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132 才女、メリル

 魔法はイメージの世界だ。

 脳内で描いた図が、術式が、魔力で構築されて現実化する。


 複雑な手順ではないが、実現するまでは非常に難しい。


 誰もが苦労するのは、最初の一回目だ。


 例えば火の魔法を出そうとする。しかし火を思い浮かべるだけでは足りない。


 抽象的になるが、木と木をこすり合わせてから火を起こすような感じでないといけないのだ。


 それを理解してようやく半分以下、後は術式と魔力がそれを現実化させる。

 更には持って生まれた属性の才能がないと発動もできない。


 俺は四属性、今は風、闇と光を主に鍛錬しているが、これには理由がある。


 頭の中でイメージが固まっていないと、威力が半減どころか、無駄な魔力を使ってしまうからだ。


 だからこそ貴族は幼い頃から魔術の先生を付け、正しい手順で鍛えていく。


 魔力量は限界のない筋肉トレーニング、時間をかけた分だけ増えていく。


 例外はあるが、それは本当に例外だ。


 どの分野でもそうだろう。誰からも教わることなくトップに上り詰めるやつなんていない。


 誰もが先人の教えを受け継ぎ、模倣し、それを創造(オリジナル)に昇華していく。


 俺は、共通棟に出来た新しい教室に足を運んでいた。

 ココの術式をふんだんに盛り込んだ結界によって密閉された空間で、内装は少し小さい体育館だ。白を基調としていて、プラネタリウムでも始まりそうな雰囲気がある。入場には合言葉は必要だ。


 それがないと驚いた事に入れない(・・・・)


 それは、ココの凄さを表しているといっても過言ではない。


 防御を極めた彼女だからこそできる、結界のようなものだ。


 扉が開いた後、俺はこの世界で初めての感情を味わっていた。


 魔法を、ただただ花を眺めるように美しいと思ったのだ。


「――火、水、風、土――」


 シンティアのことが好きでたまらない下級生、メリルが、大きな魔法の杖を片手にくるくると踊っていた。

 彼女の周りには属性魔法が煌びやかに輝き、身体を追いかけるように虹色が道のようにできている。


「はっ、すげえな……」


 メリルのストーン家は名家中の名家だ。

 生粋の魔術師の家系で、幼い頃から英才教育を施されてきた。


 ノブレス・オブリージュでは、女性の魔法使いが強いとされている。

 理由は定かではないが、繊細な心がイメージに作用されやすいのだろう。


 実際、俺たちの中でも、シンティアやカルタ、シャリーがそれに当てはまる。


 だがそんなシンティアでも「あの子は特別です」と言っていた。


 しかし実際にこの目で見ると――圧巻だ。


 おそらくアレンの模倣ですらここまでの完全習得はできないだろう。


「ふう……――って、ヴァ、ヴァイス先輩!?」


 俺に気づいたメリルが、恥ずかしそうに頬を赤らめた後、頭を大きく下げる。

 ベルクと違って丁寧で好感が持てるな。


 まあ、ベルクの元気さも嫌いではなくなってきたが。


「悪いな。あまりにもその……綺麗だったから見惚れていた」

「え……視えてたんですか?」

「? ああ、そういうことか」


 すっかり忘れていた。彼女がとんでもなく規格外の魔法を扱うことに。


「それで、どうして俺を呼んだんだ?」

「――ヴァイス先輩。私と一戦戦ってもらえませんか? もちろん、ご指導として規定の金額を――」

「ここは学校だ。そんなものはいらない。――どうせわかっていた。来い」


 ベルクと話している時は随分と砕けているが、普段は丁寧だ。いや、丁寧すぎるが。


 メリルはまた頭をペコリと下げ、魔法の杖の先端を俺に向けるような構え方をした。


 そして――。


異なる魔法(フォースエレメンタル)


 静かに魔法を詠唱、杖の先端から四方に魔法が放たれる。


 魔力の淀みが一切なく、余分な力を一切使っていない。おそらく無駄な消費はゼロに等しいだろう。


 そして魔法は、それぞれ右上左上右左に飛び散るが、それが全て追尾により襲いかかってくる。


 何より凄いのは、そのすべてが無色透明だということだ。


 しかしこれは無属性ではない。


 隠蔽魔法を駆使し、限りなく視えなくしている。


 防御魔法は、属性に適した魔法を詠唱するのが普通だ。


 それは自身の適した魔法とは関係なく、水相手には水を想定した防御(シールド)をイメージする。


 だがメリルはそれを防ぐ為に、隠蔽魔法を混合している

 防ぐのも困難だが、防御できたとしても貫通したり、大幅に魔力量を消費させられる。


 ミルク先生は、基礎が何よりも大事だと言っていた。


 魔力砲はただの初級魔法攻撃だ。だがメリルは、それを必殺技以上に昇華させている。


 たったこの一瞬で、彼女の凄さがわかった。


 だが――。


闇防御(ブラックシールド)


 俺は四方を闇で覆う。メリルの全ての魔法が、無情にも砕け散る。


「……やっぱり、凄いですね。ベルクの言う通りです」


 俺の持つ闇だけは破格だ。属性に適した防御を詠唱する必要がなく、全てに適合する。

 その分、魔力の消費は多いが、それを上回るほどの鍛錬があれば別だ。


 そして俺は――癒しの加護と破壊の衝動を足で地面で叩いて発動させた。


 魔法陣が広がっていくと共に、メリルの魔力が俺に流れ込んでくる。


 ……やはり、とんでもない力だ。


「想像以上だ」

「……凄い。そんな魔法、どうやって作るんですか?」

「努力だな」

「ふふふ、私、ノブレスに来てよかったです。――世界は広いって、気づきましたから」


 そしてメリルは、まさかの地を駆けた。

 杖の先端に魔法を付与し、それを隠蔽魔法で覆う。


 単純な打撃に魔法を付与した攻撃。


 土――いや、水? いや、火――。


 メリルは属性を次々に変化させる。物理攻撃を闇防御で防ぐのは難しい。


 ――おもしろい。そんなこともできるのか。


「そっちも十分化け物だな」


 俺は、横に薙ぎ払われた魔法の杖を後方に飛んで回避すると、右手で魔力砲を放った。

 メリルの魔力を吸い込んでいることもあってとんでもない大きさで放たれる。


 しかしメリルはそれを防御(シールド)で防ぐ。


 やはりキレイだ。ココの授業のおかげでよくわかる。


 たとえるなら、定規を使わずに綺麗な線をいくつも引いているみたいなものだ。

 類まれな努力が見て取れる。


「まだまだやれますよ。私は!」


 そしてメリルは、何度も魔法を放ち、俺を楽しませてくれた。



「……も、もうダメです……」


 だが最後は杖を支えにしながら片膝をついく。

 気温は一定に保たれているが、彼女は汗だくだ。


 凄まじいほどの集中力なのだろう。


「おもしろかった。勉強になったよ」

「えへへ、私、ここへ来るまで誰にも負けなかったんですよ。でも、シンティアさんには敵わなくて、ヴァイス先輩に至っては足元にも及ばないなんて思いませんでした」

「先輩だからな。涼しい顔をしているように見せてるだけだ」

「ふふふ、ベルクの言う通り、ヴァイス先輩は優しいです」


 俺も正直、下級生なんて、と甘く見ていた。

 原作に引っ張られすぎていたのだろう。


 だがこの世界は現実だ。


 謙虚とまではいわないが、凝り固まった頭にはならないようにしないといけない。


 入学当初、俺はカルタに対して飛行魔法を教えてくれと頼んだ。


 それがすべてのきっかけだったかのように思える。


 いつのまにか他人を見下すことが多くなっていた。


 ……原点に戻る……か。


「メリル、その隠蔽魔法の術式を教えてくれ。その代わり俺は、お前の望むことを叶えよう」

「え、いいんですか?」

「ああ」


 不自然な壁(アンナチュラル)、風の斬撃、身体強化(スケールアップ)、いや、もしかすると癒しの加護だけなら彼女なら習得できるかもしれない。


 何を望むのか、気になるところでは――。


「だったら、シンティアさんと一日デート権っ! あ、ダメなら……。四人デート権っ!」

「……は?」

「あ、望みすぎでしたかね?」

「いや……四人ってなんだ?」

「ベルクと私です!」


 ……それでいうと俺の相手はまさか。いや、そんなことないよな。


「魔法や技じゃないのか?」

「いや、めっちゃ知りたいです。でも、一番って言われるとやっぱり……」

「はっ、おもしろいやつだな。だがそれは俺が決めることじゃない。だが――今度シンティアに聞いといてやる」

「本当ですか!? やったあ! あ、隠蔽魔法のコツはですね」


 さすがに申し訳なくなった俺は、魔法も教えるぞといったが、交換なので! と強く言われた。


 しかし俺は、ベルクとメリルのおかげで、忘れていた気持ちを思い出していた。


 魔族の出現、物語が進んでいることで消えていたのだ。


 だがこの世界はゲームじゃない。


 俺は生きている。


 戦うのは楽しいって気持ちを、できるだけ忘れないでいよう。

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