152 舞踏会
最終日、翌朝。
海沿いを走っていた。
太陽の下、無人島の海のさざ波を聞きながら足腰を鍛えるのも悪くはない。
昨晩は大変だった。
夜静かに眠れたことが幸いだろう。
まあ、シンティアとリリスと一緒だったのでちょっと寝不足だが。
その時、波から何かが見える。
幻覚……幻覚か?
なんか下級生どもが……。
……嘘だろ?
「つ、着いたぞメリル」
「ベルク、死ぬかと思ったわ……」
「はあ、お風呂に入りた――ヴァイス先輩っ!? 何してるんですか!? もしかして朝から訓練ですか!? くぅーかっけえっす!」
頼む。今はせっかくの落ち着いた時間だ。
波を立てないでくれ……。
◇
「このカレー最高っす! え、ヴァイス先輩たちの手料理なんすか!? すげええ!」
「シンティア先輩、今日も麗しいです!」
ガツガツとカレーを貪るメリルとベルク。
シンティアは優しく微笑んでいるが、少しだけ頬に汗を欠いている気がする。
なるほど、彼女にも限界はあるんだな。
ったく、流石に伝えておくか。
「お前らいい加減にしろ」
「え?」
「え!?」
「確かに前に助けてもらった恩はあるが、俺たちにもプライベートがある。そもそも台風はどうしてたんだ?」
「踏ん張ったっす……」
「魔法抵抗で何とか……」
しゅんとする二人、まったく、天才たちめ。
とはいえ、まだガキだ。言って聞かせるしかないだろう。
ふう……。
「次からは来たいときはちゃんと言え。ダメならダメだと伝えるが、勝手に後をつけるのはやめろ」
「わ、わかりました! すいません!」
「すみません……」
それを見て、シンティアがメリルの肩に触れた。
「仕方ありませんわ。次から気を付けましょうね」
「はい、シンティア先輩……すいません。ベルクと話してたんです、また何かあったりしたら後悔するかもって」
「そうなのですね。でも、私もヴァイスも本当に感謝していますわ。一歩間違えれば何かあったのは二人ですから心配しています」
「「ごめんなさい……」」
ったく、聞き分けがいいんだが悪いんだが。
まあでも話し相手が少ないんだろう。
以前もそうだったが、天才すぎると一歩壁ができるからな。
「ついでだ。お前らも参加しろ」
「え?」
「え?」
それから数十分後、俺たちは海沿いで柔らかい棒を構えていた。
再度水着に着替えている。
ベルクは海パン、メリルはフリルのついたピンク水着、こいつら……遊ぶ気満々じゃねえか。
「失礼しまっす!」
すると、空中で回転しながら海パンベルクが棒を振り回す。
片手で受け止めるも――重い。
「すげえっす、さすがっす!」
「はっ、猿野郎が」
「リリス、かかってきなさい」
「はい――シンティアさん」
「アレン、今日こそかつぜ!」
「僕だって!」
結局、俺たちはせっかく集まったんだからと訓練していた。
魔族と戦って勝利したとはいえ、かなり苦労した。
一分一秒も無駄にはできない。
このあたりはさすがノブレスって感じだ。
ベルクを叩き潰した後、俺の前に立ったのは、オリンだった。
「お前と戦うのも久しぶりだな」
「そうかもっ。ねえ――本気でいい?」
「ああ、来い」
頭の上のピピンが突然飛んだかと思えば、太陽を背にしながら攻撃を仕掛けて来た。
こういうところに遠慮がないのは、流石だな。
反射的に視線を背けるも、魔力の流れで見ているので、ピピンの攻撃を棒で受ける。
――はっ、前よりも随分と重いな。
使役した魔物は、従者の能力を継承している。
この前の魔族戦でも、10体の上級魔物を操作した上で俺の元へやって来たらしい。
とんでもない話だ。一体、何人分の仕事をしたんだ?
だがそのとき――。
「――は、オリン、いつのまに」
「えへへ。――ボク、もっと頑張るよ。皆を守れるように」
無人島にいる低級魔物が、一斉に、おそらく二十体以上がとびかかって来た。
攻撃力ダメージは大したことない。だが、凄まじい才能だ。
はっ、オリン。もしかしたら一番成長度合いが凄いのはお前かもな。
一見するとただの男の娘だが、その裏はアレンのように正義感で溢れている。
「――けど、俺に勝つのは無理だがな」
全魔物をはじき飛ばす。
それを見てオリンは驚くのではなく、笑った。
案外お前が、俺に一番近いかもしれないな。
ベルクとメリルが来てからは、悔しい事にさらに笑顔で溢れていた。
底なしの元気ってのは、ま、ノブレスには合ってるよなァ。
「ヴァイス、入りますよ」
「ああ。――似合ってるな、シンティア」
「うふふ、ありがとうございます」
夜になり準備を終えた俺は、シンティアから声を掛けられて扉を開ける。
初めて会った時と同じ純白のドレスだ。綺麗すぎて、思わず見とれてしまう。
それからゆっくり歩み寄り、片膝をつく。
それから手の甲にキスをした。
「行こうか。シンティア」
「ええ、ヴァイス」
「ヴァイス様、シンティアさん。もうみんな集まってますよ!」
そういって立ち上がると、リリスに手を引かれる。彼女もまた、シンティアと同じ綺麗なドレスを着ていた。
「リリス、似合ってるな」
「えへへ、ドレスなんて初めてですよ!」
渡り廊下をいくつも超えて、辿り着いた先は舞踏会だ。
と言っても、音楽なんてない。
だがせっかく使えるのだ。存分に楽しもうとなった。
「よおヴァイス、似合ってんじゃねえか」
「確かに、でも、僕たちもなかなか格好良くない?」
「はっ、馬子にも衣裳だな」
アレン、デュークも黒い燕尾服で、似合ってやがる。
シャリーも白く、それでいてしっかりとした綺麗なドレスだ。さすが貴族、慣れてやがる。
トゥーラは意外にも黒いドレスだった。立ち振る舞いが堂に入っている。
「ヴァ、ヴァイスくん飲み物どうぞ」
「ありがとうカルタ。いい色だな」
「え!? えへへ、嬉しい」
カルタは赤色で、透け具合がいい。
それからシンティアはリリスと踊り始めた。
正式な社交界ではない。男女の区別なんて必要ない。
セシルはオリンとだ。ハッ、原作の最終盤みたいでいいじゃねえか。
デュークはシャリーと、ほう、意外にもいいな。
そして――。
「カルタ、俺はあまりうまくないが、どうだ?」
「え、ええ!? いい……かな!?」
カルタは驚き、頬を紅潮させ、シンティアにちらりと視線を向けた。
だが俺は手を強引に取る。
「気にするな。そんなことで怒るわけがない」
「わ、わわっ!?」
踊りながら、カルタに声をかける。
「ありがとな、カルタ」
「え?」
「お前のおかげで、色々と助かってる」
「……私もだよ」
全ての始まりはカルタだ。
彼女がいなければエヴァと対等に戦うこともできなければ、竜を倒すことはできなかった。
俺は成長している。
だが俺1人の力じゃ、おそらくゲームはクリアできない。
無駄な慣れあいをするつもりはないが、それは頭に入れておくべきだ。
「オリンさん、ほら足がまだまだよ」
「わ、わわ」
その横では、オリンとセシルの声が聞こえた。
だが俺は視線を向けなかった。ドレスか燕尾服か、見てしまえば確定してしまう。
シュレディンガーの猫みたいなものだ。
全てが謎のままでいこう。
「ベルク。足、踏んでる」
「え、ああ、ごめん!?」
「――でも、前より上手くなったわね」
「そう? ありがと」
「なんかその言い方、上から」
「な、なんでだよ!?」
下級生どもも、こいつらでくっ付いてくれたらいいんだけどなァ。
さて飴はそろそろ終わりだ。
試験も始まって、色々と忙しくなるだろう。
次はどの属性にするか、決めていかなきゃな。
「ヴァイス、お手を」
「ああ」
そして最後はもちろん、シンティアと踊った。何を想ったのかデュークが歌いだし、アレンが続く。
そこにシャリー。
ったく、愉快なトリオだ。
「シンティア、お前は俺が守る。だから、これからも着いてきてくれ」
「ええ、どこでへでも。あなたの為なら」
ったく、ノブレス・オブリージュの飴は、やっぱり嫌いじゃない。






