060 夜の好敵手
創作物のアンデッドモンスターってのは、ほとんどが弱小扱いされている。
代表的なのでいうと骸骨、ゾンビ、グールだろう。
だがノブレスでは上記に挙げたキャラはもちろん、大勢の魔物が腐敗し、彷徨う魂が定着して復活している。
何より厄介なのは、無痛属性を全員が持っていることだ。
致命的な攻撃を与えたとしても、生命機関である魔力の魂が消えるまで、奴らは手足が失おうが顔面が吹き飛ばされようが襲ってくる。
更に魔力の核って奴は、本来あるべき心臓の位置になかったりする。
さらに月明かりのない今夜は、暗闇の中で戦闘を行うことになる。
俺ももちろんだが、移動するだけでもかなりの魔力を眼に漲らせないとダメだろう。
そしてサバイバル試験と違って下級生同士の潰し合いもある。
ザッと考えただけで、このイベントがどれだけ過酷かわかるはずだ。
当然誓約書はある。
とはいえ、辞退するような弱虫はいなかったが――。
「カカ? カカカ? カカカ?」
転移魔法で飛ばされた瞬間、俺を歓迎してくれたのは、スケルトンだった。
確か森の上層にしかいないはずだ。
この森は、上に行けば行くほど強かったはずだが、当たりだな。
乾いた風が骨と骨をこすり合わせるかのような音を立てる。
スケルトンは、実際に亡くなった魂が憑依し、生前の動きを真似る。
右手の剣は、魔力で生成した立派な武器だ。
魔力が込められているので、通常武器よりもダメージを負う。
「だが、相手が悪かったなァ」
スケルトンは仲間意識が強い。
一体見つけると、二体、三体とやってくる。
だが俺は冷静だった。
それよりも試したくてたまらない。
大会の後、背中に特別な鞘を拵えてもらった。
取り出すのは、柄だけしかない奇妙な剣だ。
魔術の紋章が刻まれている。
それは闇と光の性質を持ち、術式が組み込まれているのだ。
そこに俺は力を流し込む。
オリンのおかげで、独学よりも力強い闇に覆われていく。
シンティアの氷剣に似ているが全く違う。
闇と光の魔法剣。
鞭は置いてきている。今日は、魔法剣の試運転も兼ねてるからだ。それに知ったのだが、魔物には魔力乱流が効かない。おそらく術式が違うのだろう。
「「「カカ?カカカ?カカカ?」」」
わらわらと集まってくるが、俺はまったく気にしていなかった。
それよりも感謝だ。
こんなにも早く実戦で試せるなんて、たまらない。
「今回はリングが重要だから数を倒しても意味はない。だから色々と実験させてもらうぜ、骸骨野郎」
そして俺は、思い切り笑みをこぼしながら駆けた。
スケルトンの攻撃は素早い。攻撃をかいくぐって一撃で粉砕する。
次に二体目が間髪容れずカウンターしてきたが、不自然な壁で回避して二撃。
最後は真正面から叩き潰した。
骨が砕けて魔力が散り散りになっていく。
魂が飛散し、本来なら元に戻るはずが、光の性質を持つおかげで魂が定着しない。
はっ、おそらく人間相手にすれば魔力が大幅に漏出するだろう。
俺は手を緩めることなく、スケルトンを粉々にして精度を確かめた。
まるで豆腐のように切れる。閃光を使わずとも、破壊力で敵をねじ伏せることができるのは素晴らしい。
ノブレスでは、反対性質を持つ属性ほどダメージが上がる。
火と水、地と風。
光と闇は稀有だからこそ更に厄介だ。
難なく三体を蹂躙した後、木枝に掛けられているリングを一つ見つけた。
こんな所に設置しているのは偶然じゃないだろう。
つまり、危険度が高ければ高いほど、リングが多い。
そして――。
「カカ?カカカ?カカカ?」
「グガェギアア?」
「ビガガルルル」
嬉しいことに練習相手は向こうからやって来る。
最高だ、まァでも、他の奴らにとっては地獄かもなァ。
――――
――
―
「…………」
それから数時間、アンデッドモンスターは死ぬほど出てきたが、人間とは一度も遭遇しなかった。
そういえば俺をこの森に飛ばすとき、ダリウスが、俺がやると言ってクロエと交代したな。
あいつ……ほかの生徒の為に俺をかなり遠くまで飛ばしやがったな。
ま、どうでもいいが。
おかげでリングは十二。思っていたよりも少ないが、ポイントとしてはかなりのものだろう。
俺は厄災で仲間の必要さを知った。
エヴァのような強者と仲良くするのは、このゲームを制覇する上で大事なことだ。
だが、強者しかいらない。
炎玉の時もそうだった。怪我人がいなければ俺が無茶をする必要もなかった。
相手が誰だろうと、そこはブレない。
アレンであろうが、シンティアであろうが、手加減はしない。
だが――。
「ちっ……よりにもよって」
目の前から現れたのは、返り血に染まったリリスだった。
俺がこの世界に来てから、彼女は懸命に尽くしてくれている。
苦手な魔法を習得、ノブレス学園に入学、シンティアと婚約者になってもなお献身的に傍にいてくれている。
数秒前の覚悟がブレそうになるも、俺は剣を握った拳に力を入れる。
彼女はいつも俺に対して真剣だった。俺も、覚悟を決めろ。
「本気で行く――」
しかし俺が魔力を漲らせた瞬間、リリスがその場から消えた。
そして乾いた音が聞こえた。
ヒュンッと小さな音、それは、金属が空を切る音だ。
寸前で回避するが、その速度と込められた魔力の威力は計り知れない。
……俺は、ゆっくりと剣を構えた。
「――余計な言葉はいりませんよね」
「あァ」
たった一言、それだけだった。
リリスは覚悟を決めている。はっ、俺のほうがまだ甘かったらしい。
彼女の腰にはリングが三つ。身体に装着できる術式が組み込まれていて、邪魔にならないように配慮されている。
だが奪い取ることはできる。
思えばリリスと真剣勝負するのは、学園の入学前の訓練以来だ。
お互いに距離を測り、機を窺う。
彼女は実力は知っているが――。
「ハァアッ!」
静かなる足音で距離を詰めてくる。
驚いたことに、俺が知っているリリスではないほどに速い。
暗闇で足元が見えないはずだが、構わずに駆けてくる。
そして彼女は闇夜にもかかわらず目に魔力を漲らせていない。
俺ですら観察眼を使っているというのに。
……夜の戦いに慣れているのか?
「フゥフゥ……ハアッ!」
「速度は大したもんだ。だが、肝心の剣撃が弱いなッ!」
「くっ――っ」
瞬間、カウンターでリリスの剣に合わせると、一撃で叩き折る。
俺の想像以上に魔法剣は破壊力があるらしい。
驚きながらリリスは距離を取ったが、これで勝ちは揺るがない。
暗器ナイフを持っているのは知っているが、そんなもので俺の攻撃は防げない。
これで――。
「終わりだ」
「……私は、負けません」
しかしリリスは、諦めていなかった。
その瞳は、アレンを思い出す。
真っ直ぐで、不可能を可能にしようとしている時の。
あァ、お前は凄いよ。
普通の奴なら、さっきの一撃でやられてる。
だが、俺は覚悟を決めている。
リリス・スカーレット、俺はお前を倒してでも、前に進む。
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