068 迷い
「ヴァイス、どうしますか?」
「残り時間を考えると大胆に動く奴らが出てくるだろう。そこを叩く。今は待機だ」
「私は、後方を警戒してきます」
漆黒の訓練服にまとったリリスが、俺とシンティアから離れていく。
『制限時間、残り10分、制限時間、残り10分』
魔法鳥が叫び、そして周回している。
いま俺たちは、ノブレス魔法学園の訓練場、廃墟の家や建物が立ち並ぶ場所にいた。
元々は小さな町だったらしいが、学園長が特殊な魔術を施し、破損したとしても時間経過で自動修復していく永続魔法をかけている。
早い話が実践を想定した街での戦闘テストだ。下級生の後半になってくると、こういった形式の戦いが多くなる。
国の戦争は野外で起きることが多いが、冒険者や犯罪者が多いこの世界では、街での戦いってのは否応なしに降りかかってくる。
随分と前、俺が実践テストでブータン三兄弟に絡まれたときがまさにそうだ。
といっても、あの時は俺から喧嘩を売ったようなもんだが。
『アレン隊、ビーフィー隊を撃破、ポイントの移動があります』
そのとき、上空の魔法鳥が声を上げた。
隊、というのは今この訓練が三人一組で行われているからだ。
ノブレスでは個人戦をチーム戦と交互に訓練させていく。
効率がいい上に、仲間意識も強まる。
俺の隊は、シンティアとリリス。アレンは当然、デュークとシャリーだ。
ポイント首位は俺たちだ。シンティアは氷剣を習得してから無敵に近い。
リリスもぐんぐんと強くなっていた。
だが、そんな俺たちに猛追してくるチームがいた。
そのとき、後ろにいたリリスから殺気を感じる。
正しくは魔力を漲らせているのだが、俺たちに伝えているのだ、獲物がいると。
「行くぞ、シンティア」
「はい!」
後方に駆ける、リリスの視線の先では、戦っている下級生たちがいた。
ポイントが欲しくて焦っているのだろう。
俺は厄災を終えて戦術を学ぼうとしていた。目の前の敵を倒すだけでは、これから先生き延びることはできない。
先手、それはもちろん大事だが、時には後入りも必要だ。
「今だ、行くぞ」
俺の指示で、リリスとシンティアも駆ける。
視界外からの一撃、俺は下級生の一人を堕とす。
続けてシンティアとリリスが残りを倒そうとしたが――。
「ハアァッ!」
遥か上空から、カルタが魔法砲を放った。それが下級生にヒットし、魔力が漏出。
間髪入れず現れたリスのピピンが、残った一人を倒した。
「ちっ、奪われたか」
視線の先、廃墟の屋上で、眼鏡をかけた女が、俺に笑みを浮かべていた。
隊員が倒したポイントはチームで分けられる。
二人の隊は――。
『セシル隊、フィズ隊を撃破です。現在二位』
セシル率いる、カルタとオリンの三人組だ。
厄災を経て彼女は原作と大きく変わりつつある。
修学旅行中ですら戦略の本を読んでいたこともそうだが、やる気に満ち溢れていた。
カルタは飛行魔法から放つ凄まじい威力の魔力砲、そしてオリンもデーモン戦で自身の無力が悔しかったらしく、使役できる魔物の限界を常に超えようとしていた。
それを支えるセシルの頭脳は当然凄まじい。
個人戦において俺は無敗だ。だからこそセシルは、真正面から攻撃を仕掛けてはこない。
離れたり近づいたり、厄災もそうだったが、戦いってのは混戦している。
よーいドン、なんてものはなく、逃げたり離れたりを繰り返したりするものだ。
俺は今まで、自分さえ強ければ制覇できると思っていた。だがそんなことはなく、戦術においても俺は最強を目指さないといけない。
もしかするとあいつらの隊は、下級生で一番バランスが取れているかもしれない。
「ヴァ、ヴァイス!?」
「――じゃあな」
残り一人は俺が仕留めたものの、これで時間が終了した。
『ヴァイス隊、一位、セシル隊、二位、アレン隊、三位』
結果だけ見れば俺たちの勝利だが、おそらく僅差だろう。
このままいけば超えられるのは間違いない。
そんなことは断じてさせない。
だが俺は嬉しくもあった。
強くなればなるほど乗り越えがいもあるし、それ以上に頼りになるからだ。
まァ、俺以上に気にしている奴らもいるが。
「負けた……僕のせいだ……」
「いやアレン、俺のせいだ……俺の筋肉が育ってないから……」
「私がお荷物のせいよ……」
いつもの三人組。
アレン、デューク、シャリーだ。
……頼むから反比例して弱体化するなよ、お前ら……。
「彼ら……大丈夫でしょうか?」
「気にするなシンティア。すぐ復活するだろう。武器もまだ隠してるみたいだしな」
あいつらが夜な夜なコソ練していることは知っている。
古代魔法具の使用は許可されているが、まだ使いこなせていないのかテストで出してこない。
かくいう俺もまだ引き出せているとは思えない。
攻撃力は上がったが、この武器特有の使い道がまだわかっていないのだ。
俺は手元の魔法剣に視線を向ける。
漆黒の剣、光に覆われている最強の剣。だがそれだけだ。
『お前だけの武器を増やせ』とミルク先生はいつも言っている。
剣に慣れるため、鞭の使用は控えているが、圧倒的な何かがほしい。
その為には、もっと訓練しなきゃいけない。
少年漫画の主人公とまでは言わないが、必殺技のようなものを求めているのかもしれない。
……そう都合よくあるわけないが。
訓練を終えて夕方、何気なく校庭を歩いていた。
ノブレス魔法学園は景観が綺麗だ。自然が豊富で、王都国立公園にも引けをとらない。
戦術は難しい。一朝一夕の型では不可能だ。
こればかりが経験が必要なのかもしれない。
学園の中だけでは、分からないことはたくさんある。
……外の、世界か。
といっても、ちょうどいいタイミングかもしれない。
原作通りなら、そろそろのはずだ。
そんなことを考えていると、まさかのまさか、驚きの人物が俺の前に現れた。
いや、先輩なんだから不思議はないが。
「調子はどう? 後輩くん」
無敵の最強女神、エヴァ・エイブリー。
彼女は未だに個人戦無敗だ。中級生のトップを走っていて、誰も越えられない。
将来を夢見る生徒がノブレス入学後に必ず言われるのは、『エヴァと比較するな』だ。
彼女は異質だ。どれだけ才能があっても勝てる未来が見えない。
俺も原作を知っているからこそ、その壊れ具合を知っている。
とはいえ俺は憧れだけで終わらせるつもりはない。
エヴァを超えること、それは俺の目標の一つだ。
そしてまさかそのチャンスが、彼女の気まぐれでやってきた。
「まあまあですよ。というか、めずらしいですね」
エヴァは学生でありながらあろうことか引きこもりで、部屋から滅多に外にでない。
食事も運んでもらっているので、ベッドで怠惰を貪っている、というのが原作での設定だ。
中級生も俺たちと同じ制服だが、エヴァはよく私服を着ている。
別に自由なのだが、あまりそういう人はいない。
今は白いワンピースのようなスタイルで、それもまた異質感を上げている。
眠そうにあくびした後、口を開く。
「変な時間に目が覚めちゃってね。眠気覚ましに、どう?」
俺たちはノブレス学生は、個人ポイントを所持している。
ポイントに応じて学生間での対戦が可能になるのだが、エヴァはトップクラスなので、ある程度の順位まで上がらないと戦うことができない。
だが上から指名され、それを下位が承諾すれば別だ。
願ってもない幸運。公式試合ではないのでポイントの移動はないが、それでも最高の展開だ。
「願ってもないですよ」
「ふふふ、じゃあ行きましょうか」
ノブレス訓練室は地下にある。見学はできる造りだが、公式試合でもない限り、普通は誰も集まらない。
だが――。
「ヴァイス、頑張れー! 生き延びろー!」
「エヴァ先輩だああ!」
「ヴァイス、死ぬなよ……」
俺とエヴァが並んで歩いていたこと、訓練室に向かったこと、それが瞬時に話題になったのか、大勢がすぐに集まってきた。
寝る前だったのか、それとも起きたのか、パジャマ姿の奴もいる。
普段はあまりみることもない先輩たちもだ。
まあそいつらは、俺の心配をしているが。
「ふふふ、人気者ね。ヴァイスくんは」
「……あなたでしょ、それで、ルールは?」
「何でもあり、よ。使役した魔物を使うもよし、古代魔法具も良し、まあ私は、使わないけれど」
エヴァはいつも何も持っていない。原作でも武器は使わなかった。移動用の魔法杖は持っていることは知っているが、それだけだ。
「……遠慮しませんよ。――「デビ」」
「デビビビ!」
俺の頭の横から、ぽんっと出現する。
最近知ったが、デビはある程度の道具を収納できる。常に剣を持っておくのは面倒だし、荷物も入るので便利だ。
そして俺は、柄だけの魔法剣を手に取る。闇魔力を注ぎ込むと、剣の形になっていく。
デビもそうだが、俺の剣を見たことがない奴もいるらしく、興奮気味に叫んでいた。
「何だあの剣!? それに使役魔物も……怖可愛いな」
「ヴァイスの奴、使役もできるのかよ」
「すげえ魔力だな」
デビとはもう何度か練習を重ねているが、まだまだ難しい。
手足が四本いるとはよく言ったものだ。オリンはそれを複数体、想像するだけでも笑える。
召喚している間は魔力を消費している分、連携をうまく決めないとデメリットにしかならない。
色々と細かい制約もあるが難しい。
だが果たして今の俺が、あのエヴァにどれだけ通用するのか、楽しみだ。
「試合の鐘は必要ないわ。あなたの準備ができたらいつもおいで」
銀髪のような白くて綺麗な髪を揺らす。まるでコーヒーを飲む前のような立ち振る舞いだ。
まずは様子見でいくか。
そして俺は、無言で駆けた。
真正面からなんて虫が良すぎることはしない。
直前で左右に不自然な壁を出現させ、反復横跳びのように飛び跳ねる。
いくらエヴァでも、寝起きにここまでの速度で動かれると反応に困るだろう。
デビを後方に移動させ、反対方向から挟み込む。
そして剣を振りかぶった瞬間――。
「ハァッ!!」
「デビビビ!」
俺の渾身の一撃と、デビの闇魔力砲だ。
使役して間もないが、威力は決して軽くない。下級生なら一撃で気絶するだろう。
それも両方から攻める。オリンの手ほどきを受けて完成させた連携技。
いくらエヴァでも――。
「ふふふ、いいわねえ。元気があって好きよ」
だがエヴァは、両手に魔力を握らせた。そしてたったそれだけで俺の剣とデビの魔法を受け止めた。
不可避でもなく、複雑な術式でもなく、ただ圧倒的な魔法耐性だけで。
「エヴァ先輩、ヤバすぎだろ!?」
「ヴァイスの攻撃をあんな簡単に!?」
「つうか、デビの魔法つえー」
……流石公式バグチート。
どんな魔力してんだ? ぶっ壊れすぎだろ。
そしてエヴァは、嬉しそうに笑みを浮かべる。
「あなた強いわねえ、ほんと、強いわ」
「よくいいますよ。そんな簡単に防いだ後に」
「私、お世辞は言わないの。卒業するころには、きっととんでもないことになっているわ」
エヴァにしてみれば最大の賛辞だろうが、俺からすれば煽りにしか聞こえなかった。
つまり今は弱いってことだ。
ははっ、面白い。
「そうですか、じゃあこれはどうですかねェッ!」
次は――殺す気でいく。
【癒しの加護と破壊の衝動】
俺も成長している。
以前より速い速度で地面が覆われていき、エヴァに到達する。
そして俺に流れ込んでいく力に――思わず震えた。
底が見えない魔力、溢れて来る力、限界を超えてもなお流れ続けてくる。
竜の時と同じだ。このまま吸い続けていると、俺の身体は膨れ上がって爆発するだろう。
「あら大丈夫?」
だがそうはならない。俺だって成長している。
溢れる前に、思い切り魔力を使えばいいだけだ。
移動速度も上がっていた。今までの数十倍の力強さを感じる。
この魔法は相手が強ければ強いほど、そして多ければ多いほど優位になる。
使役したデビにもその魔力が受け継がれているので、さっきよりも強い魔力砲を放つ。
同時に剣撃を加えるも、エヴァは変わらず素手で受け止めた。
そしてエヴァは静かに笑みを零した。
両手は動かしていない。だが何とも言えない恐怖感を感じ、俺は驚いて大きく離れた。
だが視えたのだ。見えざる手が。
「凄いわね、これもわかったの?」
原作では自主退学をしたこともあって、エヴァの秘密は一切明かされていない。
だが、少しだけ強さの秘密がわかったような気がした。
それから大勢が見守る中、俺とエヴァは戦いを繰り広げた。
結果だけ言えば、俺は負けなかった。だが勝ちもしなかった。
俺の攻撃は当たるがダメージはほとんど。エヴァは本当に寝起きの体操をしたかったらしい。
手加減しているというよりは、運動だ。
それでもエヴァと同じ中級生たちの会話を聞くと、それすらありえないらしいが。
「エヴァとやり合えるなんて……あいつがヴァイスか」
「すげえな……」
「ああ……」
同学年たちに視線を向けると、エヴァを見る目は憧れだ。
勝てる勝てないの次元じゃなくなっているのだろう。
それがなんだか寂しかった。
試合を終えると、みんなが俺を称賛した。だがエヴァには誰も声をかけない。
それでも満足そうに微笑んでいた。
楽しかった、と一言俺に声を掛け、そのまま去ろうとしたので、俺は観客をかき分け――
「ありがとうございました。エヴァ先輩」
「――こちらこそ、楽しかったわ」
これは試合じゃない。
バトルユニバースで例えるなら、指導対決のようなものだ。
こうすればいい、とエヴァが教えてくれた気がする。
常に高みを目指し続けることが、大事なのだと。
「ヴァイス様、凄かったです! とんでもない動きでした!」
「ええ、ヴァイス、誇らしいですわ」
不思議なことに、シンティアとリリス褒めてくれたことは素直に受け取れた。
俺は最強女神とまだ対等ではないが、認められるほどに強くはなっている。
驕りはしないがたまには自分を褒めてもいいのかもしれない。
といっても――。
「シンティア、リリス、午後の座学をサボって俺の訓練を手伝ってくれないか? デビを使ってもう少し実践を練りたい」
「もちろんですわ。いくらでもお付き合いします」
「サボりましょう! 体を動かす方が好きです!」
努力をやめるつもりはないが。
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