第一札
オレ、時尾 止!4年生!
ひょんな事から手に入れた時を止める能力で、大人気カードゲーム“カードソルジャー”の頂点になってやるぜ!
常連のカードショップで毎月開催されてる“ソルジャーズファイト”大会!これに勝てば、なんと賞金5千円が貰えちゃうんだぜ!やがて世界の頂点になるオレの公式デビュー戦としてはショボい気もするけど、家から近いしとりあえずここで我慢してやるぜ!
一回戦の相手は新斗さんかぁ・・・。あの人苦手なんだよなぁ。中学生かと思って話しかけたら35歳って聞いてびっくりした。まあいいや、とにかく最初の生け贄になってもらおう。
「オレのターン!ドロー!セット!ターンエンド!」
止は全ての手札を場に出した。対戦相手も審判も、出されたカードを見て「えっ」と声を漏らした。
このゲームでは何をするにもまず“コスト”を確保する必要がある。止が出したカードは全てがそのコストカードだった。
いくら偏っているとはいえ、確率的にはあり得なくはない・・・そう自分に言い聞かせて対戦相手はゲームを続けた。
「ボクの番だね、ドロー・・・・・・っ!?」
彼が引いたカードはコストカードだった。最初の手札も全てコストカード・・・さすがになんか変だと感じたので、審判に手札を見せて対戦のやり直しを要求した。
審判はその異常性を認め、止の了承を得て対戦は最初からやり直す運びとなった。
「オレのターン!ドロー!セット!ターンエンド!」
仕切り直したゲームにて、止が出したカードはまたもや全てがコストカードだった。相手の手札もさっきと完全に一致していた。何が起こっているのか理解できず、とりあえずこの先の展開はどうなるのだろうという好奇心で今度はゲームを中断する事はなかった。
「オレのターン!ドロー!セット!ターンエンド!」
二巡目で止が出したのはコストカードだけではなかった。
“混沌の火焔龍”──それは召喚コストを10も必要とするモンスターカードであり、その重い代償に見合った高い攻撃力を持つ強力なカードである。デッキに入れてもコストが揃わず、召喚する前に対戦が終了する展開が多いので、安定して勝ちたいプレイヤーはまず組まない不人気カードである。
「・・・ドロー。」
新斗さんはもうなんとなく察していた。引いたのは予想通りコストカードだった。
「オレのターン!ドロー!・・・焼き尽くせ!混沌の火焔龍!」
相手プレイヤーに直接10ダメージが与えられた。あと一回もらったら終わるシステムだ。
「ドロー・・・・・・。」
コストカード。
「なんなんだよお前ぇ・・・どんなイカサマしてんだよおおっ!?」
あまりにも一方的な展開に新斗さんは怒りを抑えられなかった。止に掴みかかろうとしたが、審判の制止により暴力事件には発展しなかった。
「負けそうだからって対戦相手をイカサマ扱いして、大人として恥ずかしくないんですか?」
止の発言にまた切れそうになったが、新斗さんはただ深呼吸をして怒りの波が過ぎるのを待った。
その後ゲームは再開されるが、止が二度目の攻撃をしてあっさりと対戦終了。公式記録の最短勝利ターン数を塗り替えた瞬間であった。
止は卑怯な手段で勝利したが、イカサマはしていなかった。“時間を止めて自分と相手のデッキを操作してはいけない”というルールは存在しない。それがカードソルジャーだ。