火の国へ
この作品は「冒険者西へ」の続編です。
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俺はノーマン王国の冒険者リード・スミス。
俺はモンスターに追われ異世界に転移し、オシショウサマことシュセンザンのデシとなり、ほかの仲間たちと西に向かって旅をしていた。何度も異世界のモンスターと戦ってきたが、最大の危機に襲われた時に再び転移陣に巻き込まれた。今度はオシショウサマとと共に。
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眩い光に包まれた。
今回も空間が歪んだような感覚に囚われ、上下左右が認識できなかった。自分の肉体は見えているが、五体の縮尺が有っているのかさえわからない。
俺は開けた場所に横倒しに放り出された。
それほど時間をおかずに周りの景色が輪郭をはっきりさせる。
前回と違っていきなり襲われるようなことはなかった。特に殺気などは感じない。しかし空気がどんよりしていた。周りに何人もの人間がいたが、どんよりとした空気はその人間たちの覇気の無さだった。
生気の無さと言ってもいい。最初、俺はその人間たちがスケルトンかと見間違うばかりだった。骨と皮ばかり。来ている衣服も襤褸で薄汚れていた。
「おおっ、成功だ」
その中でも身なりが多少ましな者が声をあげた。訛りのようなものは感じるが、幸い言葉は通じるようだ。
俺はゆっくりと立ち上がった。
「シロウ様」
その者が後ろを振り返るように声をかけた。一人の人物が顔をあげる。他の物とは違って身ぎれいな衣装をまとっていた。青年、あるいは少年と言ってもいいほどの美しい若者が立ち上がった。周りの者が身に着けているボロボロの衣服はオシショウサマ達のようにボタンが無く、紐で腰のあたりを縛るようなものだが、シロウと呼ばれた少年の着衣は我国の衣類に似ていて、パーティーで着るような襟飾りなどで装飾されていた。少年も痩せてはいたが上品な顔立ちをしていた。
「成功しましたか」
ほっとしたような声音で呟くように話す。力を使い果たしたような表情だが、「成功」と言う言葉通り明るい声だった。
「二人ですな」
先ほどの男が応じた。壮年と言っていいくらいの年恰好。この国の衣装の上に軽鎧と思われる竹素材のような胴を身に着けていた。
二人と言われて周りを見回す。十坪ほどの粗末な建物の中に十数人の痩せた人々。傍らにオシショウサマが横たわっていた。
「オシショウサマっ」
駆け寄って抱き起す。気を失っているだけのようだ。近くに敷かれていた粗末な絨毯のようなものに横たえた。
「ようこそ火の国に」
少年が私の正面に立って明るく言った。
「私は益田四郎時貞と申します。四郎とお呼びください。こちらは私の父の益田甚兵衛」
壮年の男は軽く頭を下げた。ここは雰囲気からして戦場のようだが、シロウが司令官、ジンベエが現場の将官といったところだろうか。
「私達は創造主ゼスにこの身を捧げる者たちです。残念ながらこの国の施政者が我々を弾圧するため、その暴力に抗ってこの城に立て籠もっています。私は多少の魔術が使えますが微力なため、失礼ながらあなた方を召喚させていただきました。どうぞ、そのお力をお貸しください」
シロウとジンベエが頭を下げる。
「俺は冒険者だから報酬をもらって敵を倒すことはやるが、多分報酬なんて出せないんだろ」
二人は顔を見合わせた。
「申し訳ありません。正直なところお二人に出すお食事さえ満足なものが用意できません。どうぞ窮鳥を救うと思ってご助力をお願いします」
シロウが頭を下げる。よくわからない言葉もあるが、要するにただで働けってことのようだ。飯も碌に用意できないってのは驚いたがやらないと返してくれないんだろうな。
「敵を倒せば俺達を返してもらえるのか」
「はい、敵は強大ですので倒せないかもしれませんが、戦いの趨勢が決まる時にはお戻しするつもりでおります」
俺は渋々了解する。
「だけどオシショウサマはどう言うかな」
おれは横たわるオシショウサマを見る。
「俺はオシショウサマと呼んでいるが、確か名前はシュゼンザン。この人は殺すのが嫌いなんだよな。相手がモンスターでさえも殺しちゃだめだって言うくらいだから、人間を殺すって言ったら怒り出すかもしれない」
「シュセンザン・・・」
シロウは首をかしげるような素振りを見せた。暫くして・・・
「おおっ、シュセンザンと言えば唐の国の玄奘様の現地名ではありませんか。確かに品のあるお坊様だとは思っておりました。殺生を嫌うのはよくわかりますので、気が付かれたら私がお話ししましょう」
俺達が話をしていると、外でダンダンと大きな音が聞こえた。
「始まりましたな」