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133 師匠と弟子

「……眠るんだなこの人も」


 などと当たり前のことを言いながら、ぼおっと顔を眺めていた。

 燃えるような赤髪、ミルク・アビタスがすやすやと眠っている。


 今は馬車の中、規則正しいリズムが心地よい眠気を誘う。


 だが俺はふと目が覚めてしまい、ただ師匠(・・)を眺めていた。


 顔だけに集中すれば、これほど美人な女性もいないだろう。

 整った目鼻立ちに引き締まった肉体、最高のたゆんも――おっと、これは良くない。


 今まで何度も顔を合わせてきたが、まさかあんな表情をするとは思わなかった。


『ヴァイス、頼みがある』


 タッグトーナメントが終わり、短い休暇に入る直前、突然にそう言われた。

 一体どんな怖い訓練が待っているのかと思っていたが、そうではなかった。


『親がちょっとうるさくてな。その……家に一旦帰宅するんだが、着いてきてくれないか。この歳になると色々とうるさくてな。実際に弟子を見てもらえば、まあ少しは納得するだろうと』

『もちろん構いませんが、俺でいいんですか? ほかに――』

『どういうことだ? 私が正式に弟子を取ったのは、お前だけだ』


 だが嬉しくもあった。ゼビスの口添えとはいえ、俺のことを特別視してくれていることに。もちろんシンティアとリリスもだが、正式という意味では確かに俺だけなのだろう。

 

 まあ一番驚いたのは、ミルク先生がちゃんと貴族だったことだが……。


 確かに親からすれば不安だろう。

 冒険者になって騎士になって先生になって……。


 俺は今までのミルク先生を知らない。


 何を感じ、何を見てきてきたのか。知っているのは、簡単なプロフィールだけだ。


 だからこそ是非にとお願いした。

 シンティアも快く送り出してくれたのが嬉しかった。


 魔族については不安はあるものの、俺とミルク先生なら問題ないだろう。他のみんなも、それなりの護衛を付けることになった。

 まあリリスの件を鑑みると、すぐに手を出しては来ないと思うが、油断はできない。


「……ん」


 しっかし本当に……綺麗だなあ。

 貴族っていっても結構荒っぽいところなんだろうか。


 思えばヴァイスの屋敷も辺境だったし、なんだかシンパシーを感じる。

 すげえ強い家系なのかな。


 ……鍛えてもらおうかな。


 そんなことを考えつつ、俺はまたひと眠りした。


   ◇


「おかえりなさいませ、ミルク様。ようこそいらっしゃいました。ヴァイス・ファンセント様」

「ああ、父と母は?」

「夕方にご帰宅されるかと思われます。先にお召し物をお預かり致します」

「ヴァイス、お前も着替えておけ。風呂も入っておくか? ん? どうした、ヴァイス」


 予想を裏切るのがノブレス・オブリージュ。だが、久しぶりに度肝を抜かれた。

 確かに辺境屋敷、辺境だが――。


「あ、あ、はい」


 室内は煌びやかな装飾、壁には高級そうな絵画、左右には執事とメイドが等間隔に立っている。

 デカい、デカすぎる。後人も多すぎる。

 ファンセントもかなり広大な庭と屋敷だが、アビタス家はその二倍はある。


 一体なんでミルク先生は騎士から冒険者に?


「ミルク様、こちらへ」


 そしてミルク先生こと俺の師匠こと名門貴族アビタス家の人は、奥へ連れられて行く。

 すると俺には、とても可愛らしいメイドさんが四人ほどやって来る。


「お預かりさせていただきます」


 服を一枚、また一枚を奇跡の技のように取られていく。

 だいぶ洗練されているみたいだ。


 するとお湯の音が聞こえてくる。それには俺も思わずごくりと唾を飲み込んだ。

 

 ……気になる。


「汗を流させていただきますので」

「いや、一人がいい」

「そうはいきま――」

「一人が好きなんだ。いいだろ?」


 俺はいつもの五倍増しくらいイケメンヴァイスならぬヴォイスでメイドに伝えると、一人で服を着替えた。

 湯道は繊細なのだ。


 はやる気持ちを抑えて風呂に足を踏み入れると、黄金が輝いていた。

 装飾もそうだが、竜の口からお湯が流れている。まるで宮殿だ。


 すごい……。


 ノブレス・オブリージュではなぜか風呂の装飾が良かったりする。というか時代設定も謎だったりもする。

 開発陣に温泉好きがいたとの噂だが、本当のことはわからない。


 だがそんなものはどうでもいい、最高だ。


 しかしここで湯にダイブするのは素人、まずは身体を清めてからだ。


 丁寧に汚れを取った後、足からゆっくりとお湯に浸かる。

 少し熱いが、俺にはちょうどいい。


 ああ、これだこれ、これだ。


「これが……幸せか」


 良いサプライズに喜びつつ、時間を忘れるほど楽しんでいた。

 もし俺が主人公(アレン)ならサービスシーンとしてミルク先生が来るかもしれないが、ヴァイスではないだろう。


 さすがにそろそろ出ようとお湯から上がる。


 だがそのとき、声が聞こえてきた。


「お嬢様、いけません!」

「ダメです、お嬢様!」


お姉様(・・・)婚約者(・・・)はこの目で確認します」


 ……お姉ちゃん?


 そしてその瞬間――女の子が現れた。

 キレイな真紅の赤髪、幼い顔立ちだが、年齢は俺と同じくらいか少し下か。

 いやそれより、ミルク先生にかなり似ている。


 若い頃のミルク先生と言われたら信じるだろう。


 ってことはまさか――。


「――初めまして。私は妹のカフェ・アビタスです。あなたがヴァイス・ファンセントさんですね」

 

 凄く丁寧にお辞儀された後、俺のヴァイスのヴァイスがあらわになっていることにようやく気付く。


 そしてミルク先生の幼いバージョンのカフェは、少しだけ頬を赤らめた。

 てか……妹なんていたのか。


 こんなの原作では書いてなかったぞ。


「だ、大合格です」


 今お前、どこ見て言った?

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