表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

173/175

166 最後の一撃

「シャリー、俺から離れるな。一人になると、リリスは必ずお前を狙う」

「わかった。でも、どうするの?」


 シャリーは俺のレイピアに視線を向けた。

 耐久力という面で著しく不安がある。


 それはわかっている。

 だが勝つ為には何でも使う。


 たとえそれが、人でもな。


 デビを出すこともできるが、随分と魔力を使う。

 更にデュークとリリスの速度を考えると、無駄に魔力を消費するかもしれない。


「俺に考えがある。全部を説明してる暇はない。さっき言ったことを守れ――」


 その瞬間、デュークとリリスが森の中で移動しているのがわかった。

 目で追うのがやっとだ。


 魔眼を発動したところで意味がないだろう。


 きっと本能でわかっている。

 俺が、何か新しい能力を得たことを。


 そしてそれを抗う術を瞬時に編み出した。


 それは高速でのフェイントだ。


 俺はおよそ一秒後の未来を見ることができる。


 だがいくつものフェイトを重ねることで、それが寸止めなのか振り切るのかがわからない。


 ハッ、デュークの野郎。

 やっぱりあいつは野生で生まれたんじゃねえのか。


「――来るぞ」

「はぁっ――!」

「オラよぉ!」


 左右からリリスとデュークが近距離戦を仕掛けてきた。

 魔眼はまだ発動しない。


 こいつらの行動は――読んでいた。


「シャリー、今だ!」

「――反動(バウンド)


 既に地面に付与していた不自然な壁(アンナチュラル)

 それをシャリーが強化していた。


 大きな透明な壁が、そのまま精霊によってまるでトランポリンのように飛び上がる。


「なんだこれおい!?」

「――ッッッ!?」


「面白いだろ?」


 そのまま俺は、二人を思い切り蹴りつけ、魔力砲を放つ。

 その先は――アレンとシンティアだ。


 ちょうどアナウンスが聞こえていた。手持ち無沙汰のあいつらをぶつけ、混戦状態にする。

 当初の予定ではすぐにやる予定だったが、最終的に叩き潰せれば問題ない。


 ぐんぐんと飛んでいく二人、そこに、氷の槍がカウンターのように飛んでくる。


 遠距離からあそこまでの鋭い威力を放出できるのはさすがだ。

 アレンとのパートナーを経て彼女も進化したのだろう。


 デュークは体勢を翻すが、足場がない。

 

 あの威力だと、防御術式は役に立たないだろう。


 さあ――どうする。


「――デュークさん」

「悪いな。――そんな趣味はねえが、許してくれ!」


 すると驚いたことに、リリスは両手の平を差し出した。

 それを足場に、デュークは思い切り蹴りつけ、二人とも回避した。


 おもしろい。やはりお前たちも、一筋縄ではいかないか。


「行くぞ」


 シャリーに急いで声をかけ森を突っ切る。


 すると既にアレンが戦っていた。

 盾を前に出し、更に防御術式で強化している。


 デュークの攻撃を真正面から受けるのではなく、受け流していた。

 そしてその横、リリスとシンティアがにらみ合っている。


 次の瞬間、無数の氷の矢が出現し、リリスに降り注ぐ。

 しかしリリスは恐れることなく前に突き進む。


 その度胸は、ノブレスの中でも異質だ。


 例えるなら突きつけられた無数の針にあえて突っ込むようなもの。

 

 わかっていても、身体が怯えてしまう。


 凄いな。だが、俺にとっては好都合だ。


 ――まとめて倒してやる。


 俺とシャリーは、パートナー試験で習得した最大の魔法陣を展開した。

 癒しの加護と破壊の衝動、それだけじゃない。

 そこに二人の魔力を融合させた精霊の付与をする。

 闇が広がっていく。


 これは――重力(グラビティ)の操作だ。


「なっ!?」

「――んだとぉ!?」


 四人全員の身体が途端に遅くなったかと思えば、その場に倒れこみそうになる。

 ぎりぎり踏ん張っているものの、相当な圧力だろう。


 目には見えないが、この世界にも当然重力がある。磁場を俺が操作し、シャリーが強化する。

 決して俺だけでは成し遂げられない技だ。


 癒しの加護の影響で、俺たちにそのデメリットはない。


 俺はすぐに駆ける。


 まずは動きの鈍くなったアレンとデューク。

 だが油断はしない。


 お前たちは強い。


 魔眼を発動させる。

 するとやはり、重力に逆らないながら動くのが視えた(・・・)


 «アレンは盾に全ての属性を付与し、後ろに下がりながら飛行魔法»

 «デュークは腕を使って首、心臓、致命傷を避ける動作»


 なら――まずは、お前からだ。


「――クッ」

「お前が一番、厄介だからなッ!」


 俺は、アレンの盾に手を触れ、攻撃ではなく魔法を解除した。

 あらかじめわかっていたからこそ、その手順に無駄なく行える。


 次の瞬間、アレンの心臓をレイピアで突き刺す。


 魔眼があるからこそできた速度だ。

 普通なら、間違いなく不可能だっただろう。


 未来が見えるというのは、こんなにも強いのか。


 しかしアレンは、そのまま盾をかなぐり捨てると、素手でレイピアを掴んだ。

 血がにじみ出るが、それでもやめない。


 次の瞬間、レイピアが凍っていく。


 ――模倣か。


「――君を、抑える」


 レイピアを引き抜こうにも手にまで氷が及んでいく。

 そしてチャンスとばかりに、デュークが俺に狙いを定めた。


 アレンなら致命傷を与えられながらもひとまず窮地を脱出することはできたかもしれない。

 だがシンティアに全てを託し、自らを犠牲に俺を倒すことを選択した。


 まさかお前が、他人を信頼し、自分ではなく相手に最後を任せるとはな。


 だがな、俺だって――1人じゃない!


「――ヴァイス!!!」


 シャリーが横から現れ、俺のレイピアをあえて叩き割る。

 そのままデュークの拳が、シャリーにぶち当たる。


 だが防御術式が完璧だ。

 

 しかし反動は消せない。そのまま俺の代わりに吹き飛んでいく。


 アレンはそのまま地面に倒れこむ。防御に回していた分を氷模倣していたので、魔力の漏出が激しい。

 こいつらしかぬ判断ミス。だがしかし消える直前――。


『アレン、二回目の脱落。ヴァイス・ファンセントにプレートが移動します』


 俺とシャリーの重力魔法を解除しやがった。

 もしかして、今俺が盾を解除した魔法を模倣しやがったのか?


 ハッ、あいつに見せたのが間違いかもしんねえ。


 シャリーのアナウンスはない。生きているだろうが、俺の手助けにはこない。

 あいつは、やるべきことをわかっているはずだ。


 デュークは再び俺の前に立つ。


 お互いに素手だ。


「よぉ、ヴァイス、お前とまともにやるのは初めてかもな」

「かもな」


 俺の煽り文句に、デュークは笑みを浮かべ、そして駆けてきた。

 小手先なしの真正面。

 

 そのとき、視界が少しだけぼやける。


 三日間も魔眼を連続使用してきたのだ。魔力量の消費、気力、精神力、更に新しい魔法の連発。

 だが泣き言はいってられないな!


「――オラァ!」

「はっ、バカの一つ覚えか!」


 渾身の右ストレート。

 寸前で回避、風圧が俺の頬を鋭く通り過ぎる。


 そのままカウンターで顎を狙う。


 しかしデュークは頭を後ろに下げ回避する。


 こいつの凄いところは眼や耳だ。

 魔力で強化しているわけでもないくせに、反射速度が人外レベルに高い。


 さすが原作で最強格だなァ!


 更に攻撃を回避、そのまま俺たちは一進一退の攻防を繰り返す。

 そのとき――『シンティア・ビオレッタ二回目の脱落。リリス・スカーレットにプレートが移動します』


 俺は、驚いた。


 乗り越えたのだ。彼女は。


 原作で最強のヒロインであるシンティアを倒した。


 氷剣(グラキエース)もあったはず。それでも倒した。

 とはいえ、それを見逃す彼女(・・)じゃない。


 ――『リリス・スカーレット一回目の脱落。シャリー・エリアスにプレートが移動します』


 続けてアナウンスが流れる。

 最終戦、俺たちはこの形も予想していた。


 脱落するのはシンティアではなくリリスの予定だったが。


 シャリーはリリスを叩き潰すのに全ての魔力を込めたはず。

 この後、俺たちを狙うやつは現れないだろう。


 あとは俺が、デュークを倒せば終わりだ。


「――リリス」


 デュークは静かに呟いた後――とんでもない魔力と速度で駆けた。


「なっ――」


 魔眼と閃光(タイムラプス)を発動するも、追いつかない。


 «前後左右から拳が飛んでくる»


 未来が不確定だ。なぜだ。


 そうか、こいつ――。

 

「クッ」


 咄嗟に右腕で防ぐ。だが衝撃が凄まじく、反動でジンジンと痺れる。


 デュークは、俺の動きに合わせて攻撃を仕掛けると決めていた。

 反応速度が高すぎたことで、未来が確定しなかったのか。


 ――何という奴だ。


 そしてデュークは、遠距離から俺に衝撃波を放つ。

 その間に距離を詰め、ふたたび攻撃を仕掛けて来る。


 速度、威力、魔眼ですら未来が不確定しない。


「お前――なぜそこまで――」

「負けられねえんだ! 俺は!」


 ――俺は知っている。

 デュークが、騎士候補生から抜けたことを。


 ソフィアの件で、デュークが咎められないように手をまわしてもらっていたのだ。


 だがそれのせいで辞めた事を知った。

 理由はわからないとのことだ。


 原作のデュークは、作中でも屈指の生真面目で、曲がったことが許せない性質だった。

 なのに俺の話を信じ、その行動に従った。


 おそらくだが、許せなかったんだろう。

 他にも理由はあると思うが、何も言わず、一人で全てを抱えている。


 俺は誰かに頼っている。シンティアに、リリスに。


 だがデュークは違う。たった一人で悩み、葛藤し、戦っている。

 アレンの模倣は原作ではなかった。リリスの覚醒も、シンティアの氷剣もイレギュラーだ。


 なのにデュークはそれをうらやむことなく突き進んでいる。


 ――お前は、凄い。


 俺はお前を――誰よりも認めている。


 しかしそれでも俺は、勝利をお前に譲る気はない。


 俺は、ふたたび魔眼を発動させた。

 全ての力を籠める。


 不確定な未来を許さないように身体強化(スケールアップ)で反射速度を上げる。

 残像が一つ一つ消えていく。たった一つだけ残る。


 ――これで終わりだ。


 手のひらに闇の魔力を複合する。

 氷剣ほどの高密度の力を集約することはできないが、それでも段違いだろう。

 

「俺は――ヴァイス、お前に勝つ!」

「デューク、お前は――よくやった」


 俺は、デュークの攻撃をギリギリで回避する。

 未来がわかっていたというのに、それでも危なかった。


 そして、心臓に手のひらをかざす。

 

 次の瞬間、全ての力を解放した。


 身体を貫通するほどの魔力砲を与える。


「くぁあっあああっ――」


 デュークが叫び、魔力が消えていくのがわかった。


 もし魔眼がなければ、俺はデュークの攻撃を回避することはできなかっただろう。

 勝利したのは俺だが、これは僅差でもある。


 悪いな――。


 しかしそのとき、全てが終わったかに思えた次の瞬間。


 デュークの拳が、俺の顔面に目掛けて一直線に迫りくる。

 無駄がなく、それでいて鋭く、美しい。


 だがそれは――俺の不可侵領域によって阻まれた。

 轟音が響き、同時にアナウンスが流れる。


『デューク・ビリリアン一回目の脱落、ヴァイス・ファンセントにプレートが移動します』


 しかし眼前の拳は、決して下に下がることはない。

 デュークは立ったまま、その力強さを残したまま、完全に気絶していた。


 そして俺のバリアにヒビが入っていく。


「なんだと……」


 こいつの魔力は完全に切れていた。なのに、ただの力だけで、俺の防御を?


 ハッ、お前はなんて――なんて凄い奴なんだ。


 そしてデュークの身体から転移魔法のエフェクトが発動する。

 空から降り注ぐ光、数秒後、デュークは強制転移されるだろう。


 だが俺はそれを、閃光(タイムラプス)で叩き切った。


 同時に不可侵領域を解く。デュークの身体が俺に覆いかぶさるように倒れこんでくる。


「…………」


 俺と違ってこいつは、デュークは、己の研鑽の為だけに全力を出すことができる。

 仲間想いで、誰よりも優しく、一生懸命だ。


 もしデュークが俺の立場なら、もっと上手くやれたかもしれない。

 それこそ、既に魔王を倒す力を得ている可能性もあるだろう。


 それくらい、俺は認めている。


 そのとき、シャリーがよろよろと歩み寄る。

 最後、リリスにやられたのだろう。


 だが、よくやった。


 同時に、最終の時間になったとアナウンスが流れる。


「さすがヴァイス、本当に――勝ったね。でもどうしてデュークの転移を――」


「……させたくないからだ」


 それを聞いたシャリーが不思議そうに目を見開いていた。


「こいつは頑張った。誰よりもな。――敗者のように退場させるのは、相応しくない」


「……ふふふ、今の台詞。デュークが聞いたら喜ぶよ」

「はっ。――シャリー、こいつを運ぶ。付与してくれるか」

「――喜んで」


「行くか、シャリー」

「私は後で行くよ。――メロメロン、忘れてるでしょ」

「……お前、天才か?」

「もっと感謝して」


 シャリーに感謝した後、俺はそのままふわりと浮かび上がり、デュークを運ぶ。


 その途中、デュークが目を覚ました。

 はっ、回復の早い野郎だ。


「……ん、なんだここ」

「空だ」

「はっ、負けたのか俺……」

「ああ。俺に勝てるわけがないだろう」

「はは、そう……だよな」

「だが――最後の一撃は素晴らしかった」

「……お前が、そうやって人を褒めることあるんだな」

「はっ、嬉しいのか?」

「……かもな。――で、なんで俺はここに」

「褒美だ。空から投げ捨ててやろうと思ってな」

「は? え、ちょっ、やめろって!?」

「おい暴れるな。冗談に決まってるだろ」

「寝起きにそういうのはやめろよ……。けどま、届かなかったか。頑張った……んだけどな……」


 俺は答えなかった。

 勝者が敗者に掛ける言葉なんてない。


 いつ立場が逆転するのかもわからないこの世界で、一喜一憂なんて必要ないからだ。


「ヴァイス」

「なんだ?」

「次は――俺が勝つ」

「ああ、まあ無理だがな」

「ったく……ま、楽しかったぜ」

「……俺もだ」




 中級生、パートナー試験。

 優勝者、ヴァイス・ファンセント&シャリーエリアス。

 合計ネームプレート点数、45点。


 ――過去最高記録――更新。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

-


怠惰な悪辱貴族に転生した俺、シナリオをぶっ壊したら規格外の魔力で最凶になった

☆書籍版、第1巻ご購入はこちらをクリック☆

-

怠惰な悪辱貴族に転生した俺、シナリオをぶっ壊したら規格外の魔力で最凶になった

☆書籍版、第2巻ご購入はこちらをクリック☆

-

怠惰な悪辱貴族に転生した俺、シナリオをぶっ壊したら規格外の魔力で最凶になった2巻
― 新着の感想 ―
最新話に追いついてしまった(´・_・`) 面白かったです。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ