085 決着
ノブレス・オブリージュでは魔力量が絶対正義だ。
シエラは、原作でもトップクラスの魔力を保有している。
幼い見た目からは考えられないほどの研鑽を積んでいるのだ。
そしてその膨大な魔力を豪快に使った高速魔力移動と腕力から繰り出す、視えない鎌攻撃。
気づけば気絶。それが、死神の鎌の由縁。
閃光のおかげでなんとか追えているが、彼女は雪なんてものともせず高速で移動していた。
俺が同じ真似をすれば、すぐに魔力切れを起こすだろう。
こればかりはミルク先生も言っていたが、時間をかけて増やしていくしかない。
だが俺も、遊んできたわけじゃない――。
身体強化を詠唱し、シエラの行動を予測して先回りする。
だが移動の為に詠唱したわけじゃない。魔法を先回りさせて、追撃する前準備だ。
「不自然な壁――」
「――ふぇ!?」
高速移動していたシエラが、俺の見えない壁にぶち当たり動きが止まる。
やっぱりだ。さすがに急な方向転換は難しいのだろう。
その瞬間を見逃さず、遠慮なくシエラに振りかぶる。
だが無茶な体勢にもかかわらず、シエラは片手に持った鎌だけで攻撃を防いだ。
俺の剣は軽くない。華奢な腕で受け止められるとは思えない威力だが、予想以上だな。
「あぶなかった……――え!?」
「――デビ!」
だがそれだけじゃない。デビが後ろから魔法砲を放つ。
回避行動を取るならその隙をついて攻撃を当ててやる。
さあ――どうするシエラ――。
「なるほどね、いい連携技ね」
しかしシエラは軽く笑みを浮かべながらくるりと回転し、なんと魔力を漲らせた後ろ足でデビの魔法を視ずに吹き飛ばした。
ありえない。確かに理論上は可能だが、魔法を防ぐには繊細な技術が必要だ。
それを足で? それも視認することもなく?
はっ、化け物だな。
「デ、デビ!?」
「ふふふ、悪い悪魔ちゃんね」
そしてシエラは、気づけばデビの後ろを取っていた。
次の瞬間、問答無用で切り裂く。
「デ、デビビビビ……」
思わず俺は剣を強く握りしめる。
「また遊ぼうね」
デビは不死身だ。それを知っているのだろう。
だが復活するには膨大な魔力を使う必要がある。
なるほど、闇の妹を持っているのだ。デビの不死身の性質については周知なのか。
それでも躊躇のない攻撃は、賛辞に値する――。
「闇の雨」
天から降り注ぐ闇の雨を出し、俺は駆ける。
シエラに当たればダメージで、俺にはただの回復魔法だ。
本来は大人数相手だが、一対一でも有効。
「ふうん、戦いなれてるのね」
「ああ、それなりなッ!」
だがシエラは鎌を空に掲げ、振り回して雨をすべて弾き飛ばす。
そして次の瞬間、鎌を俺にぶん投げてきたやがった。
閃光で遅く視えているが、それでも――速い。
剣で弾き返すも、糸が繋がっているかのようにシエラの手元に戻っていく。
おそらくシャリーの魔力糸のようなものを付与しているのだろう。
「……凄いね、初見でこの攻撃を避けたのは、君がはじめてだよ。――ヴァイス。ファンセント。私、忘れっぽいんだけど、君の名前はしっかりと覚えたよ」
原作のウィッチ姉妹はあまり表舞台に出てこない。アレンとは違う学年だということで焦点がそこまで当たってないのだ。
といっても、重要な物語では必要不可欠だが。
だがこの攻撃も俺は見たことがなかった。
おもしろい、やはり上級生は、一味も二味も違う。
「お姉ちゃん、もうやめてよ!? 今の当たってたらどうするの!?」
「さあ? でも、久しぶりに面白いのよッ!」
それから俺とシエラは、何度も攻撃を仕掛け合った。
だがどれも有効打にならない。
お互いに一撃を食らえば終わりというルールの上だからだろうか。
だが俺は、奥の手を隠していた。
というか、使えなかったのだ。
縦横無尽に駆けまわる高速移動のシエラ相手に使えば、無駄撃ちになる可能性があったからだ。
――癒しの加護と破壊の衝動。
いつもは初手で行っているが、本当の真価は疲れきった後半だ。
地面に積もった雪が黒く染まっていく。
それを見て、シエラは笑みを浮かべる。
次の瞬間、俺の身体にシエラの莫大な魔力が舞い込んできた。
高速移動ができるほどの魔力を保有しているのはわかっていたが、予想以上だ。
気づいたエレノアは建物の上部に避難している。
「第二ラウンドですよ」
「ふふふ、これはたしかに負けちゃうかも」
俺は高速で移動し、シエラに一撃を入れようと近づく。
そして最近ずっと封印していた、鞭を左手に装備していた。
魔法剣に慣れる為、控えていたのだ。
そっとシエラに触れらせた瞬間、魔力を乱す。
彼女は魔法が一時的に使えなくなったのだろう。おどろいて体勢を崩す――。
「なっ!?」
「――じゃあな」
だが――。
「そこまでだ。これ以上は教員として見過ごせないな」
だがその時、割って中に入ってきたのは、ミルク先生だった。
いつのまに……集中していて気付かなかった。
「……いつから見てたんですか」
「少し前からだ。見応えはあったが、これ以上は危険だと判断した。――シエラ、お前は先輩だろう。対抗戦でもないのに下級生と戦うのはダメだとわかっているはずだ」
「えへへ、すみません。ちょっと盛り上がりすぎちゃいまして」
「ヴァイス、お前もだ。先輩を敬え。それに――昼休みはもう終わってる」
「……すみません」
俺は魔法陣を解除する。後ろでは、エレノアがホッと胸を撫でおろしていた。
確かにこれ以上は訓練の域を超えていたのかもしれない。
ミルク先生は、ほのかに笑みを浮かべて、その後――『ゴンッ』。
「い、痛っ!?」
「痛くない」
俺の頭部に魔力を込めた拳で一撃。
いやかなり痛い。防御耐性は上がっているはずだが、それを考慮した上で絶妙な魔力を込めたのだろう。
く、なんで俺だけ――と思っていたが、ミルク先生はシエラ先輩にも頭をゴツン。
ああ、男女容赦ないんだ。
「な、なんで!? い、痛い……!?」
「両成敗だ」
それをエレノアは見ていたが、ミルク先生には手を出さないらしい。
ああ、結構その辺はしっかりしているのか。
エレノアが近づいてくると、シエラはたゆんたゆんたゆんにダイブ。
「つかれたよー」
「よしよし、頑張りましたねお姉ちゃん」
相変わらずの姉妹逆転、本当にシエラが姉だよな?
しかし最後の一撃でさすがに俺が勝っていた。少しは俺も自信を――と思っていたが、シエラが俺を見て笑みを浮かべた。
「残念、もう少しだったのになあ」
「……よくいいますよ。俺の攻撃が当たっていたはずです」
「ふーん、そう思うんだ?」
なんだ……この余裕の笑み。
もしかしてあの状況から、何か奥の手があったというのか?
「どういう意味ですか?」
「必殺技ってのは、秘密にするものよ」
あの体勢から繰り出される技?
原作で見た事がない改変が、あるというのか。
だがそれ以上何も言わず、エレノアとシエラは去っていく。
何だ、一体何が……。
「気にするな。ったく、お前に何かあるとドヤされるのは私なんだ。気を付けろ」
「ええと、はい……」
それもそうか。
いやでも、元をたどれば待ちぼうけを二度もくらった俺よりシエラのほうが悪くないか?
いやでも、後輩として俺も生意気だったか……。
「まあでも、成長したな。ヴァイス。いい動きだったぞ」
そんなことを考えていたら、ミルク先生が前を向いたまま驚きの言葉を放った。
俺は……強くなっているのか。
「だが魔法に慣れすぎて剣術が甘い。このまま訓練室直行だ、朝まで鍛えてやる」
「……え? 授業は?」
「私の権限でサボらせてやる」
言っていることがめちゃめちゃだ。
もうヘトヘトだが、わがままなんて許されないだろう。
ああ、俺も30分後とか言いたい、そのままベッドにダイブしたい。でも殺されるからやめておこう。
だがシエラの高速魔法はかなり勉強になった。
術式は複雑だが、いつか使いこなせるようになるだろう。
最後の攻撃を防がれていると考えるのなら、俺はまだ弱いのかもしれない。
次は必ず――完膚なきまでに勝ってみせる。
上級生棟、ウィッチ姉妹の部屋。
その夜、シエラが、エレノアのたゆんたゆんに埋もれながら、涙を流していた。
「よしよし、そういうときもありますよ」
「完全にやられてた……下級生に……」
シエラは極度の負けず嫌いである。
それも後輩に負けたとなれば、プライドはズタボロ。
必殺技なんて、あるわけがなかった。
「ぐすん……ヴァイス、みてなさいよ。今度は絶対私が勝つわ」
「お姉ちゃん、もう少し先輩らしくしたら……」
「したわよ。ちゃんとカッコつけたわ」
「それただの嘘……」
「でもちょっと……最後のヴァイスは格好良かったわね……」
「え、お姉ちゃんもしかしてそれって?」
「ち、違うわよ!? ちょっとだけよ!?」
「顔、凄く赤いよ?」
ヴァイス、知らぬ間にいろんな意味で完全勝利。
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