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99話 改心

食事を終えてから、イザクのいる離れへと戻ってきた。門番は私達を見るや否や、こちらから何も言う前に門を開けてきた。


「どうぞ、中へお入りください」


「ええ、ありがとう」


何だろう、凄い違和感を感じる。最初は明らかに歓迎されていなかったのに。


離れに向かっている間に不信感が表情に出ていたのか、リーティアが小声で耳打ちしてきた。


「恐らく、私達を監視するためでしょう。食事の時から尾行されていましたし」


「それってつまり、魔王グリテアから連絡があったってことかな?」


「でしょうね。つまり私達はお尋ね者ということです」


「マジかよ、冗談じゃないぜ」


カールの言う通り、本当に冗談じゃない。何でこんな事になってしまったんだろう。


「スノーお姉さま、厄介なことになって来ましたね。私達ガーデン・マノスを出たのは、ただ純粋に旅をするのが目的だったのに」


「みんな申し訳ない。僕たちのせいで」


「あ、違うんです! タケルさんやイシェイルさんのせいじゃありません!」


「チビ雪ちゃん、声が大きい! とりあえず今はそんな事を言っても仕方ないし、ここではなるべく自然を装っていましょ」


今はとにかく待つしかないのだ。堅造が上手くやってくれることを祈って。


そして鍵を開けて離れに入ったのだが、イザクの姿がどこにもなかった。


「イザクって奴がいないけど、どこに行ったんだろうな」


物が散らかっている一階のフロアを見渡しながら、カールがイザクを探す。よく見ると、散らかっている物の中には何かの参考書なのか教科書なのか、小難しそうなことが書かれてそうな分厚い本が何冊も散乱している。


「べつにいいじゃん。私達には関係ないし。母屋にでも行ってるんじゃない」


「そうだけどさ、また変な連中とつるんでるのかと思ってな」


「ちょっと意外です。カールが不良の心配するなんて!」


「まあレストランでの会話を聞いてしまったらな。金を持ってるから、ただ利用されてるだけだって知ってるのかなって」


「心配しても仕方ないし、部屋に戻ってゆっくりしましょう」


散らかってる一階を後にして、リーティア以外が二階へと上がった。


「リーティア何してんの? 早く来なさいよ」


「先に部屋で寛いでいてください。私はもうしばらくここに居ます」


言われるままに部屋へと戻る。いったい下で何をしようとしてるのだろうか。


それからは各々が寛いだ時間を過ごしていた。私は二階にあるシャワー室を借りてサッパリしたり、相変わらずチビ雪がカールにトランプを挑んで泣いていたり、イシェイルはもう寝ていたり、タケルは読書をしていたり。


大分夜も更けてきたところで、そろそろ自分も寝ようと思ったが。


「リーティア、まだ一階にいるの?」


「そうですね、まだ上がって来ませんね」


流石に気になり、寝ているイシェイルを起こさないようにチビ雪と共に部屋を出た。そして一階に下りると、思いがけない光景が目に飛び込んでくる。


あれだけ散らかっていた一階のフロアが、埃一つないぐらいに綺麗に掃除され、物で溢れかえっていたリビングは整理整頓されていた。


「凄い、これリーティアが一人でやったの?」


「はい、スノー様。一応泊まらせて頂いてるお礼も兼ねて」


キッチンに立つリーティアは、離れにある食材を使って料理をしていた。どうやらイザクの為に作っているらしい。


「あまり料理をしていないようで食材が乏しく、私達の食材も少し使わせて頂きました。申し訳ありません」


「いいわよ、気にしないで」


「リーティア、私も手伝います!」


その後は三人で、帰って来るか分からないイザクの為に食事の支度をしていた。一通り準備が終わると、リビングの真ん中にあるテーブルに食器を並べ、テーブル中央には料理の入った鍋を置く。


「イザクさん、まだ帰って来ませんね」


チビ雪も心配そうに時計を見る。すでに草木も眠る深夜。私達の方も、かなり瞼が重くなってきた。


「お二人は無理せずに寝てください。後は私がやりますから」


その言葉に甘えて二階に行こうかと思った時だった。玄関が開く音が響く。


イザクが帰って来たようだけど、綺麗になった一階のフロアを見て慌てて灯りの付いているリビングに、バタバタと音を立てて飛び込んできた。


「何やってるんだ!? お前達は! ぐ…いてぇ。勝手な事をするなよ!」


勝手に掃除したのをイザクは酷くご立腹の様子だ。掃除の為とはいえ、許可なく家の中を弄り回したのは確かに罪悪感はある。


「イザクさん、ごめんなさいね。私が独断で掃除をしてしまいました。お気に召さなかったのであれば、元に戻しますが」


いやいや、元に戻すってまた散らかすってこと?


でもそんな事より、イザクは全身汚れていて出血もしていた。喧嘩をしてきたのは明らかだった。


「あの、それより傷の手当てを」


「うるさい! 俺にかまうな! このチビが!」


「きゃあ!」


心配して近付いたチビ雪をイザクが突き飛ばした。


パァン!


これに思わず手が出てしまった。イザクの顔に思いっきり平手打ちをしてしまった。


「な、何しやがる!?」


「アンタいい加減にしなさいよ! 確かに余計なお世話かもしれないけど、それでもこっちは心配してたのよ!」


「し、心配!? 俺を!?」


イザクは私に平手打ちされた頬に手を当て、驚きとも困惑とも言える表情を見せる。


「イザクさん、まずは傷の手当てをしましょう。ソファーに座ってください」


「…………」


リーティアに促され、イザクは黙って足を引きずりながらソファーに座った。イザクの傷は顔だけでなく、ほぼ全身にあった。切り傷だけでなく明らかに殴られた後も。


その傷を見て、喧嘩というよりは大勢に袋叩きにされたんだと悟る。


レストランでたまたま聞いたイザクの仲間の話しから察するに、金の切れ目が縁の切れ目という事だったのかもしれないな。


「イザクさん、余計なお世話ついでに。もうあの連中と関わるのは止めた方がいいですよ。貴方も大方気づいているのでしょうけど、連中は貴方をただの金づるとしか思っていません」


「う、うるさい! お前に何の関係が、いてぇ!!」


「暴れると痛むからジッとしてて!」


チビ雪も一緒になって手当てしている。すると物凄く小声で、


「…さっきは悪かった…」


「え? 今なんか言いました? 聞こえなかったです」


あまりに小さい声でチビ雪は聞き取れず、もう一度聞き返す。


「だ、だから悪かったって言ったんだよ! いてぇ!!」


大声を上げて、また痛みに苦悶の表情を浮かべる。一通りの応急処置が終わったとこで、イザクを料理の置いてあるテーブルに移動させた。


「これ、俺の為に作ってくれたのか?」


「そうですよ。勝手にキッチンまで使ってしまってごめんなさいね」


メーデから教わったという自家製シチューを皿によそって、イザクの前にゆっくりと置いた。リグレットで買ったコカトリスの肉も使っている。他にも私達のパンも一緒に添えてあった。


イザクの腹がリビングに大きく鳴り渡る。


「残さず食べてね。私達の大事な食料も使ってるんだから!」


一瞬こっちを見たイザクは、スプーンを手に取りシチューを一口。その瞬間、イザクは目を見開いてシチューを食べ始める。


余程お腹が減っていたのか、それだけ美味しいからなのか。


あっという間に最初のシチューを平らげてしまう。


「お、おかわり…貰ってもいいか」


「ええ、どんどん食べてください。これはイザクさんのシチューですから」


鍋に入っているシチューをおかわりして、今度はパンと一緒に食べ始める。そんなに美味しそうに食べられると、こっちまでお腹が減ってくるじゃないの。


「美味い…すげぇ口の中沁みるけど……久しぶりだ……こんなに美味い食事…」


そして、イザクは途中から目に涙を浮かべて泣きながら食べ始めた。まるで心の中の氷が溶けるように。


「領主の息子というのも大変ですよね。貴方には相当なプレッシャーがあったんでしょう」


「……俺は……本当は…医者になりたいんだ…」


「そっか、あの難しそうな本は医学の専門書なのね。でも領主の跡取りだから理解してもらえないのか」


静かにイザクが頷いた。自分がやりたい事をやれない、させてもらえない環境の辛さ。その気持ちは自分事のようにメチャクチャ分かる。


私だって、もし魔王なんてしてなかったら今頃どうしてたんだろうと考える事がある。


「医者になりたい方が、こんなに全身傷だらけにしてたら患者さんがビックリしますよ。今後は喧嘩はしてはいけません」


「ああ……そうだな……そうするよ……」


リーティアに説得されて、泣きながらイザクはシチューを全て平らげた。私達も準備をした甲斐があったというもの。


そのまま黙り込んでいるイザクに話し掛けた。


「あなた医者になりたいと思ってるなら、ちゃんと領主に話さないとダメよ。分かってくれないのかもしれないけど、だからって不良なんてやっててもメリットなんて一つもないんだから」


「おまえに…何が分かるって言うんだ…」


「分かるわよ。私だって同じような境遇だったし。グレたくなる気持ちも分かるわ。誰も自分の気持ちを分かってくれない、孤独に感じる寂しさ。やり場のない怒りで何もかもどうでも良くなってしまうのも。

でもね、そんな事をやっても誰も理解なんてしてくれないし、むしろどんどん悪い方向に行ってしまうわ」


「スノーお姉さま…」


身分を明かす訳にはいかないけど、自分の素直な気持ちをなるべくイザクにぶつけた。おそらくイザクが母屋ではなく離れに一人で住んでいるのも、父である領主に対しての反抗なんだろうな。


正直、一時は私も父上を憎んだ事があった。なりたくもない魔王にさせられて。


でも、そのおかげで色んな魔族や人達に会えたし仲間もできた。まだまだだけど、間違いなく以前よりは成長してるのも実感できる。だから今となっては父上に対して何とも思ってないし、それどころか感謝してるぐらい。


「だけど、もしそれでも親父が分かってくれなかったら、どうしたらいいんだ」


「だったら家出しちゃいなよ!」


「え? さっきグレるなって言ったばかりじゃないかよ」


「でも理解してくれない家にいても苦痛なだけでしょ? だったら自分の足があるんだから、自分を理解してくれる場所に引っ越せばいいわ。そこで新しい道を開いて行けばいいじゃない!」


「スノーお姉さま、たまには良い事言いますね!」


「本当に一言多いのよ! チビ雪ちゃん!」


「いたたたた!」


私の言葉を聞いたイザクは少し考え込んでいる。そして、何かが吹っ切れたのか椅子から立ち上がった。


「そうだ…お前の…いや、スノーさんの言う通りだ! 俺の道は俺で決める! いってぇ! も、もし親父が理解してくれないなら、俺はこの町を出る! そして別の街で医者になる勉強をするって決めた!」


「ええ! 応援してる!」


「イザクさん! 私も応援します! なので早速私の頬を看病してください!」


チビ雪が私に引っ張られて真っ赤になった頬を擦りながら訴え、そこで初めてイザクは笑顔を見せ笑いが起きた。


「ありがとうございました、食事美味しかったです!」


「こちらこそ泊まらせて頂いていますからね。これぐらいは当然ですよ」


その後はリーティアが片付けを引き受けてくれて、それぞれが自室へと戻ってようやく就寝となった。


ほぼ朝方となっていた事もあって、それと入れ替わるようにイシェイルが起きて来るのだった。

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