをゆっくり下ろす。
「見ることには慣れてるんですよ。あの姉とそれ以上の天才である妹に挟まれて小さい頃から毎日しごかれてたら自然と観察眼が鍛えられましてね…たはは、自分の才能の無さを悔みますよ。」
「いえ…そんな事ありませんよ?廻理くん貴方は既にご兄弟より一歩、いやそれ以上桁外れの力があります。〈変身〉の異能でしたか?もしかしたらそれが作用している可能性が有りますね。」
「ほえ?〈変身〉ですか?けどあれは三十分しか持たないし、使い手の器によって強さが作用してるんじゃ?」
「もうひとつは〈身体強化〉でしたね?普通二つの異能を同時操作するには鍛練が必要です。昨日、護衛の話を受けミミックランドでの単独潜行の動画を見ましたが廻理くん同時操作してますよね?」
「え?あぁ、まぁ。姉ちゃんとか妹は普通に使ってますし。〈身体強化〉は効果を倍加したりしてますね。」
「倍加…?そんなの聞いたこともない!体への負担は大きいのでは?今現在〈変身〉出来る姿は幾つですか?」
えーと…アルテマにアニマ、ライカン、レックス、飛燕、ギルバート…あとヴォルフガンプか。
「ちゃんと専門家を付けてギリギリの所で留めているんで大丈夫ですよ、変身出来るのは7つですね。やろうと思えばもっと増やせると思いますけど。」
「なな…っなな…つですかー?んーと…廻理くん、〈変身〉って普通、一つしか出来ないものなんです。それも効果時間は3分前後と廻理くんはその十倍で…やっぱり天道家って化け物揃いですね…」
「そ、そうなんですか…」
「異能を使い続けることによってその人の身体能力は僅かながらも向上していきます。謂わば経験値と言った物でしょうか。何か身に覚え有りません?」
「んー、特には…」
「ハッハー!坊主が自分の異常性に気付いた所で次はあたしと勝負だ!能力ありのマジバトルだ…ってぇ…何すんだよ、芽琉!」
「真白ちゃんのお馬鹿ぁ!プロと学生が制限無しの手合わせなんて止めるに決まってるでしょ!こんな河川敷じゃなくてきちんと設備が整った場所でやるべきだし、協会に届け出を出さないとライセンス失効になるよ?!」
「ハッ…!そうだった…チェッ…なんだよ、坊主といちゃつきたかったのによぉ…」
いちゃつきたかったって真白さん…多分それ、殺し合いって書いていちゃつくって読むんじゃないでしょうね…?
「まぁいいや。んじゃあ、芽琉と同じルールでやろうぜッ!」
「分かりました…っとと…あ、すんません。」
あー、さっきの一撃のダメージが残ってるぽい?
ふらっと一瞬体が揺れて真白さんに慌てて掴まれた。
「わりぃわりぃ、さっきの芽琉の重震のダメージが残ってるぺぇな…よぉし、坊主!あたしに背負われるのと抱っこされんのどっちが良い?」
「ふぇッ?どっちか…ですか?自分で歩けますけど。」
「いんや、あの芽琉の重震って技な。内臓とか脳を揺らして攻撃すんだわ。中国の発勁みたいなやつだ。見た目に変化はないが内部がボロボロになってる可能性があるうちの由利菜に見てもらった方がいい。んで、どっちだ?」
前か後ろか…ごくり…と唾を飲み込む。真白さんのたわわが目にちらつく。
いや、15になって抱っこは不味いだろ。
世間的に殺されるわ!
苦虫を噛み潰したような顔をしながら背中で…と伝えた。
次回投稿は27日12時を予定しています




