129 合同訓練
ノブレスでは通常の授業とは別に、他学年との合同授業がある。
記憶に新しいのであれば、シエラやエレノアと戦った雪合戦がそうだ。
今年からというわけではないが、例年よりも増やしていくと学園長が明言していた。
ノブレスも変わっている、それもまたおもしろい。
だが最近、下級生、という言葉を聞くたびに俺は左右を確認してしまう癖がついていた。
メロメロンの詰め合わせ、混んでいる時間での食堂の席取り、あいつの後輩力は認めざるを得ないが、なぜ俺が好かれているのかわからない。
いや、わかっているが。
「先輩、楽しいっスねぇ!」
「――ったく」
三度の飯より戦いが好き、という言葉があるが、ベルクの座右の銘は間違いなくそうだろう。
今は市街地C、中世ヨーロッパ風の街並みの真ん中で、俺とベルクは戦っていた。
下級生首位のベルク、まあ同率のメリルもいるが、俺が対戦相手に指名された。
周囲には、同学年や後輩が眺めている。
戦うのは嫌いじゃないし、強くなるために何でも利用はするつもりだが――。
「おい、ワクワク小僧。なんでそんな戦うのが好きなんだ?」
「んーっ、なんでっすかねえ。生きてるって感じしません? 後、強い奴をぶっ潰すときの快感とか、最高じゃないっすか! あ、でも先輩は違いますよ!? 尊敬してるんで!」
「はっ、そうか」
アレンよりは俺に近いみたいだな。
ちぃとばっかし、好感度が上がったぜ。
「じゃあ、失礼しまっす!」
ベルクは高く飛び上がったかと思えば、太陽を背にしていた。
ったく、こういう卑怯な手を使うところも随分と俺好みだ。
しかしそれは――悪手だな。
――一撃必殺。
俺は、空中で無謀に身体を晒しているベルクに、斬撃を飛ばす。
だがこれではやれないことを、俺は知っている。
「ぬおおっ!? それ、強すぎっすよ!?」
次の瞬間、ベルクは飛行魔法の揚力を器用に操り、身体を回転させた。
カルタほどではないが、圧倒的なセンス。
おそらく才能だけで言えば俺やアレン以上だろう。
そして――。
「来い」
「はい!」
地面に着地した瞬間、思い切り地を蹴り、飛び掛かってくる。
まるで猫だ。だが剣技はなめらかで非常に美しい。
軽快な口調とは裏腹に、ベルクは三歳から名門家系に生まれたこともあり、最高峰の先生たちから剣術、体術、魔術を教わっている。
そして保有する属性はなんと。
「いきまッス!!!」
右手、左手、右足、左足に、四大属性を全て付与し、回転しながら蹴りと剣技を放ってくる。
さっきと180度違って今度は何をしてくるのかわからない野生攻撃だ。
ったく、おもしろいやつだ。
「ベルク、すげええな」
「ああ、マジでやべえ」
「でも、ヴァイス先輩は――もっとやべえ」
しかし俺は全てを見切り、寸前で回避。さらに不自然な壁をベルクの足元に置いて、上空に飛ばす。
追い打ちをかけるように俺も飛び掛かると、そのまま空中で何度も切り刻み、地面に叩き落した後は回避できないように四方を不自然な壁で囲って、俺はベルクに向かって剣を突き立てて下降する。
「……くっそお……」
だがベルクは手を翳し、四大属性の四つ重ねた防御を展開させた。
属性には相性がある。
一つ一つを変化させるのは至難の業だが、理論上、最高峰の防御となる。
たとえ俺の閃光でも術式破壊には時間がかかるだろう。
今までの俺ならだが――。
「腐食の剣尖――」
俺は、新しい技を編み出していた。
エレノアのように手を覆うことはできなかったが、剣の先端に腐食を付与している。
これにより術式破壊の速度が圧倒的に加速した。
以前、アレンの防御を突き破るのに苦労したが、今なら一瞬だろう。
もちろん、ベルクのもだ。
「――じゃあな」
俺はベルクの心臓を突き刺し、魔力を漏出させた。
「うああああああ、ヴァイス先輩かっけー!」
「ベルクがあんな簡単に……」
「すげえなあ、ベルクってここ来るまでほぼ無敗だったんだろ? マジでやべえ」
「あれ、なんかヴァイス先輩の顔赤くね? もしかして攻撃食らってたのかな?」
後輩たちがそれをみて騒ぎ立てる。
だが今までにない持ち上げられかたで、少し反応しづらい。
……ったく。
「ヴァイス、お疲れ様ですわ。私も、先輩としてお手本をみせてきます」
「ああ、頑張れよ」
そして次は、同率一位のメリルのご指名により、シンティアが前に出る。
「し、シンティア先輩、すみませんご足労いただいて!」
「まだ足を十歩動かしただけですわ」
ベルクと同様、ゆっくりと指導、なんてできる相手ではない。
シンティアは、氷剣を開幕から出現させた。
それに対し、メリルは手に大きな魔法の杖を持っている。
カルタのより大きい。確か原作では終盤にしか買えない死ぬほど高いレアものだ。
さすが名門貴族。
……羨ましいな。
「――凍てつく水、炎、風、土よ。解き放て!」
にへへっとした笑いから一転、メリルは杖をかざし、これまた四属性を混合させた魔力砲を放つ。
大きさはそれほどでもないが、笑ってしまうぐらいの魔法センスだ。
防御するには対する防御術式を展開しないといけないが、メリルの魔法は防ぎづらい。
たとえ防いだとしても、防御で魔力を大幅に消費してしまうだろう。
更に追加言語詠唱により属性威力を倍増させている。
言葉で扱う魔法は意外にも難しく、巧みな技術が必要となる。
凄い。だが、シンティアは絶対零度がある。
「氷の盾」
魔法使いのアドバンテージと、近接での戦いも両方こなせる彼女に一般同様の隙は存在しない。
片手に漲らせたノブレスでも最高峰の盾で魔法を凍らせながら突き進む。
メリルは生粋の魔法使いだろう。
だが――。
「――我が力なりて、風よ、私に力を」
彼女もまた飛行魔法の使い手だ。
ベルクよりも凄い。だがやはりカルタほどではない。
しかし空の領域はこの世界において圧倒的だ。
とはいえ、相手はシンティアだ。
「氷の翼」
彼女は天才なのだ。生まれながらにして進化属性の氷が使える上に、圧倒的な魔力量。
完璧な状態での戦闘においてこれほど脅威を感じる相手はいないだろう。
そのまま戦いは空へ。メリルは四大属性の魔法をとめどなく放ち続ける。
それも飛行魔法をしながらだ。例えるなら両手両足で複雑な文字を書いて、更に会話しているようなものだ。
ありえない、ありえないが――。
「――メリルさん、素晴らしいです。しかし、私には勝てません」
遠距離と近距離、更に飛行までこなすシンティアには通用せず、メリルは空中からたたき落される。
地面に落ちたかと思えば、最後は氷の槍で止めを刺された。
さらに医師同等の治癒魔法も扱える
たとえダメージを与えてもすぐに回復されるだろう。
何よりも恐ろしいのは、シンティアは肉を切らせて骨を断つことができるのだ。
たとえ四肢を犠牲にしてでも敵を倒すことができる。
それが、どれだけ恐ろしいか。
今のシンティアとガチで勝負したらどうなるのか楽しみだ。
そして俺は、チラリとアレンに視線を向ける。
…………。
「アレン先輩、指南お願いします!」
「え、僕? いいけど」
「うれしいです♡」
そこには、金髪ロングたゆんスタイル抜群の後輩から好かれている姿があった。
次の瞬間、アレンに倒れこみ、たゆんに顔が挟まれる。
そして、シャリーに「何してるのよー!」と追いかけられていた。
……クソ、主人公め。そんな王道な後輩なんてズルいぞ。
そのとき、俺の視界に何かが差し出される。
「先輩っ! ありっしたっ! メロメロンジュースっす!」
「……頂くか」
まあ、ワクワク小僧も悪くはないが。






