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95話 港町ワース

「アンタたち、これに懲りたら二度とバカな事はしちゃダメよ」


後ろから突然煽って来て突っかかってきた不良達を、一応手加減はしてあげたけどイシェイルと二人でボコボコにした。その後チビ雪とリーティアの二人が手当てをしてから、たんまり説教をしていた。


不良四人は街道の脇で大人しく正座して並んでいる。


「くそ! イザクのせいで」


「ああ? なんか言ったか?」


「ちょっと! 私が話してんのよ! また痛い目みたいの!」


「いえ! 俺達もう心を入れ替えました!」


まあ、そんな簡単に心変わりなんてしないものだけど、これ以上説教をしても時間をロスしてしまうので解放してあげることにした。


「もういいわ、行きなさい」


「は、はい! ありがとうございましたー!」


不良達は立ち上がると、深々とワザとらしいお辞儀をして、派手な暴走車に乗り込んで去っていった。全くなんて人騒がせな奴らなのかしら。


「あれぐらい可愛いものですよ。若気の至りという奴ですね」


「そうね、街を消し去るような事をしていたあなたにとって見れば、オママゴトみたいなものよね…」


気を取り直して出発をする事にした。その後は車のエネルギー補給のために小さな町に立ち寄ったりしながら港町ワースへと向かって順調そのもの。


デックアールヴの森を出てから三日後、ようやく目的地である港町ワースへと辿り着いた。


「やっと着いたー!」


「ユトグアを出発してから長かったですね!」


海に面する港町ワースは、いくつもの海産物を取り扱ったお店や露店が立ち並ぶ。青い屋根に白い外壁の多い建物が並び、海風が町を撫でるように心地よく吹き、海岸沿いには多くの釣り人の姿がある。


小さな町なこともあって、ここもまた時間の流れがゆっくりと流れているのような感覚にさせてくれる、居心地の良い景観の町だが。その割に人口が多いように思える。


そして町の中心の少し高台になっている場所には、結構大きな屋敷が町を見渡すように建てられている。もしかして町の領主の屋敷なのかな。


「お二人とも、このフード付きのローブを羽織ってください」


「ああ、分かった」


リーティアがダークエルフ姉弟に自作のローブを手渡す。二人がダークエルフだという事を隠す為に作ったものだ。


フードを被ると、頭から足首辺りまでのコートのように体全体が包み込まれた。これで二人がダークエルフだと気づかれる事は、まあないでしょう。


「ねえ! 早く海に行きましょう!」


「待ってください。先に泊まる場所を探しますよ」


「姉御はしゃぎ過ぎだぜ。まあ俺も海は早く見たいんだが!」


「姉さん、海ってどんなの?」


「私も聞いた事あるぐらいでよく知らない。聞いた話だと、大きな湖みたいなものだと思ってるが」


港町ワースに辿り着いてテンションが上がるが、先に腰を落ち着ける場所を探さないといけない。しかし、これが思ったよりも難航することになる。


タケルとイシェイルの二人が加わった事で、六人全員が泊まれる場所が中々見つからなかった。


「一部屋ならあるけど、二部屋以上となると中々見つからないわね」


「東大陸に貿易する拠点の一つとなっていますからね。魔道列車が整備されたら、もっと魔族で溢れかえりますよ」


「だから町の規模の割に、こんなに人が多いんですね」


「つまり町の整備が全然追いついてないって事か」


建物の間を通る道は、行きかう者達を避けながら進むのでやっとだ。もう少しのんびりできると思っていたのに、これだと都会にいた時と変わらない。


いやむしろ町が小さい分、こっちの方がストレスに感じるかも。


その後も見つけた宿屋に寄ってみるが、やっぱり満室か空いてても一部屋だけという状態が続く。


「なあ、もう六人で一部屋でいいんじゃねえか?」


「でもベッドが二つの部屋に六人はキツい気がするよ?」


「姉さん、僕ちょっと気分が悪くなってきたよ…」


「そうだな、私もこんな人混みは初めてだから気が滅入ってきた」


森から出た事がほとんどないダークエルフ姉弟にとって、この人混みは慣れない環境だったようだ。二人とも頭を抑えながら息苦しそうにしてる。


「スノー様、一旦海岸沿いに出て休憩しましょう」


「そうね、そこなら広場もあるかもしれないし」


宿探しを中断し、急遽海沿いへと向かう事になる。人混みを掻き分けながら、ようやく海岸沿いに出る。


当たり前だけど、初めての海を目の当たりにして一気にテンションが上がった。


「うわー!!! これが海なのねー!!!」


「すごーい!!! 向こう側まで水が続いていますー!!!」


「思ってた以上のスケールだなー!!! 正直ちょっと舐めてたぜー!!!」


「三人共、少し落ち着いてください。目立ってますよ」


初めて見る海に人目も憚らず盛り上がる。コバルトブルーの海が視界一杯に広がり、それが遠くの空間にまで続いている。


「海ってどこまで続いてるんだ…想像以上の広さだ」


「ああ、私も少し大きい湖だと思ってたが…この広さは無限に広がってるのかのようだ」


気分を悪くしていたダークエルフ姉弟も、それまでの不調が吹き飛んだかのように、海の広さにただただ驚いている様子。


そしてただ一人、田舎者みたいな私達のノリにリーティアが少し恥ずかしそうにしている。


「あそこには船が一杯ありますね!」


「ホントね! あれで漁に出るのかな!」


船を見るのも初めてになるので、物珍しさで興奮が収まらない。すでに休憩するどころではなくなっていた。


「みなさん、海を見るのもいいですが元気になったのなら、とりあえず泊まる場所を探しますよ。このままだと町の中で野営をする羽目になります」


「でもさ、もう町の宿は全部見て回った気がするんだけど」


「うん、私もそんな気がします。いっその事、ワースの近くでキャンピングカーで寝泊りした方が良くないですか?」


港町ワースは元々田舎町、多少は整備されたと言ってもそこまで大きな町ではない。東大陸との貿易の拠点となった事で、町の規模の割に人口が多過ぎるのだ。


「確かにそうですね。今はここまで賑わってるとは思ってもいませんでした」


「どうするのだ? 私はもう、歩き続けるのは御免だぞ」


「珍しく女男と意見が合うわね。私も歩きたくないわ」


「歩いた所で宿もないしなー」


泊まれる宿が見つからないまま途方に暮れる。人混みの中を歩き続けた疲れも相まって、全員動くのも嫌になっている。


「早くどうするか決めましょう? このままだと陽も暮れてしまうよ」


チビ雪が野営にするのか、泊まる場所を何とか見つけるのか、早く決めて欲しいと促してくる。


だけどな、せっかくワースに着いたのに初日から野営するなんて。


しばらく悩んでいた時だった。突然ある男から声を掛けられる。


「あ、アンタ達は…まさかこんな所で会うなんて」


誰かと思って声の方へ向くと、そこ立っていたのは先日ボコボコにした不良の一人だった。


「アンタはこの間の不良。何でこんな所にいるの?」


「それはこっちのセリフだ! 俺はワース領主の息子なんだよ! つまり、ここは俺の町も同然って訳だ!」


「ほう、まだそんな威勢のいい言葉が出せるのか。もう少し痛めつけるべきだったか?」


パキポキと指を鳴らしながらイシェイルが不良に近付いていく。


「お、おまえは!? あの時、俺を片手で締め上げた奴か!?」


どうやら、あの時後ろの方で仲間に指示を出していたリーダー格の不良で、イシェイルに片手で首を締め上げられて落ちた奴だ。


不良はイシェイルがフードを被っていたから気付かなかったみたいだけど、イシェイルが近付いた事で顔が見えて気づいたようで慌てふためいている。


「イシェイル、街中で揉め事はダメよ」


「チッ、命拾いしたな。リーダーに感謝しなよ」


私に止められたイシェイルが軽い舌打ちをして戻ってきた。不良はまた首を絞められるんじゃないかと思ってビクビクしたようだ。


あの時の不良のメンバーの一人が、まさか港町ワースの領主の息子って。正に虎の威を借りる狐ね。


「何が俺の町同然だよ! ただのボンボンじゃねぇか!」


「ワース領主の息子が不良をしていたんですか」


「う、うるさい! アンタらには関係ないだろ!」


「ええ、関係ないから私達もう行くわね。アンタに構ってるほど暇じゃないの」


早々に話しを切り終えて行こうとした時だった。


「待ってください。あなた名前は? 私はリーティアです」


「は? アンタは何を言ってるんだ」


「いいから名前を教えてください」


「イザクだよ。イザク・ミューレンだ」


いきなり自己紹介をしたリーティアは、不良の名前を聞き出してメモしている。


そしてその後、とんでもない事を言い出した。


「実は私達、今凄く困っているんです。泊まる場所がないので、あなたの屋敷で今晩泊まらせてくれませんか?」


「は!? マジで何言ってるんだ!? 何で俺の屋敷に泊めなきゃいけないんだよ!」


「お前の屋敷じゃないだろ」


「さっきからイチイチうるさい奴だな! あまり俺を舐めるとタダじゃおかないぞ!」


「ああ! やれるものならやってみやがれ!」


「カールさん、今は私が話してるんです。少し黙っていてください」


リーティアに睨みつけられたカールが、大慌てで両手で口を塞いだ。


カールを黙らせた後、リーティアはメモした紙をイザクに見せて不敵に笑った。


「これは悪魔の契約書です。あなたとの契約は成立しました。私達を泊めないというのなら、私はあなたを地獄の番犬の餌にします。ウフフフ」


「はあ!? そんなハッタリに乗るかよ!」


「あらそうですか。ならこのまま餌になりなさい」


ニヤーっと笑ったリーティアは、メモを広げたまま何やら唱えだした。するとイザクの名前の入ったメモが、青い炎で包まれる。


それを見たイザクが激しく動揺して、慌てふためいた。


「ま、待て!? 待ってくれ! わ、分かった! 言う通りにするから地獄の番犬の餌にするのは止めてくれー!」


「ありがとうございます、イザクさん。それじゃあみなさん、泊まる場所が決まったので行きましょう」


「え、ええ」


「リーティアさん、凄いな。僕じゃ足元にも及ばなかった訳だ」


「単に力で脅すだけではないのだな。私にとっても勉強になる」


「イシェイルさん、あんまりリーティアを見習わないでください」


「全くだ。リーティアみたいなのが二人になったら、この先大変になるぜ」


兎にも角にもリーティアの機転によって、港町ワースでの泊まる場所が決まった。領主の息子・イザクに案内されながら丘の上にある屋敷へと向かったのだった。

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