部下達の話
「おいっ!団長が拐われたぞ!」
同僚が休憩室に駆け込んで来て、そう伝えてくる。
「はぁー?んなバカな話あるか!団長が拐われる訳ねぇ!むしろあえて拐われたフリだろうよ」
第7騎士団の隊員達は話を聞いて鼻で笑った。
'ラインツ王国の血染め姫'…はたまた'殺戮令嬢'の名で知られるアイリス・ローゼンハイムを簡単に誘拐できる者など、この大陸に現存する国々にはいない。
だって団長は…ラインツ王国最強騎士だからだ。
その戦闘能力は恐ろしく、通常の剣術でさえ群を抜いて強いのに…魔法で身体能力を強化し、戦闘時に常に彼女の周囲に纏わせる光源から大量の光線を発射して殲滅させる。
ついこの間も、盗賊100人が一斉に団長を目掛けて襲撃したのに
団長は剣すら抜かず、歩いただけで全滅させた。
全て光線による一斉射殺で。
「そんなにお強いんですか!?アイリス団長は…」
第7騎士団の新入りは驚いた様な表情を浮かべて尋ねる。
無理もない、一介の騎士の情報なんてそこら辺の貴族や平民には知られないからだ。
「あぁ、ありゃ世界最強だろ。なんせ、誰も団長に傷をつけた事がないんだぜ?剣聖エリック・ローゼンハイム総長も、大魔法師オリヴィエ様でも歯が立たないって認めてるんだ…世界最強だろうよ」
「いやでも…今日初めてお目にかかる機会がありましたが…あのお姿は本当に絶世の美少女でしたよ!?」
'アイリス・ローゼンハイム嬢'は…それは美しいご令嬢だろう。
ミルクティーの様な髪色にエメラルドの様に綺麗な瞳。
透き通りそうな真っ白な肌と、綺麗に通った鼻筋に花びらみたいな唇。
騎士団含め貴族や軍部、政務官達に投票させたら恐らく人気1位だろう。
騎士団に入る新人は最初に一目惚れをし、会話をして二目惚れ…そして訓練姿を見て三目惚れする。
…そして彼女が戦闘している姿を見て失恋する。
それが我がラインツ王国騎士団の通行儀礼なのだ。
あの容姿に、おっとりしてて分け隔てなく優しい性格…あれは凄い。
美しい花には毒があると言われているが…毒じゃ済まない。 あれは死神だ。
「とにかく、拐われても大丈夫だ。そこらのご令嬢じゃねえ…あの人は殺戮令嬢だからな」
しかし…団長を拐うとは命知らずだ。
この大陸の各国の首脳陣でも団長の名前を聞いたら震え上がるのに…
拐ったのはどこの連中かわからないな。
団長の件は副団長である、俺…ガードナーが徹底的に調べあげて、団長を拐った報いを受けさせてやる。