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97話 魔王命令

ここは魔王グリテアの居城のある、魔都市クランレアド。街の中心には、魔王グリテアの住む黒い外壁の巨大な城がそびえ立つ。


街全体はグリテアの城を中心に広がる城下町で、ここ最近の発展で高層ビルの建設も急ピッチで進んでいる新しい街だ。


そのグリテアのいる居城、クラン城では六人の重鎮達による会議が行われていた。議題はデックアールヴの森についてのことだった。


「ダークエルフ達は我々に反旗を翻した。それに秘密を知った者が外に出た以上、抹殺をする他ないかと」


「イシェイルとタケル、それに同行する者達の居場所は分かっているのか?」


「港町ワースに着いたと報告があった。我々のエリアにいる以上、どこにも逃げる事はできない」


「ダークエルフ達の処遇はどうする? 奴らもこのままにしておく訳には。外部に漏れたら面倒な事になるぞ」


グリテアの専用席が上座にあり、それを中心に円形状のテーブルに設けられた椅子に座った重鎮達による会議は紛糾していた。とにかくデックアールヴの森の秘密を外部に知られる訳にはいかなかったからだ。


ところが、その場にいる魔王グリテアは、一言も発せず下を向いて何かを操作している。


「ところでグリテア様? さっきから何をやっておられるのですか? 今は大事な会議中ですよ?」


だが重鎮の問いかけにも一切反応しない。彼は今、会議中もずっとゲームに勤しんでいる。


「あの、グリテア様。会議中にゲームは止めてもらえないでしょうか」


「うるさいな、今いい所なんだよ」


「ですが、今はデックアールヴの森についての大事な話しです。これが外部に漏れたら、我々は大変な事になり兼ねないんですよ?」


「それぐらい自分達で対処しろよ。僕は忙しいんだ」


ずっとゲームを手放さないグリテアを見て、周りの重鎮達が重い溜め息を吐いた。


このままでは埒が開かないので、重鎮の一人がグリテアに最終的な許可を仰ぐ。


「ではデックアールヴの森を抜けた者達の抹殺をしても構わないのですね?」


そう言ってデックアールヴの森の地下施設から送られた顔写真付きの書類と共に、グリテアに抹殺許可のサインを求めた。


めんどくさそうにチラッと書類を見た後、すぐにゲーム画面に視線を戻したが。急に焦ったように二度見して、ゲームを中断して写真の載った書類をガン見して周囲を驚かせた。


「ど、どうされましたか? そんなに慌てられて」


「こ、こいつは…!? まさか…いや、そんなまさか。いやいやいやいや、マジでふざけんなって!」


端正な顔つきだったグリテアの表情が余程焦っているのか、みるみるうちに少年のような子供っぽさのある顔つきに変わった。


そして、そのまま書類を部下に突き返す。


「許可はできない。こいつらは放っておけ」


「え? しかし」


「なんだ? 僕に反抗するのか?」


「い、いえ! 滅相もございません!」


「とりあえず監視だけはしておけ。ワースの領主に伝えろ」


「は、はい」


スノー達の抹殺を取り下げたグリテアは、椅子から立ち上がると周囲の困惑など気にも留めず会議場を後にした。


一目散に自室へと戻ったグリテアは、手に持っていたゲームを放り投げてベッドに突っ伏して独り言を上げる。


「ふざけんなよ! 何でリーティアの奴がここで絡んで来るんだよ! しかも魔王小雪もいるだろ! 顔隠してても分かるんだよ! マジでふざけんなよ! クソがー!!」


大人の雰囲気の出で立ちとは対照的に、まるで感情の抑えられない子供のように、ベッドの上で手足をバタつくせながら怒りと悔しさの両方を表していた。




――港町ワース




自分の正体をダークエルフ姉弟に打ち明けた事で、妙な期待を抱かせてしまった。


ハッキリ言う、めっちゃめんどくさい。そもそも私が旅に出たのは、魔王としての責務から逃れたいというのが本音としてあったからだ。


それが、ここに来てまさかの外交問題である。しかしタケルからあそこまで期待されては、純粋な願いを無下にする訳にもいかない。


本当に、本当に久しぶりに、みんながいる前で堅造くんに連絡を取ったのだった。


「なんか、緊張する」


「堅造くんに対して、そんなに緊張するなんて珍しいですね」


チビ雪に笑われながら、巣魔火スマホを片手に通話を始めるが。一体どこからどう話せばいいのだろう。


意を決して巣魔火の通話ボタンを押した。


(ああ、出ないで堅造くん…)


そう思ったのも束の間、通話ボタンを押してから二秒も立たずに電話に出た。


「どうされましたか? 小雪様。おっと、スノー様」


出るの早過ぎだわ。私から連絡が来るのを分かっていたのかと思うぐらいに。


「えっと堅造くん、久しぶりね! 元気してた?」


「はい、私は元気ですぞ! 小雪様…スノー様がいなくなってから、もう仕事も順調で順調で!」


「ん? あんた喧嘩売ってんの?」


「あーいや! 決してそんな訳では! ただ事実を申しただけで!」


変な汗が出る。通話を聞いていたメンバーが後ろで笑っているのが、振り向かなくても分かったからだ。


ここは私も魔王として、こいつの上司として凛とした姿を見せなければ!


「それは良かったわね! ところで、ちょっと相談があるんだけど」


「相談というのは何ですかな? 今更路銀を送れというのは無理ですぞ! 魔都市マノス上層部の許可が必要でありますし! 何よりガーデン・マノスにいる小雪様が偽物だと分かれば、大変な事になりますからな!」


「そういう事を大声で言わないで! それに、そんなんじゃないわよ!」


イチイチ話しが逸れる堅造を何とか宥めながら、事の顛末を伝える。


まずはダークエルフのこと、デックアールヴの森で彼らと会った事を話す。でもダークエルフの存在を信じていない堅造は話しに耳を傾けず、それどころか忙しい時に無駄に時間を取られたとご立腹だ。


「スノー様、私も暇ではないのです。貴女のお伽話に付き合ってる暇はないのですぞ」


「違うわよ! いいから最後まで話しを聞きなさい!」


その後にデックアールヴの森で魔王グリテアが毒ガス兵器を秘密裏に作っている事、ダークエルフが奴隷のように扱われている事、そしてデックアールヴの森を開放するよう魔王グリテアに圧力を掛けれないかという事を全て話す。


そうするとまあ、案の定な反応が返って来た訳だが。


「そんな根も葉もないことで魔王グリテア様に圧力をかけるですと!? 自分が言ってる事が分かっているのですか! これは大変な外交問題に発展する可能性のある事ですぞ!」


「根も葉もないことじゃないわよ! 毒ガスを作っているのだって本当なんだから!」


「堅造くん、スノーお姉さまの言ってる事は本当ですよ。私も一緒に行ってるのですから間違いありません」


「むう、チビ雪殿が言うのであれば全てが嘘ではないという事ですか。いやしかし」


「堅造くん、あなたシレっと私に対して酷いこと言ってるよね」


堅造にイラっとしながらも、チビ雪が間に入ってくれた事で堅造もようやく耳を傾けるようにはなったが。だけど堅造は、やはり証拠もなく簡単には動けないという。


もちろん堅造の言う事も一理あるのは分かるんだけど、あまりに私の事を信用してなさ過ぎて我慢できなくなってきた。


「私だって忙しいのに、こんなくだらない嘘を言う為にアンタに電話する訳ないでしょ! 今言った事は全て本当なの! これは魔王命令なんだからアンタは黙って言う事を聞きなさい!」

 

「何を申されるのです! 大体、魔王グリテア様とガーデン・マノスが対立すれば、中央大陸が二分される程の戦争になり兼ねないのですぞ! 下手をすれば魔界全体にまで波及しかねません!

ああ! なんて事をしてくれたのだ! このじゃじゃ馬娘は!」


「し、仕方ないじゃない! 私だってこんな事になるなんて思ってもなかったんだから!

ていうか、さっきから本音が駄々洩れになってんのよ! この堅物がー!」


「な、堅物ですと!? 私は先代のマサオ様の代から誠心誠意尽くしてきたのですぞ! それを貴女という人は!」


「何よ! いっつも私の言う事に反対ばかりして! 魔剣の名前だってヘンテコなものばっかりだったじゃない!」


「ヘンテコとは心外な! あれのどこがヘンテコだというのですか! 私から言わせれば、スノーフェアリーの方が余程ヘンテコですぞ!!」


「スノーフェアリーのどこがヘンテコだって言うのよ! よくもバカにしたわね!!」


「ちょっと二人とも喧嘩は止めてよー!」


お互いに熱くなり、だんだんと関係ない事を口にしながら大喧嘩に発展してしまった。チビ雪が必死に止める。後ろで他四人が笑いを堪えている。


ああ、懐かしいこの感覚。


だけど流石に私と堅造で本気の喧嘩になり出した事で、後ろで聞いていたダークエルフ姉弟が途中から申し訳なさそうに口を開いた。


「待ってくれ、堅造殿。私はイシェイルという者だ! こちらのスノー……様……には、我々から無理を申したのだ。どうか怒りを下げて欲しい」


イシェイル、私に『様』を付けるのに抵抗があったわね。でもフォローに入ってくれたのは助かった。


「僕はダークエルフのタケルと申します。無理を承知でお願いに上がりました。一度で構いません、どうか我々の森と同胞を助けて貰えないでしょうか」


その直後にタケルも後に続いた。


「んん? 今のは誰ですかな? 他にも誰かいるのですか?」


「ちょっと待って、モニター通話に切り替えるわね」


そう言って巣魔火スマホを操作して、お互いの画面に映像が映し出される。


「おお!? そんなに仲間がおられたのですか!? ていうか、そこにいるのは、もしかしてヴィントナーで会った変な店の店主ですか!?」


「ええ、そうです。私が変な店のオーナーのリーティアです。お久しぶりですね、堅造くん」


「リーティア、可笑しなノリ止めてよ。それに堅造だけは『くん』呼ばわりなんだ」


そのあと堅造に、一人一人を紹介した。一度だけ会った事あるリーティアにはちょっと気まずそうな感じで、相性の悪そうなカールとはちょっとだけ喧嘩になりそうになった。


そして改めて、本物のダークエルフが目の前にいて仲間になった事を伝えたのだった。


「ほ、本当にダークエルフは存在していたのですか!?」


「紛れもなく私は正真正銘のダークエルフだ」


「僕は人間とのハーフエルフだが、間違いなくダークエルフの末裔です」


「これは驚きましたな…まさか…あの小雪様が…お伽話だと思っていたダークエルフまで仲間にしていたなんて…」


「その言い方、なんかイチイチ引っ掛かるのよね」


堅造の言葉の一つ一つが嫌味に聞こえる。


「堅造殿、今も我々の同胞は不本意ながら毒ガスを作り続けている。私も何とか、かつての美しいワセアの森を復活させたい。どうか協力をしてもらえないだろうか」


イシェイルが巣魔火越しに堅造に頭を下げた。


「あ、頭を上げてくださいですぞ! 私も貴女の話しを聞いて、怒りが沸々と沸いておりますぞ!」


「なに照れてんのよ。私の言う事はちっとも聞いてくれなかったくせに」


イシェイルの訴えを聞いた堅造は、正式にダークエルフの問題を魔都市マノス上層部に相談すると約束してくれた。上層部が承認すれば、正式に外交ルートを通じて魔王グリテアに圧力を掛けられるという。


「もし、それでも魔王グリテアが言う事を聞かなかったらどうなるの?」


「まずは経済制裁でしょうな。ガーデン・マノスはハイテク魔道具のコアになるハンドライトを、魔界で唯一生産できるのです! それの供給停止処置が一番手っ取り早いかと!」


「えっと、それってつまり、どういうことなの?」


「はあ、少しは勉強をしてくださいですぞ! かつて日本人からもたらされたハンドライトの生産技術は、ガーデン・マノスでも最高機密となっております! だから絶対に他の魔王は作る事ができない訳ですな! 

なので、もしガーデン・マノスからハンドライトの供給が止まれば、ハイテク魔道具の生産ができなくなり現代の魔界では経済に大打撃になるでしょうな!」


「あーなるほど! それで他の魔王に圧力を掛けられるんだ!」


「それに魔都市ガーデン・マノスは、魔界の全ての魔王の首都という立ち位置なのです! 全ての地方魔王は、ガーデン・マノスの管轄下の元で法を作ります! もしその範疇を超えて勝手をすれば、魔王グリテア様は魔界全土を敵に回すも同然となりますな!

今回の件に関して言えば秘密裏に毒ガス兵器の開発、ダークエルフを現在では禁止されている奴隷のように扱っていた問題があります。他の地方魔王も、制裁に同調する可能性は大いにありますな!」


「おお! それは頼もしい! 堅造殿、どうかよろしくお願いする!」


「ま、任せてくださいですぞ! これもダークエルフを救うという大義名分のため、私も誠心誠意尽くさせて頂きますぞ!」


「堅造、なに赤くなって鼻の下伸びてんの」


「小雪様! イチイチうるさいですぞ!」


イシェイルに頼み込まれて、あからさまにテンションが上がっている堅造。私の事はバカにしている癖に、美人を見ると分かりやすいぐらいに顔と態度に出るのがホントにムカつく!


しかし、これで上手くいけば魔王グリテアの横暴も止められるかもしれない。


後のことは堅造に任せる事にして、ようやく今後のことを考える事になった。

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