088 深夜食堂
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ノブレス学園の食堂は夜遅くまで食べられる。
なぜなら俺たちは日々、座学はもちろん、実践を想定した厳しい訓練を行っているからだ。
普段から優秀な生徒でも夜遅くまで勉強したり夜中訓練室に籠る奴は多い。
それをわかっているからこそ、ノブレスは人員を割いて夜中まで食堂を開けてくれている。
そうはいっても、俺たちは思春期だ。
この世界でも太るという概念はある。
シンティアなんて、一定の時間を過ぎると一切食事を取らない。
贅肉は、淑女としてよくありませんわ、とかなりのプライドを持っている。
ちなみにリリスはあまり気にしてないが、太ったことがないという。
俺は元々食べるのはそこまで好きじゃなかった。
フルーツは昔から好物だったが、人生でそんなに美味しいものに巡り合えなかったからだ。
だがノブレスで遅くまで特訓していると、否が応でも腹が減る。
そして生徒たちはいつしか『深夜食堂』と名称で呼ぶようになった。
なぜなら夜中だけの限定メニューもあり、その為に無理をして起きる生徒もいるという噂だ。
学生としてどうかと思うが、俺も気持ちはわかるようになってしまった。
いつものように日課の特訓を終え、汗をシャワーで流し、シンティアにバレないように食堂へ移動する。
結構怒られるからだ。あなたたの為を想っているのです、と言ってくれているが、俺も男の子だ。
食堂は三学年合同だが、そもそも生徒数が多くないので、深夜に見かける人は大体固定されている。
そしていつものように食堂への曲がり角を曲がったとき、柔らかいものが顔面に当たる。
いや、押しつぶされたというのが正しい。
むにむに、むにむに、非常に柔らかナニカだ。
「あ、えあ、ご、ごめんなさい。って、ヴァイスくん!?」
近すぎてナニカ、いや誰かわからなかったが、少し離れてみるとエレノア先輩だとわかった。
なるほど、たゆんだったか。
それにしてもいいたゆんだ。魔物は体積で魔力量が変化する。
もしかすると、たゆんにもそれが適応されているのかもしれない。
カルタしかり、タユノアしかり。
ミルク先生もなかなかのたゆんだ、その可能性はありえる。
いやでも、シエラは違うか。
「ヴァイスくん? 聞こえてる?」
「――あ、こちらこそすみません。それより急いでどうしたんですか?」
「え、え!? いや、その、あれちょっとね!? ――ぐぅ」
その瞬間、エレノアはお腹の音で答えた。
なるほど、深夜の限定メニューを食べにきたのか。
そういえば、見た目通りの食いしん坊キャラだったことを思い出す。
アレンがいないシーンは必然的に描かれることがないので、俺も知らなかったが、こうやってしっかりとキャラ付けしていたとは。
そして何を考えたのか、エレノアは左右をチラチラ見た後、俺に耳打ちしてきた。
ちなみにエレノアの声はとても良い。原作でも声が良すぎて発狂する人がいたくらいだ。
確か限定ASMRみたいなのも出ていた気がする。
普段は声高い感じだが、落ち着いたときのウィスパーボイスは、なんというか、こう、甘い感じだ。
「――お姉ちゃんには、秘密ね」
秘密という単語、エレノアめ、そうやって人を惑わせるのだな。
――いや、ただの天然か。
「もしかして……怒られるんですか?」
「え、あそうなの……太るでしょって言われて……」
なるほど、俺と同じなのか。
静かに頷き、俺たち闇同盟は食堂へ向かった。
さすがにこんな時間に戦いませんか? と挑むほど非常識ではない。
今はオフだ。
すると、学生たちが俺たちを見て話しはじめた。
いや、エレノアを見ていた。
「お、おい、深夜の帝王が来たぞ」
「ほんとだ。あれ、二人?」
「手下にヴァイスを従えたのか。さすが闇同士だな」
こそこそ話していても俺には聞こえる。
てか帝王……? というか、手下?
ぶち殺そうかと思ったが……深夜ノリもあるだろう、許してやるか。
食堂にはまばらに人がいた。
俺たちは先に絵付きのメニューを眺める。
日替わりで変わるので、チェックが必要なのだ。
「はうー、どれも美味しそうだねえ、ヴァイスくんっ」
エレノアの言う通り、今日のメニューは確かに当たりだった。
夜らしかぬガッツリ揚げ物定食、月一回しか出ないラーメン風の麺類、適度なスパイスが癖になるカリー。
しかしこのラインナップはシンティアに怒られるだろう。
すると俺は、エレノアとシンクロしていたらしい。
二人で、何かに怯えて左右を確認していた。
「なんかあの二人怯えてないか?」
「闇属性特有の特訓とか?」
「なるほど、常に誰かに視られてるみたいな制約があるのかな?」
クソ、これでは俺の印象が悪くなってしまう。
早いとこメニューを決めるか。
「俺は麺にしますよ」
「じゃあ、私は唐揚げ定食とカリーにしようかな。そのほうがかぶらないし、いいよね」
被らないほうがいいか?
ひとまずスルーしておいた。
注文を頼むと、さすがノブレス、すぐに出てくる。
いつもの窓際の席に座る。外は暗くて見えないが、星が綺麗だ。
しかしなぜか当然のように、エレノアがルンルンで着いてくる。
たゆんたゆんたゆん。
「この席いいねっ、ありがとう」
「あ、いえいえ」
なんか俺がいい席取りましたみたいになってないか?
周りもなんか、流石闇後輩だぜ、みたいなことを言ってる気がする。
適当な相槌を打ち、麺に目を向ける。
綺麗な白い湯気だ。醤油ベースのほのかな香りが鼻腔を擽る。
最初はスープからだ。いきなり麺だなんて、素人のやること。
ゆっくりとレンゲですくい、醤油と麺の絡み合った風味を噛み締める。
ああ、これだ、これ、これだ。
深夜はなぜかより美味しく感じる。贅沢な味わいに、俺は感動を覚えた。
続いて麺とチャーシューのようなナニカを、レンゲの上に丁寧に乗せていく。
なぜだろうか、いつもミニ麺を作ってしまうのだ。
そしてゆっくりと麺をすする。丁寧なもちもちとした触感が、俺の心を穏やかに、そして幸せにしてくれた。
「おいひい、おいひいねえ!」
視線を前に向けると、エレノアが左手に唐揚げ、右手にカリーという器用な食べ方をしていた。
これはこれで凄いのだが、さすが食いしん坊だ。
そしてエレノアは、「あ、ごめんね」となぜか謝罪する。
スプーンに唐揚げを載せて、俺の口に運んできた。
先に「一口食べる?」と言われれば、「いや、大丈夫です」と反射的に答えただろう。
だが口の手前、唇に触れるか触れないか状態で「どうぞ」と言われれば、なぜか口が自動的に開いてしまい、食べてしまう。
しかし――。
「……美味しいです」
「だよねだよねえっ」
満面の笑み、周囲で俺たちを見ていた連中に、俺は睨みつけた。
反射的にやってしまったが、わざとではない。
ちくったら殺す、そんな感じだ。それをわかってくれたらしく、生徒たちは目を逸らした。
しかし何ともまあ無害な笑顔で幸せそうだ。
とても大会で敵の顔面をボコボコにしていたとは思えない。
とはいえ俺はウィッチ姉妹の過去を知っている。
あれを考えると、今はとても幸せなのだろう。
「あ、ねえねえヴァイスくん、私も一口もらっていいかな?」
そういってエレノアは、犬のように尻尾を振り、スタンバイ。
しかしここで恩を売っておけば、いずれ戦う口実にもできるだろう(知らんが)。
ミニラーメンをせっせとレンゲの上で作ると、それを口に運ぶ――。
「どうぞ、先輩」
「美味しそうぉおお」
そして――。
「あら、随分と楽しそうじゃない? エレノア」
「そうですね、ヴァイス」
後ろから二人の女の声がした。
聞き覚えのある声、エレノアは、マジで今日死ぬって顔をしていた。
「お、お姉ちゃん……なんでここに……」
「勘」
おそるおそる振り返ると、そこには当然、シンティアがいた。
「な、なぜここに」
「何となくですわ」
完全に死んだ、そう思った。
そして二人は俺たちの横に座る。
大きなため息をつき――。
「ま、いつも口うるさくいってたらあなたもしんどいわよね。ほら、私にもよこしなさい」
「え、えええ!? いいの!?」
「その代わり、明日は節制しなさいよ」
「ええ、それはちょっと……」
「そこは、はいでしょ!」
小さいながらも迫力があるシエル。うーん、こうしてみると姉感がある。
いや、それより――。
「シ、シンティア、ど、どうしたの?」
「ま、色々言いたいことはありますが、今日は見逃してあげますわ。いつも頑張りすぎですからね、あなたは」
満面の笑みで、俺を許してくれた。
状況的には完全にアウトだが、やはり彼女は優しい。
「そのかわり、私にも一口いただけますか?」
「え、食べるのか? 今、夜だぞ?」
「たまにはそういうのもありですわ」
「……ま、そうかもな」
俺たちは生死をかけた戦いをしているが、学生だ。
たまには怠惰な生活をするのもいいだろう。
「あー、こんなとこにいた! ズルいです!」
するとリリスが入口から走ってくる。
何となくそんな気がしていたが、やはり彼女も勘が鋭い。
そしてリリスは、モリモリのから揚げ定食を頼んだ。
「お姉ちゃん、食べすぎだよー!? 私のがなくなるよー!?」
「私はもっと食べなきゃダメなのよ。あなたはそこ栄養がいくみたいだけど」
そういって、シエルはエレノアのたゆんたゆんを掴む。
うーん凄い。
流石ノブレスだ、サービスシーンを忘れない心がある。
「ヴァイス、それは許しませんわ」
「すみません」
まあでも、たまにはこんな日も悪くないな。
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