163 フルーツの恨みは恐ろしい
二日目の夜、俺とシャリーは夜通し動いていた。
残った連中を片付けるのはもちろんだが、最終日に余計な邪魔をさせない為だ。
『ソリシュ・アリラス一回目の脱落。ヴァイス・ファンセントにプレートが移動します』
ふうとため息を吐き、魔力を整える。
「点数は負けているはずだ。だが最終日、デュークとリリス、そしてアレンとシンティアを見つけて倒す。そこで――勝つぞ」
「わかった。――デューク、今回はちょっと本気みたいね」
「ああ、だが楽しみだ」
奴とまともに戦った記憶はほとんどない。
以前のバトル・ロイヤルでも、俺はアレンと、シャリーはデュークと戦っていた。
デュークとリリスは、四人を相手に叩き潰した。
覚醒したリリスのことを考えると、純粋な戦闘能力という点では俺を超えているかもしれない。
とはいえ、負けるつもりはない。
朝日が昇りはじめ、俺たちはようやく森の木の根っこに腰を下ろした。
「少しだけ仮眠しろシャリー、俺が見張っておく」
「え、でもヴァイス全然寝てな――」
「俺は常日頃から鍛えている。お前と違う。いいから寝ろ」
「……はいはい、じゃあありがたく」
そういって、シャリーは俺の横にきて、こつんと肩を乗せた。
「あ?」
「このほうが、動きやすいでしょ。変な気起こさないでね」
「俺がそんなこ――」
「おやすみ」
……ったく、こいつは。
――――
――
―
最終日――朝。
「ん……ヴァ……イス」
「起きたか。そろそろ動き出すぞ」
「んっ、じゃあ次は私が――え、寝ないの?」
「俺はまだ大丈夫だ」
「ほんと、頑張りすぎだよ。あなたは」
目を覚ましたシャリーは、寝ぼけ眼をこすりながら微笑んだ。
初めは俺のことを随分と毛嫌いしていたはずだが、今ではまあそれなりの距離感でうまくやれている。
こいつを見ていると、俺は原作のことを何度も思い出す。
未来を変えた自分が誇り高く思える反面、タッカーの時のように抗えない運命もあるかもしれないと思いが過ぎるが。
「……お前、それ」
移動する直前、シャリーは驚くべきものを手にしていた。
それは、メロメロンだ。
小分けの箱に入っていて、果汁の良い匂いが漂っている。
「ど、どこで!?」
「ふふふ、見つけたのをこっそり隠しておいたの。こういうのは、最終日のほうが元気出ると思って。本当は寝起きにサプライズしようと思ってたんだけどね」
「……さ、最高じゃないか」
はやる気持ちを抑えきれず、心臓が高鳴る。
今この疲れた身体には最高のご褒美だ。
フォークとエプロンはない。
メロメロンに失礼かもしれないが、手づかみでいただこう。
だがそのとき――。
『ウリアス・ボルド一回目の脱落。アレンにネームプレートが移動します』
………。
更に、何かの破裂音が聞こえた。
それほど遠くない。魔力がはじける音だ。
クソ、主人公野郎。
「ヴァイス、急いで食べちゃって!?」
「……いや、それはメロメロンに失礼だ。シャリー、そこに隠しておいてくれ。全員ぶっ倒してからの褒美にする」
「え、でもすぐに食べられ――」
「行くぞ。でもちゃんと隠蔽魔法を付与しといてくれ。後、魔物に食べられんように付与も。丁寧に防御術式もかけおいてくれ。最後に忘れないようにアラームと覚えておいてくれ」
「私はお母さんかな?」
そして俺は、過去最高にはらわたが煮えくりかえった状態で、アレンの足取りを追った。
――俺の手で、八つ裂きにしてやる。
「ヴァ、ヴァイス怖いよ」