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マインドボール  作者: ぬこ
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ボールとの出会い

「クソみたいな人生だ」

それが俺の口癖だった。



-だがある日突然、俺の人生は変わった。あれを手に入れてから-




「はあ~、今日も仕事疲れたわ。これをあと数十年も続けるとかキツすぎだろ。」

俺は小綺麗なアパートで風呂場の天井を見上げながら、静かに呟いた。


数十分お風呂に浸かってそんな事を考え、もうそろそろ出ようと風呂場の扉に手をかけた。


「カチッ」

「コトンッ」


2つの音がシーンとした風呂場に鳴り響いた。


その音の正体の内、1つはすぐにわかった。

家の電気が消えた音だ。


「ったく、なんだよ。停電かよ。」


面倒くさがりな俺は、ブレーカーを戻しに行くのも面倒くさく数十秒その場でボケーっとしていた。


さすがにブレーカーを戻しにいこうと、動きだすと途端に電気がついた。

「あ、ついた。ラッキー。」


そんなことをつぶやきながら俺は、体を拭くためのタオルがある場所に手を伸ばした。


その時足に何か違和感を感じ、視線を下に移す。


「なんだこれ。」


そこには、さっき風呂上がりに鳴り響いた2つ目の音の正体があった。


「金の玉?」


俺の手にはその名の通り、金色に輝く玉があった。

それを360度見渡した後、この玉の正体について思考に浸って数十秒固まっていた。



「使ってみる?」



俺は突如耳元で囁かれた無機質な声に、背筋が凍りさらに数秒固まった。


そんなイレギュラーな事象に動けずにいると、その声がまた耳元で囁き出した。


「それはマインドボール。任意の人間を思うがままに操れる。」


俺は2つの思考が頭の中を巡っていた。

1つは、今耳元で囁いているやつの正体は何者なのか。

そしてもう1つは、こいつが言っていることが本当だったらという何をしてやろうかということだ。


俺は後者の思いが勝り、固まっていた口を開いた。


「使う。」


「フフ。何も怪しまずにそう答えるのね。やっぱり、あんたにしてよかった。」

不気味な笑みを織り交ぜながら、こいつはそう囁いた。


俺はこいつの言っていることが理解できずにいたが、心のそこではこんなイレギュラーな体験をできて気分が高揚していた。


「何か代償でもあるのか、お金とか、寿命とか。」


「感がいいわね。もちろんある。」

こいつは一呼吸おいた後、また口を開いた。


「あなたが今一番欲しいもの。」


俺は今一番欲しいものを頭の中で必死に考えた。


だが、いくら考えても思い浮かばなかった。

強いて言うなら、目の前にあるマインドボールとやらだ。


「俺が欲しいのは、ここにあるこの玉だ。」


「フフ。本当にそうかしらね。まあ、あんたが言うならそうなのかもね。」


「じゃあ、この玉貰ってくぞ。」


俺はそう呟いて、リビングに移動しようと動き出した。


「注意事項とか聞かなくていいのかしら。それにあたしのこととか知りたくないの?」


俺は足を止めた。正直、気にはなったが話を聞くのが面倒くさかったのだ。

だが、ここはこいつに合わせたほうが良いと思った俺は小さく頷きながら呟いた。


「教えてくれ、この玉のこととお前のことも。」


「フフ。素直なのね。そういうところが気に入ったの。話す前に場所を移動しましょう。私の姿も見たいでしょ。」


そうだ、俺は風呂から出て全裸でこれまでの話を聞いていたのだ。

冷静に考えればシュールだが、この状況で体を拭いて服を着ることができるやつはいまい。


それにずっと耳元で囁いていたこいつは、気配こそあれ姿は見えなかった。

いったいこいつはどんな姿をしているんだ。


「そうだな。」

俺はそう返答して、話を聞くための準備を始めた。


数分後、リビングに続く扉を開くとそいつはいた。


「では、話そうか。」


俺の目の前には、見た目は中学生くらいの女の子がいた。

もちろん、そこら中にいるようなのとは違っていることはすぐにわかった。


杖を持ち、宙に浮いて、恒星のように自ら光を放ち、神々しさすら感じる姿だった。


その姿に見とれて呆然としている俺をよそに、そいつは喋りだした。


「あたしの名前は、アリナ。多部 陽一 お前のことはずっと前から見ていた。」


アリナと名乗るそいつは、俺の名前を知っていた。

まあこんなイレギュラーはことが起こっているんだから、それぐらいは知ってて当然だよな。


「で、なんで。俺のとこに来た。」


アリナの言葉には特に答えることなく、俺は一番気になっていたことを聞いた。


「面白そうだから。マインドボールを与えられた人間を見るのが、あたしの楽しみだから。

陽一、あんたが一番面白そう。だから来た。」


不気味な笑みを浮かべるアリナを見て、俺は少しビビったが会話を続けた。


「そうか。それで、お前は何者だ。人間ではないのはわかるが。」


「人間ではない。あんたがあたしのことについて知るのはそれだけでいい。」


さっき風呂場で、"それにあたしのこととか知りたくないの?"とか言ってきたのはお前だろと思いながら、俺はぐっとこらえて肝心なことを聞き出す。


「そうか。じゃあ、このマインドボールとやらについて教えてくれ。」


「物わかりがいいじゃない。いいわ。教えてあげる。」


アリナは俺が持っていたマインドボールを奪い、見せつけながら説明を始めた。


「さっきもいったけど。これは任意の人間を思うがままに操れる。

ただし、一度に操れるのは1人のみ。 

発動条件はこれを握っていること。握るのをやめると解除される。」


「1人だけかよ。」

俺は誰にも聞こえない程度の小さな声で呟いた。


「そして、注意事項が3つある。

1つ、マインドボールが壊れると死亡。

1つ、マインドボールを失くして、1週間見つからないと死亡。

1つ、マインドボールを他人に触れられると死亡。」


「代償とやらとは別に死ぬリスクもあるのかよ。」


「さあ、今からこれはあんたのもの。自由に使いなさい。

言っておくけど、どんな使い方をしてもあたしは介入しない。

あんたが危なくなっても、地球が危なくなってもね。」


俺が発した言葉は見事にスルーされ、アリナはそう告げた。


「何だそれ。まあ、介入されない方が俺にとってはいいけどさ。」


「じゃあ、あたしは行くから。せいぜい、頑張ってね。」


アリナがそう呟くと、彼女の周りが文字通り恒星のように光を放った。


「ちょ、待て」


俺はその光が放たれたと同時に意識が飛び、気づいたらソファに横たわっていた。

アリナはいなくなっていて、俺の手の中にはマインドボールという金の玉があった。




「さあ、何しようか。」


俺は小綺麗なアパートでリビングの天井を見上げながら、静かに呟いた。

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