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98話 海が見えるテラス

「ハイドリッヒ様、魔王グリテア様よりS級伝文が届いております」


ワース領主ハイドリッヒ・ミューレンの元に、魔王グリテアからの通達があった。使用人からS級伝文を受け取ると、ハイドリッヒは机の引き出しを開けた。


引き出しの中には小さな瓶があり、中では小さな炎が燃えている。その瓶のフタを取ってロウソクを入れ、瓶の中に灯る炎でロウソクの芯に火を点けた。


そしてロウソクに点けた炎で、魔王グリテアから届いた伝文を炙り始める。


S級伝文は、魔王グリテアが機密を部下に伝える際に送られる伝文。


一見すると何も書かれていない真っ白な紙だが、特別な魔力の宿る炎で炙る事で、何も書かれていない真っ白な紙には、みるみるうちに文字と写真が炙り出される。重要な機密事項を外部に漏らさないようにする為の情報伝達だ。


伝文には顔写真付きで、ワースに滞在しているスノー達を常に監視して町から出さぬようにと、魔王グリテアからの通達が記されていた。


「ふむ、魔王グリテア様にたて突いた愚か者が、このワースにいるのか」


だが、その写真を見た領主ハイドリッヒは、目が飛び出そうなほどに驚く。写真の六人は、どう見ても息子のイザクが離れに連れてきた者達だったからだ。


「離れにいる連中が…イザクの奴、まさか匿っているのではないだろうな」


「そんなイザクが……ああ…私の大事な息子が何で……どんどん悪い方へ行ってしまう……」


「テナー、心配するな。私が必ず何とかする」


ハイドリッヒは、泣き崩れる妻のテナー・ミューレンの左手を握り慰めた。


だが本音は違った。


そうは言ったもののイザクの普段の祖業の悪さに加え、お尋ね者を昨日離れに連れてきた事に、ハイドリッヒは途轍もない不快に襲われていたからだ。


(もしイザクが奴らを庇っているとなれば、私の立場も危うくなり兼ねん。それだけは絶対に避けなければならない)


当然のことながら自分の保身を考えたのは言うまでもない。


「ハイドリッヒ様、どうされますか。奴らを魔王グリテア様に引き渡しましょうか?」


「奴らが本当に魔王グリテア様のいう連中だと確信が持てるまで、片時も目を離すな! 何か不信な事があれば、すぐに私に連絡するように!」


「は! 承知いたしました」


スノー達のいる離れは母屋と庭から、常にハイドリッヒの使用人たちが目を光らせ、スノー達を一日中監視する事になった。




――――




港町ワースでの目的を果たし、今後の予定を話し合う。本当なら、ここから魔都市クランレアドに向かってもいいと考えていたのに、現段階ではそれは無理だ。


恐らく私達は、魔王グリテアにとって厄介者になっている。下手にクランレアドに近付けば、捕まる可能性も否定できない。とりあえずは堅造から連絡があるまでは、魔都市クランレアドには行かない事にした。


「スノー様、いっそのこと一度ガーデン・マノスに戻るのも一興ですよ。グリテアの領内に居れば、常に監視されているも同然でしょう」


「ん-、確かにその方がいいのかな」


「待ってくれ! それだと僕達だけ安全な場所に逃げる事になる! 同胞達はどうなるんだ!」


「タケルの言う通りだ。私とタケルは残る。ガーデン・マノスに行くというのであれば、ここでお別れだ」


「おい! そりゃあねえぜ! せっかく美人さんが一緒になったというのに!」


「もう、意見が纏まりませんね」


それぞれの意見がぶつかり合い、話しが纏まらないまま時間だけが過ぎた。


タケルとイシェイルの言う事も分かる。二人とも仲間の命も背負って森を出てきたんだ。自分だけ助かりたいなんて思わないんだろうな。


でも常に魔王グリテアに監視されてるかもしれない状況というのも、私にとっては居心地の悪さを感じる。


「スノー様、仕方ありません。ここは堅造くんから連絡があるまでワースで大人しくしていましょう。今私達にできることは待つ事以外にありません」


「そうね、変に動いて余計面倒なことになっても嫌だもんね」


「無理を言ってすまない。だけど仲間を見捨てて自分だけ安全な所に行く事は、やっぱりできないんだ」


「タケルさんは本当に仲間想いなんですね」


一応は話しが纏まり、魔王グリテアに警戒しながらもワースに滞在する事が決まった。今にして思えば、デックアールヴの森を抜けてすぐに、メーデのいるリグレットに向かえばよかった。


力を制限してるとはいえリーティアとメーデ、かつて魔王グリテアと渡り合ったほどの二人がいたら心強かったのに。


「まあ、そんなに心配なさらず。いっそのことグリテアとドンパチしたっていいのですよ」


「よ、良くないわよ!」


「そうですよ! リーティア恐ろしいこと言わないでください!」


「ウフフフ、冗談ですよ」


毎度のことだけど、この悪魔の言うことは冗談に聞こえないのよ。


「なあ、話しも終わったし飯にしないか? 腹が減っちまったよ」


カールがお腹を鳴らしながら訴えてきた。確かにワースに到着してから宿探しで、まともに食事をしていなかった。


「腹が減っては何とやらって言うしね。みんなで食事にしましょうか」


「一応イザクさんに伝えた方がいいのでしょうか?」


「面倒だけど、外に出た瞬間に戻れなくなっても嫌だから、そうしましょう」


「それなら私が話しをしてきます」


そう言ってリーティアが部屋から出て行った。そして部屋に残った全員が同じ事を思っていた。たぶん、話しをするんじゃなくて脅しに行ったんだろうなと。


数分後、リーティアが部屋に戻ってきて、外食に行く支度をするよう言ってきた。手には離れの鍵をしっかりと握り締めて。


まあ何だかんだあったけど、せっかくの港町。どうせなら美味しいシーフードのお店に行きたい!


相変わらずの人混みを捌きながら訪れたのは、海に面するお洒落なレストラン『ル・ジャルダン・トゥーレ』


海側に面したところにはテラス席まであり、非常に人気のあるレストランなのか、店内は満員御礼だ。


「あの、六人で予約していたリーティアです」


店に入ってリーティアがいきなり店員に告げた言葉に、当然みんな驚いた。どうやらイザクを脅し…話しをした後に良い店がないかを聞き、そのまま予約をしていたそうだ。


そのおかげで、なんと人気の高いテラス席に案内された。


「よくここの予約取れたわね? かなり急だったのに」


「はい、イザクさんに協力してもらったら快く承って頂きました」


「マジかよ、領主の息子を利用するとかえげつないな」


「先にここの予約を入れてた人達が可哀想です」


「大丈夫ですよ。ここのお店は領主も大変気に入っているらしく、このテーブルは領主関係者の優先席になってるそうです」


それを聞いて少し安心した。てっきり他の予約者から横取りしたかと思ったから。


こっちが焦っていた横では、ダークエルフ姉弟がずっとメニューを開いて睨めっこしている。どうやら森で育ってきた二人にとって、シーフードは物珍しいみたいだ。


メニューに載っているいくつかの料理の写真を、子供のようなキラキラした目で見ている二人を見てタケルはともかく、不覚にもイシェイルにもちょっと可愛いと思ってしまった。


「私よく分からないし、ここはお店の定番メニューでいこうかな」


「私はシーフードパスタにします!」


「なら俺はレバーのステーキだ!」


「それシーフードじゃないじゃない!」


「私はお酒に合うものなら何でも構いませんよ。ウフフフ」


四人はとりあえず注文する料理が決まった。だけどダークエルフ姉弟は、ずっとメニューを見たまま決まる様子がない。


「二人はどうするの? もしかしてシーフード食べれない?」


「いや、僕は大丈夫だと思うよ。なら僕もスノーさんと同じ物で頼む」


「私は…そうだな。とりあえず酒だけ貰おうか。来た料理を見て決める」


ようやく料理を注文する事になり、それからかなり待たされることになった。お店が大盛況なのもあって、中々料理が到着しなかった。


そして注文してから約五十分、お腹が鳴りまくる中やっと料理が到着した。


流石は海に面した港町、運ばれてきたシーフード料理はどれも美味しそうな物ばかり。


酒豪二人は早速お酒のボトルを開けて、お互いに注ぎ合っている。


「やっと食べられるわね! 頂きます!」


「「「「「いただきまーす!」」」」」


シーフード自体は特段初めてではないけど、料理は本当に美味しく、さらにテラス席で海を眼下に眺めての食事は本当に最高の時間だった。


これでもう少し静かだったら、もっと良かったんだろうけどな。


「リーティア、それも少しくれないか?」


「どうぞイシェイルさん。どんどん食べてください」


「他人の料理ばかり食べてないで、自分の注文したらいいじゃん」


「肉が入っていたら嫌だからな。それに見た感じ、私は魚も無理だ」


「なんか勿体ないな。食べたい物を食べれないなんてな」


「おいそこの男! 私は食べたい物ばかり食べているんだぞ! 憐れみは不愉快だ!」


「俺はカールだよ! それに別に憐れんだ訳じゃ、いや不快にさせたんならすまんかった」


その横でタケルはチビ雪と共に、無心で料理を頬張っている。一応年齢は聞いてるけど、こう見るとタケルも子供みたいだ。長寿のダークエルフにとっては、三十代はまだまだ子供というのも強ち嘘じゃないのかも。


大勢の客達が所狭しと賑やかにしている中、テラス席で優雅に料理を堪能できたのは本当に運がいい。


ところが途中から罵詈雑言が聞こえ始める。テラス席から近い店内に座る三人組の男達。ドアがオープンになっているので、彼らの話し声が嫌でも聞こえてきた。


「なあ、イザクの奴そろそろ潮時じゃねぇか? あいつのせいで俺達とんでもない目に遭っただろ」


その三人組は、どうやら私達がボコった不良グループのようだ。私達が旅の格好から着替えていた事や、ダークエルフ姉弟がフード付きのローブを着用していたことで気付いていないみたい。


「まあそういうなよ。あいつは金づるだよ。だから俺達もこうしてタダで飯に在り付けてるだろ?」


「そうだがよ、あいつ領主の息子だからってイキってるのが最近特にムカつくんだよ」


「俺達をアゴで使ってるしな。一番喧嘩に弱いくせに」


「ああ、あの時だって女に片手で持ち上げられて落ちてやがったな! あれは傑作だったぜ!」


何だか可哀想になるぐらい、しょうもない事を言って他人をバカにしている。別にイザクをフォローする訳じゃないけど、傍から見れば目くそ鼻くそを笑うだ。自分達だって、私達にボコボコにされたじゃない。


それに、たぶんだけどイザクの威を借りて散々好き勝手してきたんでしょうに。


「あいつら、私をバカにして! もう一回締めて来てやる!」


そんなしょうもない事にイチイチ腹を立てて、不良に殴り込もうとするイシェイルを、連中に聞こえないように少し声を絞ってチビ雪と二人で必死に止めた。


「イシェイル! ほっときなさいよ! あなたは少し煽り耐性付けて!」


「スノーお姉さまの言う通りです! こんな事で腹を立ててたらキリがないですよ!」


「し、しかしあいつら、私にやられたのが傑作だとバカにして!」


デックアールヴの森で初めて会った時から少し感じていたけど、やっぱりイシェイルは煽り耐性が極端に低いらしい。


「イシェイルさん、お酒を注文しておきましたので呑んで忘れましょう」


「そうそう、嫌な事は呑んで水に流すのが一番だ!」


「そ、そうだな。私も少し冷静にならなければ」


やっとイシェイルが落ち着いたのも束の間。


「見ろ! これは俺の名誉の負傷だ! 謎の仮面を付けた男に斬られた傷跡だぞ!」


不良の一人が私に斬られた傷跡を服をめくり上げて見せびらかし、仲間や周辺の客達に見せびらかしている。


「あいつ…私を謎の仮面を付けた男だなんて! もう一度痛い目に遭わせてやるわ!」


「待って! スノーお姉さま! たぶんあれは嘘を言ってるんですよ!」


「散々私を女男呼ばわりしてたツケが回ってきたな!」


さっきとは逆に、今度は笑いを堪えたイシェイルに止められる事になった。

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