149 デカすぎる屋敷
「デカいな。さすが王女様の屋敷」
「デューク、それ結構失礼よ。不敬だから断罪してもらわないと」
「こんなんで死ぬのかよ俺……」
「……すごい」
船から降り立った俺たちは、手入れされた道を歩いて屋敷の前に立っていた。
デュークとシャリーは名門貴族だということもあって余り驚いてないが、平民生まれのアレンは、ただただ茫然としている。
かくいう俺も同じ気持ちだった。
一応ファンセント家ではあるが、心のそこから貴族だとは思っていない。
それにこの屋敷はデカすぎる。
舞踏会の会場も隣接していると聞いていたが、それも関係しているのだろう。
10人もいれば使用人は不要だと思ったが、ちょっと大変かもしれない。
まあでも、それもいい思い出になるか。
そして俺は思い出していた。
ノブレス・オブリージュには豊富なサイドストーリーがある。
流石に全部は覚えてないが、確か屋敷に泊まる、みたいなイベントが終盤にあったはずだ。
この無人島に何か隠されていたような……。
だが流れで考えると今は『飴』の状態。
期間は二泊三日で、随分と羽も伸ばせる予定だ。
ソフィアを守りきれたことは物語としてもターニングポイントに違いない。
ま、考えすぎもよくないな。
「ヴァイス、行きましょう」
「ヴァイス様、早く早く!」
「まだまだ子供だな、お前らも」
そう言いながらも、少しはやる気持ちを抑えていたのは秘密だ。
デカすぎる扉を、デュークが両手で開く。
そこまで重くないだろうが、何かを思い出した。
と、そんなことはどうでもいいか。
そこは綺麗なエントランスだった。
螺旋階段があり、ミニテーブルにはウェルカムフルーツが置かれている。
ギリギリまで使用人が滞在していたらしく、全てが完備されていた。
一応、手紙鳥を飛ばせば使用人が数時間で来てくれるらしい。
至れり尽くせりとは、まさかにこのことだ。
「……カッコイイ」
「なんだセシル、こういうところが好きなのか」
「ええ、好き。ほら、この銅像って凄くアレじゃない?」
めずらしくも興奮気味に駆け寄ったセシルの前には、誰だか知らねえ髭のオッサンがこっちを見ていた。
「アレとはなんだ?」
「……ほらアレ、その、探偵みたいな」
「探偵? ああ、そうか」
ノブレス・オブリージュはゲームだ。訳の分からない文化が混在している。
そういえばセシルはミステリーが好きだったはず。
まあ、そこまで驚くことでもないが。
しかし学校から離れ、戦闘から離れるとみんなイキイキしてやがる。
如何にも学生らしいが、俺も久しぶりに未公開を見れる特権を楽しむとするか。
「ヴァイス殿、そういえばまだお礼を言っていなかった」
「礼?」
するとトゥーラ話しかけてきた。まだ袴だが、私服も袴なのか?
いや、流石にそれはないか。
「不自然な壁だ。先日の戦闘で使ってみたが、随分と良かった」
「ああそうか。だが礼を言われるほどじゃない」
俺も彼女のおかげで風魔法の習得が進んでいる。魔族にも通用した上に、閃光と合わせると遠距離からも術式を解除できるようになった。
ベストタイミングだったと言えるだろう。
そして次のステップアップも考えている。
――火、水、地。のどれか。
いずれ全てを習得して魔王を倒す。それが、最低限必要だろう。
さてどうするか――。
「ヴァイスくん、メロメロンあったよ」
「ああ、悪いな」
「真面目な顔してたよ。もっと、楽しもう?」
「はっ、そうだな」
また悪い癖が出ていたらしく、カルタがそれに気づいたらしい。
ったく、人の顔色をうかがうのが得意な奴だ。
「早く水着に着替えたいなー」
するとオリンが呟いた。
……どっちだ?
「ヴァイス、お部屋に荷物を置きに行きましょうか」
「あ、ああ」
今、考えるのはやめておこう……。
階段を上がって各部屋に移動した俺たちは、荷物を置いて少しだけ休憩することにした。
ベッドに腰を掛けると、窓から海が見える。
最高だな。
視界の先ではシンティアが荷物を整理していた。
その後、おもむろに上着を脱ぎ始める。
乳白色の透明な肌、うなじが綺麗だ。
サラサラの金髪が揺れるたびにふと思う。
この素晴らしい女性が、俺の婚約者なのか、と。
その横では、リリスもいた。同じように上着を脱ぎ――。
「……って、何してんだ?」
「あれ? ヴァイス様は着替えないんですか?」
「……そうか。そういえばそうだったな」
すっかり忘れていた。
スケジュールが決まっているのだ。
効率よく楽しみたいからと、俺の知らない女子会で決めたらしい。
手作りしおりに視線を向けると、随分とかわいいイラストも満載だ。
はっ、まったく。
「ヴァイス、着替えましょう?」
「ヴァイス様、ほらほら」
シンティアは、白い肌とは対照的な黒い下着を身に着けていた。およそこの世界にはないほど作りこまれた可愛らしいリボン付き。
黑いブラは、もはや隠しきれていないたゆんがのぞいている。
……悪くない。
リリスは華奢だが、その分身体が引き締まっている。くびれは、思わず手を伸ばしたくなる。
純白の下着で、とても女性らしいものだ。
いいだろう。
そして俺は、あれとあれよと着替えさせられた。
――水着に。
「さて、面倒だが海に……いくか」
「ヴァイス、その黒い眼鏡似合ってますね」
「ヴァイス様の新作水着、おしゃれです!」
俺の通常時と同じく、メロメロン柄の水着は、ゼビスに取り寄せてもらったものだ。
やはり、俺一番かっこいいな。
そのとき、シャリーの声が廊下に響いた。
「アレン、まだ着替えてるっていったでしょー!!!」
「ご、ごめん!?」
まったく、ベタベタな奴らめ。
さて、オリンの水着がどっちか確かめるとするか。
◇
「ベルク、ここどこ!?」
「わかんねえ……見渡す限り海しか見えねえ……」
「はあ、あなたに任せたのが間違いだわ」
「メリルのせいだろ! ずっと寝てたくせに!」
「私は魔法で漕いでたのよ。進路はあなたの役目でしょ」