斉天大聖
薄暗く狭い小屋のような場所で俺は意識が戻った。凄い衝撃だったな。
眼を開けると猿顔があった。あれ、これはウーコンの奴だな。なんでこいつがいるんだ。そもそもここはどこなんだ。
「おお、気が付いたか」
「ウーコンか」
俺は体を起こして辺りを見回す。
「リード様」
そちらに顔を向けるとシロウが居た。汗と煤で汚れているのだろうか。随分疲れているようだ。その脇にはジンベエ。もう、あのギラギラした表情ではなく、汗と脂でべとべとして、観念したような顔をしている。
「これは一体」
俺も頭が回らない。ここは火の国なのか。
「リード様。玄奘様は猿の姿になられてしまったのでしょうか」
シロウもかなり取り乱している。
「転移の外法はうまくいったと思ったのですが、この場所まで逃げてきたら、空間が逆に捻じれるような感じになって、お二人が吐き出されるように現れたのです」
「逃げてきた?」
「はい、あれから陽が沈むころに総攻撃が始まったのです。増援があったらしく、兵隊も倍増し、種子島もどんどん撃ち込まれてきました。そして大砲も撃ち込まれたのです。我々が右往左往しているうちに屋敷には火が放たれ、また妖怪も三体現れました。私達は這う這うの体で城郭の外れの小屋に逃げ込んできたのです。そこにリード様達が現れたわけでして」
シロウとジンベエのほかには武具を付けている男と野良着のままの男が一人ずつ。逃げおおせたのは4人と言うことのようだ。あれからかなり時間がたったんだな。
「そちらの事情はわかった」
俺はウーコンに向き直り。
「ウーコン。そっちのことも教えてくれ」
「うむ。あれから俺達はどうにかニウ魔王達を追い払うことができたんだ。それで手分けをしてオシショウサマとお前を一生懸命探した。かなりの時間探したんだ。それで俺一人だったが、なにか妙な空間を見つけてな。そうそう、お前が初めて俺達の目の前に現れた時のような、あんな蜃気楼みたいな光景だった。ただ、どうしたらいいかわわからない。それで俺が手を拱いているとホーシャンがやってきたんだが、その直後にお師匠様の姿が見えた」
そこで、ウーコンは一息ついた。
シロウ達もここまで聞いていればウーコンとオシショウサマが別だと言うことは見当がついているだろう。
「俺はアッと思ってお師匠様に跳びついたんだが、それが悪かったようだ」
「蜃気楼の渦に飲み込まれたんだな」
「ああ、お師匠様には触れられなかった。お師匠様に抱き着いたと思ったら、そのまま通り過ぎちまったんだ。多分、まだお師匠様が実体になっていなかったんだろうな。そのまま俺は渦に入っちまったんだが、そこで何かにぶつかったな。すごい衝撃だった」
俺とぶつかったってことだな。
「ところでここはどこなんだ」
「ヒノモトの国の中のヒノ国というところだが、ヒノモトの王の軍に攻め込まれて壊滅状態だ。この人達は信じる神のもとのパライソというところに行くそうだから、俺とオシショウサマを返してくれるはずだったんだが、俺の方はウーコンとぶつかって戻されちまったようだな」
「ウーコン様とおっしゃいましたか」
シロウが何か興奮した感じで話に入ってきた。
「俺の名前はウーコンだが」
「玄奘三蔵様の元のウーコン様と言えば、斉天大聖孫悟空様の現地名ではありませんか」
「おお、俺の名前を知っているのか。いかにも俺は斉天大聖だ」
ウーコンも割と有名らしい。どや顔をしている。その表情はわかりにくいが、旅を続けてきたので、なんとなく鼻高々な様子がわかる。
「玄奘三蔵様が実在の方と言うことはもちろん知っておりましたが、斉天大聖様はおとぎ話に出てくる方と思っておりました。斉天大聖様も実在し、お会いできることはこの上ない光栄。この四郎、パライソでゼス様への土産話ができましたぞ」
疲れていたシロウの顔が明るくなった。なによりである。