160 カルタ&オリン
「オリンさん、大丈夫?」
「な、何とか!? た、高いけど」
ボクとカルタさんは、空から森を見下ろしていた。
いつもよりも高いので、魔力量の消費と技術が全然違う。
驚いたことに、カルタさんは大きな木に術式を付与して、それを即席の杖としていた。
そんなことができるなんて流石だ。
そして、今の戦闘を見ることができたのは大収穫だ。
「やっぱり、ヴァイスくんとシャリーさんのコンビはすごいね」
「そうだね。でも、ボクたちでもやれるはずだよ」
ついさっき、セシルさんとトゥーラさんがやられてしまった。
そしてボクとカルタさんの標的は『ヴァイス・ファンセント。シャリー・エリアス』。。
正直、誰もが諦めるだろう。
他の人を狙って1点ずつ稼いだ方が楽かもしれない。
けど――。
「絶対、勝とうね」
カルタさんは、ボクと同じ気持ちだった。
パートナーとなってからミッチリと訓練を積んだ。
その成果を出せば負けないはずだ。
でも油断は絶対にしない。
勝機を見つけて、そして、倒す。
「そろそろ降りる?」
「だね。少し離れた場所からいこう」
ボクとカルタさんは共通点がある。
それは、誰よりも森に慣れているということだ。
空だけが、ボクたちの戦場じゃない。
地面に降り立ち、気配を消す。
「もうすぐ夜になる。二人はあの家屋で寝るみたい。私たちも交代で少しだけ仮眠取ろっか」
「ボクは大丈夫。カルタさんは眠ってて」
「ふふふ、そういうわけにはいかないよ。絶対に勝ちたいから」
「――なら、今日は夜更かしだね」
この試験の面白い所は、一度だけ死ぬことができる。
それが、一番重要な部分だ――。
◇
「ふう……この試験、想像よりもキツイな」
シャリーが仮眠をとっている横で、点数について考えていた。
あの後、モブを倒して1点だけもぎ取った。
現状10点だ。
アレンとシンティアを倒したのはデュークとリリス。
あいつらを見つければ一気にポイントを獲得できるだろう。
だが懸念すべき点はいくつもある。
この試験は運要素もデカい。
更にデュークとリリスは、武器依存度が低く、フィジカルが圧倒的で、他を寄せ付けない個人能力を持つ。
複雑な魔法のコンビネーションと違って、誰よりも早く高みに到達しているのだろう。
果たして今の俺とシャリーで勝つことができるのか。
決して弱気ではなく、現状の勝率を考えることも、セシルから教わったことだ。
戦況を見誤ることなく、常に正しい一手を行う。
時には撤退も視野に入れる必要がある。
これはただの戦闘じゃない。試験だからだ。
後は、オリンとカルタか。
空からの攻撃は、かなり苦労するだろう。
そのとき、シャリーの罠が反応した。
魔力感知だけに特化したもので、攻撃は与えない。
だからこそ相手に余計な情報を与えないで済む。
俺は静かに魔力を整えていく。
しかし驚いたことに、1つ、2つ、3つと足を踏み入れる輩がいた。
――これは。
「シャリー、起きろ!」
次の瞬間、窓の外が光輝いた。
魔力砲が放たれたと分かった瞬間、壁が吹き飛び、爆発の中に巻き込まれたかのように光り輝く。
壁が破壊され、つぶてとなって襲う。
俺は咄嗟に防御術式を展開し、彼女を守る。
丸裸とはいわないが、空が見えるほどの穴が開いた後、四方から魔物が襲いかかってくる。
ゴブリンやオークだ。それに、魔力が通常個体よりも強い。
「――大丈夫」
次の瞬間、シャリーの魔法糸がゴブリンたちを捕まえた。
驚いたことに、約二十体もの魔物がそこにいた。
こんなことができるのは、1人しかいない。
しかし続く二回目、更に空から魔法が放たれる。
「飛ぶぞ」
俺はシャリーの地面に不自然な壁を紛れ込ませ、二人で高く空を飛んだ。
だがそれでも姿が見えない。
と思っていたら次は上から魔力砲を放たれる。
場所を特定されない為に、高く舞い上がったか。
「――おもしろい」
連携も随分と極めてきたらしい。
シャリーが自由落下する前、俺の背中にとんと手を叩く。
「任せたわ、ヴァイス。私はオリンさんを」
「ああ」
精霊の力を借りて飛行魔法を発動した。
時間制限があるものの、いつもより遥かに楽に飛ぶことができる。
閃光を起動、魔眼はまだだ。
そして俺は、俺の手には、短刀があった。
あまり使いなれてないが、貴重な武器を見つけた。
耐久力も木の棒と比べればはるかに高い。
「――残念だなッ!」
俺はカルタのバカでかい魔力砲に切れ込みを入れると、そのまま破壊した。
そして上空、カルタを見つける。
地上で攻撃を放った後にすぐ空に飛んだのだろう。
上手くいけばあのまま倒し、失敗しても最悪分断できると考えたに違いない。
はっ、お前らの作戦通りかよ。
けど、これは作戦にはないよなァ!?
カルタにぐんぐんと近づくが、コウモリのような魔物が現れ、俺の行く手を挟んだ。
おそらくオリンが遠隔で操作しているのだろう。
随分と邪魔だが、そんなもので俺は止められない。
問答無用で切り裂き、更に高く、高く。
そのタイミングで、カルタが手を翳した。
それは飛び出すと同時にいくつもに枝分かれ、前後左右から俺をに向かってくる。
間違いなく追尾魔法を付与しているのだろう。
叩き落すにしても、魔物がまだ残っている。
回避が失敗して魔力が乱されれば、飛行が出来なくなる可能性がある。
以前までの俺なら諦めて飛行を緩め、下に落ちていっただろう。
だが違う。俺には――魔眼がある。
「――魔眼」
全てが見える。攻撃が、魔物が、行動予測しているかのように。
俺は追尾機能の魔法をギリギリで回避していく。
魔物の行動も先を予測し、そこに短刀を置くだけだ。
カルタが攻撃を何度も仕掛けて来るも、そのすべてがわかる。
「な、なんで――」
「悪いなカルタ。俺が、強すぎただけだ。」
『カルタ・ウィオーレ一回目の脱落。ヴァイス・ファンセントにネームプレートが移動します』
そのまま自由落下する。
続けて観察眼で森を視認すると、シャリーがオリンと戦っていた。
使役した魔物はまだ10体も残っている。
俺の邪魔もしながら、更にとは。
「はっ、底が知れないな」
戦うたびにオリンは強くなっている。
カルタも以前は追尾魔法なんてほとんど扱えなかった。
あァ、楽しいな。
だがオリン、お前の行動は、視えている。
――――
――
―
『オリン・パステル。一回目の脱落。シャリー・エリアスにネームプレートが移動します』
トドメをさしたのはシャリーだった。
俺は行動を防いだが、彼女の罠がオリンを落とした。
以前までなら足止め程度だったのが、今は致命的なダメージを負うほどの威力になっている。
いずれは一歩も動かずして大軍を相手にできるだろう。
「ヴァイス。さすがね」
魔眼も、カルタを倒した飛行魔法、そして気配察知の罠も、彼女がいなければ成り立っていない。
以前の俺なら空を見上げながら戦うしかなかった。
だが違う。
「お前のおかげだ。シャリー」
「え? ――ふふふ、なんだか随分とカワイイねヴァイス」
「あ?」
「何でもない。次はあなたが仮眠をとって。ありがとう」
「ったく。ちゃんと見張ってろよ」
「はいはい、子守歌はいる?」
「黙ってろ」
……ったく、俺にこんな口を利き方するのはこいつだけだ。
だがまあ、不思議と悪い気はしないな。






