128 それゆけ後輩くん
ノブレス食堂での食事は、貴重な休憩時間だ。
フルーツを摂取し、筋肉を休め、思考を落ち着かせる。
常日頃訓練のことを考えている俺にとって、唯一何も考えないで済む場所でもある。
だが――。
「ヴァイス先輩ッ!! ここにいたんすね!」
バカでかい声で俺を見つけるなり嬉しそうする奴が現れ、全てが変わった。
「シンティア先輩……かわいい」
そしてその横には、いつものようにちょこんとメスガキがもう一人。
「おいシンティア、リリス、急いで食べるぞ」
「は、はいですわ」
「ヴァイス様は後輩からも人気です!」
しかし時すでに遅し。
俺の前に満面の笑みで座ったのは、今ノブレスの下級生で最も有名な二人、ベルクとメリルだ。
「前、失礼しまっす!!」
俺と同じ金髪だが、刈り上げた短め、体育会系みたいな感じだ。
幼い顔立ちだが、魔術、体術共に凄まじい。
「し、シンティア先輩、いいですか?」
「もちろんよ。どうぞ」
そしてメリル。
彼女は宮廷魔法使いの推薦を蹴ってノブレスへ入学してきた才女だ。
とても可愛らしい見た目だが、魔法に可愛げはまったくない。
ちなみにシンティアが大好き。それが愛情か尊敬から来るものかは知らない。
「先輩、今日も可愛いです!」
「ありがとう、メリルちゃんも綺麗ですわ」
「え、ええー!? 嬉しいです! あ、もちろんリリス先輩も綺麗です!」
「ふふふ、ありがとうございます!」
まあ、シンティアが好かれるのはわかる。
容姿端麗で分け隔てなく対応するからだ。
だが――。
「ヴァイス先輩っ! 飯くったら一戦どうっすか!」
「黙れ」
「くぅー! その冷たさもカッコイイっす!」
俺はこいつに対してかなり冷たくあしらっている。
しかし気にしていない。
猪突猛進や筋肉とはまた系統の違う面倒さを感じる。
「あの下級生、ヴァイスにべったりだな」
「でもあいつノブレスを推薦で入ったらしいけど、凄いよな」
「さすが天才は違うね」
周りのモブどもが会話するのも無理はなく、二人は下級生とは思えないほど周知されている。
その理由は単純明快で、強いからだ。
事実、タッグトーナメント戦でも上級生を倒していた。
ちまたではヴァイスの再来、と言われているらしいが。
「ノブレスの飯はうまいっすね! ヴァイス先輩!」
「……そうだな」
俺はこんな元気じゃない。
つうか、先輩ってこんな大変なのか?
みんなこうやって後輩の相手するのか?
……うーん。
思い返してみるが、よくわからない。
もしかして俺も生意気だったのか?
いや、俺は清く正しく丁寧な男だったはず。
シエラにもエレノアにも敬語を使っていたし、ちゃんと敬っていた。
エヴァにもだ。
うーん、よくわからないな。
「ヴァイス様、なんか悩んでますね」
「悩むヴァイスも可愛いですわ」
学生って、難しいな……。
それからもノブレス学園で過ごしていると、どこからともなくベルクは現れる。
『ヴァイス先輩、手合わせお願いしまっす!』
『ヴァイス先輩、一緒に飯食いません!?』
『ヴァイス先輩のデビッて、何食べるんすか!?』
しまいには眠っているときでも――。
『――ヴァイス先輩っ!』
「――はっ、今ベルクの声がしたような」
「デビビ?」
「……気のせいか。デビ、寒いからこっちへ来い」
「デビビ!」
……これは良くない。
俺のうるおい肌にも悪い。
おかげで染み一つない俺のぴちぴち肌にニキビが一つできてしまった。
「俺のチャームポイントが……」
許さないぞ、あいつ……。
そしてまた廊下で、あいつは満面の笑みを浮かべて俺の名を呼んだ。
近づくな、と強く言うつもりだ。
悪いが、俺は良い先輩じゃない。
「おいベルク、いい加減――」
「ヴァイス先輩っ! メロメロンの詰め合わせっす!」
「え? 詰め合わせ?」
「はい! いつも迷惑かけてるんで! すいませんっ!」
ベルクは、世界各地で取れたであろうメロメロンの箱を持っていた。
こいつは貴族で、それも名門だ。
普通は手に入らない東、西、南、北も!?――。
「……これを俺に?」
「はい! いつも世話になってるんで!」
いや、勝手にお前が来てるだけだが。
しかし――。
「そこまでいうならもらっておくか」
「はい! 良かったら今から手合わせしてもらないっすか!? あ、でも遅い時間っすよね……」
「……まいいだろう。訓練室Bで一戦だけだな」
「あざっす! 嬉しいっす!」
ふむ、まあでも多少は可愛げがあるかもしれないな。
先輩として、少しは面倒を見てやるか。
◇
同時刻――シンティア、自室。
部屋を訪れたメリルが、シンティアにプレゼントを手渡していた。
「シンティア先輩。これ、いつもお世話になってるので」
「……これどうしたのですか?」
「そのお礼を形にと思いまして。喜んでもらえるかなと」
「……か、かわいい。かわいい。かわいい。かわいい」
それは、ヴァイス・ファンセントがデフォルメされた人形であった。
全身もふもふで、右手には魔法剣、そしてデビ人形も付いている。
西地方で創られたもので、精巧と可愛さとモフモフが売りの人気商品だ。
以前、シンティアも作ろうとしたが、予約でいっぱいと言われて不可能だった。
「メリルさん、良かったらお茶でもどうですか? 良いスイーツもご用意しますわ」
「いいんですか!? 嬉しいです!」
ヴァイス、シンティア、両名、同時刻――陥落?






