第二札
オレ、時尾 止!4年生!
大人気カードゲーム“カードソルジャー”の公式デビュー戦で世界記録を塗り替えた男だぜ!実はひょんな事から手に入れた時を止める能力を使ったってのは、みんなには内緒だぜ!
そうそう、勝ったおかげでレベルアップしたみたいで、“止まった世界で透明人間になれる能力”も身について、ますます無敵になっちまったぜ!
二回戦の相手は小学2年生の姫ちゃんかぁ・・・。あの子可愛いんだけど、いつも取り巻きの男子が壁作ってて近寄り難いんだよなぁ。将来オタサーの姫になりそう。
相手は年下の女の子だし、初戦でちょっとやりすぎたから手加減してやりますか〜。
「オレのターン!ドロー!セット!ターンエンド!」
止が場に出したカードは全てコストカード。初戦と同じ立ち上がりにギャラリーも黙ってはいられなかった。
「まただー!あいつ絶対インチキしてるよ!」
「店員さん!細工がないか確かめたほうがいいよ!」
ギャラリーの声に押され、もしくは審判自身の判断で権限を使い対戦は一時中断された。
「悪いんだけどデッキを確認させてもらうね。」
審判はそう言い、止の山札に手を伸ばした。
(時間よ止まれ!)
止が念じると写真の如く瞬間が切り取られた。この止まった世界では止が動かそうと思ったものは動かせる。とても都合のいい能力だ。
対戦前に仕込みは済ませておいたものの、手加減が足りなかったのかと不安になり衝動的に能力を発動してしまったのだ。本来は相手の1ターン目で1ダメージだけ食らってあげて、後は初戦と同じ流れで勝利する作戦だったが、計画を変更しないと不正を疑われそうだ。
じっくりと計算し、接戦を装いつつ最後は自分が勝てるデッキが完成した。止は時間を動かす前に少女の髪の匂いを嗅ぎ、優しく撫で、微笑みながら呟いた。
「姫ちゃん、キミはボクのお姫様だよ・・・。」
止は席に着き時間停止前と寸分違わぬ姿勢になると能力を解除し、審判チェックの続きが再開された。しかし今テーブルに置かれている、1ターン目で出したコストカード以降の山札は初戦のような偏った構成ではなく、まともな対戦が可能なものだった。
審判は公平な勝負の為、少女側の山札も確認したがこちらにも怪しい点はなかった。ギャラリーの少年たちは納得できなかったものの、審判の判断は絶対なのでそれ以上追及される事はなかった。
「ドローします。このカードとこのカードと・・・最後にこれを使います!」
対戦が再開され、少女は1ターン目でコストを4枚、そして即時発動するシンプルな攻撃魔法カードを場に出した。“火の玉”はコスト1で相手プレイヤーかモンスターに1ダメージ与える、初心者にもわかりやすいカードだ。
「あっ、あああぁ・・・・・・うわあああっ!!」
突然の止の叫びにその場にいた全員が一瞬驚き、そのオーバーリアクションに嫌悪感を抱いた。
しかしこの叫びは演技ではなかった。止はミスを犯したのである。時間を止めてお互いの山札に細工はしたものの、最初の手札には何もしなかった・・・というより、できなかった。少女とギャラリーには手札が見えていた。それが突然別のカードにすり替われば本格的に超能力の存在を疑われかねない。保身の為にそれだけは避けたい。
審判にはもう山札を見せてしまったのでこれ以上の細工は不可能だ。カードショップの店員ともなれば、両者の山札を全て暗記するなど造作もないことだと理解している。
火の玉によるダメージを引きずったまま接戦になると、先に止が負けてしまう計算だ。ギリギリを演出しすぎたのが間違いだった。
(時間よ止まれ!)
再び時を止め、逆転の一手はないかと山札を確認したが攻略の糸口は発見できず。緻密な計算で細工した結果、相手がミスでもしない限り勝利はあり得ない。
「相手のミスか・・・あの女、今に見てろ・・・・・・!」
止は自宅へ戻り風呂場のぬるま湯を調達し、店に戻ると少女のスカートをたくし上げ、そこにぬるま湯を流した。
能力解除後、少女の様子がおかしくなり突然泣き始め、対戦どころではなくなった。