4 俺の適性は、世界一だ!
「じゃあいろいろ説明する前に、こちらの水晶に手をかざしていただいてもいいですか?」
ネルという受付嬢がボーリング玉くらいの水晶を差し出してきた。
水色で、ピカピカだった。
「これは?」
「魔道具ですよ。かざした人の大体のポテンシャルを数値化することができるというものです」
ポテンシャル? ゲームのステータスみたいなものなのかな。
「調べてどうなるんですか?」
「当然、今後の参考になるんじゃないですか?」
お前もよく分かってないのかよ……
「明確なデータがあった方が戦力も計算しやすいでしょうしね。強さがハッキリしてた方が依頼なんかも割り振りやすかったりするでしょう?」
「なるほどー!」
テーナの言葉に受付嬢ちゃんが納得していた。立場がぐちゃぐちゃだ……
とにもかくにも、俺は水晶に手をかざしてみた。
「……なにも起こらないぞ?」
「しばらく手をかざしてみて下さい。ポテンシャルの値によっては高ランクからのスタートもあり得るそうなので、気合いをいれて下さいね! よそのギルドではAランクからスタートした事例もあるみたいですよ!」
そう言われてもと思いながらもかざしていると、水晶玉がひときわ輝き始めた。
おお! すごい! これはひょっとしたら俺の秘められたポテンシャルがこの世に顕現しようとしてるんじゃないか? 思えば俺は神から能力を与えられてる訳だ。
ここでとんでもない数値がでてもおかしくないんじゃないか!?
「えー、あっ、全部平均以下の数値ですね。最下位のFランクからのスタートとなります」
ということらしかった。
「いや嘘だろ!? そんな低い数値なのかよ俺」
「そうですね、筋力とか敏捷とかのポテンシャルも成人男性並み……よりもさらに低いくらいですし、保有魔力数値もゼロですね。まぁ冒険者をやっていくには大分寂しい数値ですが、戦い以外にもできることはありますし」
ええ……そんな……てっきり凄いステータスで無双! みたいなパターンかと思ったら全然だったようだ。適当に能力決めるんじゃなかったわ……だってこんなことになるなんて思ってなかったんだもん。悔やんでも悔やみきれん。
「まぁ、あくまでポテンシャルの話でしょ? 努力次第で技術なんかは変わってくるから、そう落ち込むこともないわよ」
「良かったですね、テーナさんに励まして貰えて。それでは冒険者のしきたりなどについて説明させていただこうかと思いますが、よろしいですか?」
「……お願いします」
散々なスタートになってしまったが、その後入会の手続きのようなものを受けた。
といっても名前や得意な戦術などを紙に書いて提出して、冒険者のルール的なことを習うだけの簡単なものだったけどな。
ちなみに得意な戦術などないので、適当に瞬間移動と書いてしまった。
後は冒険者のこころがまえや依頼の受け方などのレクチャーを受けた。まぁ要するに魔物を排除してその対価として報酬を貰えますよーということだ。
「そして依頼達成を重ねていけば、上のランクに昇格することができるんです。まぁ昇格試験を受ける必要がありますけどね」
「僕はFランクからですよね? 一番上は何ランクなんですか?」
「Sランクですね。まぁでも基本的には英雄クラスの人しか辿り着けない領域らしいですよ。世界でも四人しかいないとか。まぁハルタさんには関係のない話ですよ」
ああ、そうですか。
「まぁ説明は大体こんな感じですね。質問とかはありますか?」
「いや、特にはないですかね」
「それでは以上をもって入会手続き完了とさせていただきます。ハルタさんのご武運をお祈りしております」
というわけで、俺は晴れて冒険者になれた。
「よし、とりあえずは冒険者になったわけだが……これからどうしようか?」
「どう? 終わった?」
隣のカウンターで勘定をしていたらしいテーナが話しかけてくる。
「ああ、おかげさまで無事終わったよ」
「これからどうするの? 誰かとパーティーを組んだりするの?」
パーティー? そんなことまるで考えてなかったな。そもそも何をしたいのかも分からないのに。
「さぁ、とくに考えてないけど……」
「普通ならパーティーを組んで依頼を受けるものよ、その方が協力しあえて戦略の幅が広がるから。まぁその分もめ事なんかで悩まされたりもするんだけど」
「なるほどな」
確かに冒険どころかこの世界について何も分かってない俺からしたら、誰かと組んでおいた方が助かったりするのか? お互い協力しあってってのも憧れるよなぁ。
「テーナさん、ハルタさんが誰かとパーティーなんて組めるわけないじゃないですか。初心者中の初心者なわけなので、まずは武器の扱い方とかを学んだ方がよくないですか?」
ネルという受付嬢が口を挟んでくる。うん、なんかこの子ちょいちょい風当たり強いよな? 狙ってるのか天然なのか……
「それもそうかもね……ハルタは何ができるの?」
「何が……まぁファイヤーボールを撃ったりとか?」
まだ撃ったこともないが、強がりで答えてしまう。
「え、本当なの?」
「ハルタさん、流石に嘘を付くのは良くないですよ。魔法を使えるのなんて千人に一人って言われてますし、その才能を持った人が十年近くの鍛練を重ねてようやく撃てるようになるものなんですよ。第一ハルタさんの魔法適正はゼロだったじゃないですか」
ええ、魔法ってそんなに難易度高いのか。
でも俺の能力はファイヤーボールにしたはずだけど、その辺はどうなってるんだ?
「分かりました、じゃあ今からちょっとクエストに行って試し撃ちしてきます」
「え? クエストって外に行くってこと?」
「いやテーナさんクラスならまだしもハルタさんが一人でなんて自殺行為ですよ。まずはドブさらいとかから始めた方が」
ドブさらいだって? そんなのホームレスと一緒じゃないか。そんな生活するくらいならリスクを背負ってでも魔物討伐した方がよくないか?
「決意は固いんだ。俺を止めないでくれ」
「おお……なんか一瞬かっこよかった……気がした」
「今二時前か……もう時間も時間なんだけど。仕方ない、今回はちょっと私が付いていくわ」
「ええ! テーナさん、そこまでしなくてもいいと思いますけど……」
「一応連れてきた責任はあるから」
付いてきて貰えることになった。