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015 異例の合格者

 全てのテストが終わった。

 結論から言えば、何もかも余裕だった。


 筆記、魔術、剣術、どれにおいても俺――ヴァイス・ファンセントは優秀な成績を収めただろう。


 ただ一つ気になったのは、主人公アレンの存在。


 原作通り、俺は模擬テストで戦うことになった。


 手加減しろと言われていたが、疼いた気持ちを抑えられず、全力で戦った。


 どうなったかというと……俺の完勝だ。


 アレンは手も足も出ず、俺の創造オリジナル魔法で身体能力が低下、地面にひれ伏した。


 だがあいつの顔を見た時、俺はおそろしくなった。


 やられてもやられても立ち上がって、魔力もどんどん強くなっていく。


 魔法も、剣も、俺の足元にも及ばないはずなのに倒すまでに時間がかかった。


 俺はずっと努力してきた。もちろんアレンもだろうが、それにしては説明がつかない部分が多かったのだ。


 それが心底恐ろしかった。


 これが主人公なんだと叩きつけられた気分になったのだ。



「楽しそうでしたね」

「ん? 何がだ?」

「アレン、という子と戦っている時です。笑顔でしたよ。ゾクゾクしました。以前の……ヴァイスみたいでしたが」


 シンティアにそう言われて驚いた。おそろしいと思っていたはずが、どうやら楽しかったらしい。

 自分でもわからないが、生来のヴァイスと、今の俺の気持ちが混在しているのだろう。


 何とも言えぬ不安。


 とはいえ、今は一段落したのは間違いない。


 今は深く考えず合否を待てばいいか……でも……


「リリスとシンティアに一つ聞きたいんだけど、いいかな?」

「はい?」

「どうされましたか?」


「俺がもし、誰かを再起不能なまで叩き潰したいって言ったら……どうする?」


 こんなことを聞く自分にも驚いた。だが気になったのだ。二人は、どう感じるのだろうと。

 

「……どういう意味かはわかりませんが、私はヴァイス様の全てを肯定します」

「私もリリスと同じですわ。ヴァイス様のお言葉一つで、どんな人間にもなれます」


 二人の忠誠心というか、あまりの返答の早さについ笑みを零してしまう。

 ああ、やっぱり俺は善人じゃない。


 まだ明確な答えはでないが、俺は俺らしく、破滅を回避しよう。


「ありがとう、参考になったよ」

「ヴァイス様、迷った時はコイン、という話もありますよ!」


 裏か表、潰すか、潰さないか、それも面白いかもしれない。


 ◇ ◆ ◇ ◆


 ノブレス学園――会議室。

 学園長、教師、そしてヴァイスのよく知った二人の人物が集結していた。


「それでミルク殿、ゼビス殿、ヴァイス(・・・・)に何をしたのじゃ」


 ほりが深く、鋭い眼光、白いひげを蓄えたお爺さんが、上座に鎮座しながらわしゃわしゃと髭を触っていた。


「何も。強いて言えば基礎訓練を施した程度です」

「私もそうですね。食事を支えたくらいです」


 平然と答える二人だが、大柄で燃えるような怒髪天の赤髪の男が、テーブルを強く叩く。


「お前たちふざけるなよ! 四大属性にくわえて光と闇の創造オリジナル魔法だぞ? その程度の訓練で習得できるわけがないだろう!」

「ダリウス、静かにするんじゃ。彼らは嘘をついておらん」

「でも! ……学園長、流石に『アレン』のやつが可哀想です。あいつは秀でた才能を持っていました。それが『ヴァイス』のせいで死ぬところでした」


「真剣勝負に負けたからといって喚くな。お前は戦場でも同じことを言うのか?」

「あぁ? ミルク、お前がヴァイスの誘いを受けたから俺が代わりにアレンの指導に当たったんだろうが! 何だその言い草は!」

「嫉妬は見苦しいぞ。弟子が負けたから私に八つ当たりか」


 鼻息荒いダリウスだが、ミルクは平然と答えた。

 それを止めるのはゼビス。


「ミルク、ダリウス、やめましょう。――学園長、教師でもない私たちを呼んだのは他に理由があるんでしょう」

「うむ、ワシも以前からヴァイス・ファンセントの噂は知っておった。だからこそあの能力、いや資質は危険かもしれぬ。師として、執事として、お前たちがどう感じているのか聞かせてほしいと思ったのだ」


 学園長は静かに言った。

 それを聞いたミルクとゼビスが、微かに笑みを浮かべる。


「ヴァイスは面白い。善の時もあれば悪の時もある。私もまだ見極め切れないが、あいつが作る未来を見たい」

「……同じくでございます。ですが、彼は変わりました。決して弱者にその力を使うことはないと断言できます」


「……ふむ、そうか。すまんのう、なんせヴァイスは全ての試験で歴代最高記録を塗り変えおったんじゃ。だが戦闘テストではやりすぎという声もあった。今までの噂を踏まえると苦情が多くてな。担当にあたった試験官がみな、おそろしいと口をそろえていたんじゃよ」

「そうですか、しかしそれが何か合否に関係がありますか?」


 ミルクの物言いにダリウスが声を荒らげようとするが、学園長が前に出ると、無言で手を出し制止した。


「お主の言う通りじゃ、何も関係はない。幸い今年は粒ぞろいだの、平民『アレン』、聖なる娘『シャリー』、サイレントウィッチ『リリス』、氷の『シンティア』、そして全ての属性を習得している『ヴァイス』か、他にも何人か面白いのもいると聞いたが、いいだろう。今年は合格者を規定より増やすことにするぞい」

「な!? 学園長!? それだと前例が!?」

「ルールなんてくそくらえじゃ、なあミルク、ゼビス」


 学園長は、静かに笑う。それを見たミルクが、めずらしく声を出して笑う。


「いいですね、その顔。暗黒戦争で駆けていた時と同じですよ。ギルス学園長」

「懐かしいですね。ギルスさんはまだしも、ダリウスが教師をするとは思いませんでしたが」

「ゼビス、オレぁお前のその口調のほうが気になるがな」


 四人は、過去の記憶を思い返し笑みを浮かべた。



 そして今年、異例の合格者数を出したノブレス学園。


 その中でもトップの成績を誇ったヴァイスの噂は、在校生、卒業生、そして権力者たちに広がっていった。


 今年は、とんでもない『最凶』がいると――。

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