003 【リリス・スカーレット】side
私、リリス・スカーレットはファンセント家に仕えるメイドだ。
そしてその長男である、ヴァイス・ファンセント様は、とても傲慢で暴力的で蹂躙することが好きだ。
いや、だった
先日、私のことを二度、三度鞭で叩いた後、ふと我に返ったかのように優しく接してくれるようになった。
いつのまにか覚えていた回復魔法で身体を癒してくださり、それ以降、誰に対しても気遣いができる素晴らしい紳士に変貌を遂げている。
以前なら「こんな不味いものを食べさせて俺を殺す気か?」と怒鳴り散らかし、使用人に食事を投げつけていたが、最近は汁の一滴も残さずにパンを使って綺麗に食べている。
屋敷にいた奴隷は全て解雇となったが、その後、仕事を続けたいものには使用人としてお給料を支払うことになった。
中には、これは私たちをどん底に突き落とす為の第一歩に過ぎないと恐怖を感じている人もいるが、私はそうは思わない。
私にはわかる。
瞳が――違うのだ。今のヴァイス様は、とても澄んだ目をしておられる。
それに私が近づくと頬を赤らめる時がある。それが凄く可愛くて、心臓がキュンっとなる。
これが何なのかはまだわからないけれども、ヴァイス様を見ていると心が和らぐ。
また、毎日本を読むようになり、日中はミルク先生を呼んで基礎鍛錬を繰り返している。
顔つきや体つきも男らしくなっていく。
更に驚いたのは、ファンセント家が行っている事業について詳しく勉強していることだ。
専門に任されている人も驚くほど頭の回転が速いらしく、既にいくつかのミスを見つけ、来年に向けての調節も行なっているらしい。
ただ一歩街に繰り出せば、ヴァイス様を糾弾する領民の声が私にも聞こえるほど悪評は広がっている。
以前は聞き流してはいた。正直、事実だったからだ。
けれども今は違う。そのことを耳にすると心苦しくなる。
違う、そうじゃない、ヴァイス様は変わったのです――と声を大にして言いたいが、そんなことを言えば、ヴァイス様から言わせられていると思われるだろう。
だから私は怪しまれない程度に噂を流している。
努力している、本が好き、奴隷が解放された、食事は絶対に残さない。
ゆっくりと、それでいて本当の事を広めたい。
私は常々、人は変われないと思っていた。
けれども違う、ヴァイス様は私に教えてくれた。
人は変われるんだ――と。
私は幼い頃から人を殺す仕事を生業としてきた。
このファンセント家でも、陰の暗殺者として何人、いや、何十人も殺した。相手は外道ばかりだったが、そんな自分が好きになれなかった。
私もヴァイス様のように生まれ変わりたい。
もう誰も傷つけたくない。
「リリス、そこにいたのか。良かったら庭園を散歩しないか? ちょっと……筋肉痛をほぐしたいんだ」
「筋肉痛? よくわからないですけど、もちろんです! 行きましょう!」
「り、リリス、腕を掴むと痛い……」
「ふふふ、すみませんっ」
でも、もしヴァイス様を傷つける人がいたら――容赦しないけど。
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