第三札
オレ、時尾 止!4年生!
時間を止めて更に透明人間になれる能力者だぜ!前回の勝利で“止まった世界で瞬間移動できる能力”が追加されて、もうオレにかなう奴はこの世にいないんじゃないかなと思ってる。
ひょっとしたらこの能力はカードゲーム以外でも使えるかもしれない。うまく使いこなせば大会を開催している店を探し回るより、もっと効率的な金稼ぎの方法が見つかるかもしれない。
そんな事を考えていると、止のよく見知った学生服の男が話しかけてきた。
「兄さん、僕が最後の相手だ・・・!」
彼の名は時尾 戻。3年生。
つい最近まで同程度の腕前だった兄が突然圧倒的な強さを見せるようになった事に違和感を覚え、一週間に及ぶ特訓の末、決勝戦まで進める強さを手に入れた男だ。
過去に女性関係で揉めて以来、兄弟は不仲だった。ここ数年は顔を合わせても言葉を交わさない状態であったが、一ヶ月前に押し入れから発掘されたカードゲームをきっかけに改善されつつあった。
「俺のターン!ドロー!セット!ターンエンド!」
止は弟との思い出を回想しながら、いつもの必勝法を繰り出した。
「僕のターン!ドロー!セット!ターンエンド!」
戻は兄との思い出を回想しながら、仕組まれた手札を繰り出した。
両者とも場にはコストカードが6枚ずつ。戦況は五分と五分、兄弟は心の熱を感じ取っていた。
「俺のターン!ドロー!セット!ターンエンド!」
このターンでコストが10溜まったので、止は混沌の火焔龍を召喚した。
「僕のターン!ドロー!セット!ターンエンド!」
戻も混沌の火焔龍を呼び出し、二匹の龍が睨み合う。
そんな二人の戦いをギャラリーは冷めた目で眺め、審判も特に何も言わなかった。
次のターンでは両者が10ダメージずつ与え、そして決着の瞬間はすぐに訪れた。
「いっけえええええぇっ!!」
誰もが予想していた通り、先手の止が初戦と全く同じ手数で勝利した。
その強さに圧倒され、戻は膝から崩れ落ちた。
「僕はまた、兄さんに勝てないのか・・・!」
握り拳を作り、悔し涙を流す戻に手が差し伸べられた。それは止のものであり、顔には笑みが溢れていた。誰かを見下す時の笑顔ではなく、実の弟だけが知る本当の兄の姿だった。
「戻、お前は強かったよ・・・。俺たち今までギクシャクしてたけど、これを機にまた昔みたいに仲良くなれるといいな・・・・・・!」
戻は兄の手を取り立ち上がった。涙を拭き、笑顔を作って応えた。
「僕も、昔の僕たちに戻りたい・・・!」
────こうして世界は終わった。
少年の願いは“時を戻す能力”として発現し、数年の時が巻き戻された。
数年後、兄弟は再び不仲になり、和解し、そしてまた時は戻る。
時が戻る度に少年の記憶はリセットされ、時間は永遠に繰り返す。
時尾 止:時間を止めて更に透明人間になって瞬間移動できる大学4年生
時尾 戻:時間を巻き戻せる高校3年生
新斗さん:株取引で大きく当てて働く必要がなくなった人
姫ちゃん:被害者
審判(店員):実は客