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021 タッグトーナメント

 タッグ戦は初めて”上級生”と”中級生”と戦うことができる、下級生のお披露目会みたいなものだ。

 といっても、この学年で一年、二年先輩は伊達じゃない。


 厳しいポイント戦争に勝ち抜き、更にそれを楽しめる(・・・・)者たちがほとんどだからだ。


 これは、先輩たちはこんなに強いのか、と興奮させる、所謂負けイベント(・・・・・・)


 ゲームの序盤ではありがちな消化試合、だが俺は、それを甘んじて受け入れようとしていない。


 そんな下らないシナリオはぶっ壊してやる。


「ヴァイスくん、急がなくていいの? みんなもう移動し始めてるみたいだけど……」

地雷撤去(・・・・)は雑魚に任せておけばいい」


 俺とカルタは、高い崖から見下ろしていた。

 

 ここは、ノブレス学園からほど近い、ガリアル山。

 下は深い森になっていて、声はおろか、姿形を見ることもできない。


 ちなみに全員クロエに魔法で飛ばされたので、誰がどこにいるのかはさっぱりわからない。


 ――俺以外は。


 観察眼ダークアイを発動させると、森にいる連中の姿が丸い点のように見える。

 流石に誤差なくとまではいわないが、見知った奴らならすぐにわかった。

 魔力には個性がある。体臭と同じだ。


 先頭で駆けているのはリリスとシンティアだろう。

 血気盛んは結構だが、上の奴らは彼女らでも苦労するはずだ。


 少し後方にアレンとシャリー、デュークの相棒は……はっ、おもしろい。


 三学年のデスマッチとはなっているが、学年ごとに飛ぶ場所がある程度決まっている。

 そのほうが三竦みになりやすいからだ。


 それにわざわざ先輩方(・・・)は序盤から潰し合いはしない。

 俺たちを倒してもらえるポイントは少ないが、チリも積もればなんとやらだ。


 ちなみに俺たちも同じだ。同じ下級生を倒しても、ポイントは大してもらえない。

 だからこそ至極当然に仲間意識が芽生える。さあ、みんなで先輩を潰そうってな。


『下級生31番、エリアル、行動不能、行動不能』


 その時、魔法鳥が叫び声を上げながら旋回しはじめた。

 パーティーの始まりの合図だ。


「早い……」


 カルタは、身長と同じぐらいの杖を強く握り締めた。

 魔法の詠唱において、杖は必ずしも必要じゃない。

 ミルク先生は持ってないし、シンティアも持ってはいるだろうが、使っている所を見たことがない。


 ただ彼女のような飛行魔法や、繊細な魔法だと精度が大幅に向上する。


 といっても、手が使えなくなるデメリットは甚だ大きい。

 近接戦を捨てて火力特化の為か、カルタのように近づくのが嫌いか、大体このどちらかのタイプが杖を持つことが多い。


 まあ、今の彼女は違うが。


「そろそろ行くぞ。作戦は伝えた通りだ。――いいんだな?」

「もちろん、私は――やると決めたから」


 気づいたら頬が緩んでいた。

 気弱な少女が成長した姿が嬉しかったのか、自分を重ねたのかはわからない。


 次の瞬間、重力に身を任せ、俺たちは崖から一切の躊躇なく飛び降りた。


 景色が目まぐるしく切り替わっていく。


 風の音が耳に響く。

 風圧が凄まじく、魔法で風抵抗を上げていなければ目も開けられないだろう。


 結局俺は、カルタほどの飛行魔法を習得することは出来なかった。


 今も飛んでいるというよりは、滑空している。


 それでも、彼女からすれば恐ろしい才能だと褒めてくれたが。


 空に高く飛び上がって戦うのは理想だが、カルタでさえそんな事をすればすぐに魔力が底をつく。


 飛行状態ってのは常に魔力を使い続けているのと同じだ。


 俺が求めていたのは、敵を振り回すことのできるほんの些細な機微。


 ただ予想外だったのは、空は俺が思っていたより楽しい(・・・・)ってことだ。


 ▽


『下級生27番、ビビット、行動不能、行動不能』


 ガリアル山、最奥の森。


「ははっ、全く下級生は楽だなあ。簡単な罠すら見破られない癖に、勢いだけは一丁前で」

「上級生が動くのはまだまだ先だろうし、のんびりしようぜ。そういえば、下級生で凄い奴がいるって噂じゃなかったっけ? ヴィス? ヴィース?」

「そんなの毎年言われてるけど大した奴いなかっただろ。魅惑とか英傑とか、何でも言いたくなる年頃だしな」

「そうだな。――あれ、リディ? どこいった?」


『中級生10番、リディ、行動不能、行動不能』

「……は? ――テメェ、どこから来やがった?」

「空から」

「はあ!? くそ、ふざけやがって」


 紺色の訓練服、肩には優秀な成績を収めた時にもらえる星が付与されている。

 下級生の俺を見ても警戒は緩めず、それどころか全身に魔力を漲らせた。


 流石ノブレス学園の中級生、魔力淀みがなく、洗練されている。

 上手に隠しているが、属性は火だろう。


 ――当たりだな。


 ミルク先生、貴方の教え、今でもちゃんと守ってますよ。


「二人目」


 フゥと浅い呼吸を繰り返しながら、真正面から詰める。

 だがこれを見て、先輩(・・)の警戒が少し緩んだ。


 バカ正直な行動、猪のような下級生が偶然飛んできただけだと思ったのだろう。


 だが俺は少し手前で飛びあがる。


 そして空中で、飛び跳ねるような動きで相手を翻弄する。


「な、なんだおまえ!? クソ、クソッ!」


 焦った先輩は闇雲に無詠唱で炎魔法を放つ。

 小さいが密度が込められていて、当たれば俺でもただでは済まない。

 

 まあ、当たればだが。


 そのまま首を一刀両断――といきたいが、退学はごめんだ。

 訓練用の木剣で切り伏せると、一定量の魔力が放出して、気絶した。


 俺は飛行魔法を完全習得することは出来なかったが、代わりに新しい技を習得した。


 闇と光、そして無属性を混合させた透明な壁だ。


 ほんの数秒程度しか形を保てないが、それで十分。


 今の俺にとっては、空中も地面と変わらない。


 といっても、蹴りつける瞬間に出現させるので、常に出せるわけじゃない。

 重力に反作用していることもあって、地面から離れるほど魔力を消費する。


「――頂き」


 その時、俺も初陣だったからか、初めての新技の披露で気持ちが高ぶっていたのか、後ろから迫りくる存在に気づくのが遅れた。


 永続防御バリアで防ぐことはできるが、魔力を大きく消費するのでそれだけで不利になる。


 後方から魔法が放たれそうと分かった瞬間回避行動をとったが――『中級生17番、ミーヒット、行動不能、行動不能』。


 倒れたのは俺ではなく、そいつだった。


「安心した。ヴァイスくんも人の子だったんだ。一人倒しただけで油断するなんて」

「ははっ、言うようになったじゃないか」

「私はもう、弱虫じゃないから」


 俺を助けてくれたのはカルタだった。後方支援を任せるつもりだったが、どうやらそうではないらしい。


 下級生同士で手を組んでポイントをチマチマもらおうなんてセコイ真似はしない。


 先手、予想外の位置から上級生どもを倒してポイントをごっそり頂く。それが俺の作戦だ。


 だからこそ、カルタから教えてもらった飛行魔法で上級生がいるポイントまで飛んできた(・・・・・)


「行くぞカルタ、油断している先輩どもからポイントをごっそり頂く」

「わかった!」


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