94話 煽り煽られ
ダークエルフのタケルとイシェイルが加わってからの初めての野営で、思いっきり夜遅くまで盛り上がって朝方近くまで呑んでいた。
そのせいで全員起きたのが、なんと夕方という呆れた展開になってしまう。
「やってしまったわね。今から出発しても、絶対港町ワースまで辿り着けないじゃん」
「あ、頭が割れるように痛い…これは何かの毒にやられたのか」
「それはお酒によるものです。ただの二日酔いですよ」
タケルはたった一杯のお酒で二日酔いになる程にお酒に弱かった。チビ雪に薬を渡されて、横になっている。
それ以外のメンバーで今日の予定をどうするか全員で話し合うが、とりあえずは出発する事に決めた。
リーティアのキャンピングカーで、行ける所まで進む事にする。
「私はタケルさんとイシェイルさんの身分証明書を作る必要があります。カールさん、あなたが運転してください」
「おお! 任せておけ!」
「運転できるの?」
「一応な! 村で何度か運転してた事があるぜ!」
ディメンション・ボックスからキャンピングカーを取り出して、全員乗り込むことになるが。
「全く、我が弟ながら、あの程度の酒で倒れるとは軟弱にも程がある」
「ご、ごめん姉さん。酒ってあんなにキツイんだね…やっぱり僕はまだまだ子供だったみたいだ…」
タケルは姉のイシェイルにおんぶされながら、キャンピングカーへと乗り込んでいった。どっちも中世的な見た目をしてるので、傍から見ると姉弟の立場が逆みたいだ。
カールが運転席に座ってエンジンをかけ、他のメンバーは後ろの居住エリアに好きな所に座る。タケルは当然1番後ろにあるベッドで横になってるが。
「よし! じゃあ出発するぜ!」
土煙を上げて、キャンピングカーは勢いよく発進していく。
カールが鼻歌交じりで運転する中、後ろの居住スペースでは軽食の準備を始める。車の振動で火を使った料理はできないから、保存食などを使った簡単な食事だ。
その間にリーティアは、ダークエルフ姉弟の偽の身分証明書を作っている。
「カール、サンドウィッチ持ってきたよ。メーデさんに教わった特製サンドウィッチ!」
「おお! ありがとうチビ雪ちゃん!」
サンドウィッチを受け取ったカールは、片手で持って食べ始める。
全員分の食事の用意ができたがタケルは後ろでダウンしたままなので、とりあえず先に頂くことにした。
「いただきます。何かこういうのテンション上がるわね!」
「はい! キャンピングカーでの旅って楽しいですね!」
「これは肉は入ってないだろうな?」
「入ってないですよ! なので安心して食べてください!」
しばらく三人で食事を堪能していたら、身分証明書を作り終えたリーティアもようやく食べ始めた。
「イシェイルさん、これが貴女の身分証明書です。ダークエルフだと色々と面倒になるので、オークの娘という事になっていますので悪しからず」
それを聞いた瞬間、イシェイルが口から盛大に食べ物ごと噴き出した。
「うわー! ちょっと何すんのよ! 女男!」
「汚いですー!」
「オ、オークの娘だと!? この私が!? き、貴様は私を侮辱する気かー!」
一説にはオークはダークエルフの亜種とも、なり損ないとも言われるらしいが、実際のところは不明だ。だけどイシェイルの取り乱しようを見る限り、決してオークを快く思ってないのは明白だった。
「侮辱などしていませんよ。むしろ貴女の方がオークを侮辱しているではありませんか。彼らは、とても理知的で賢い存在なのですよ」
「ふ、ふざけるな! 私がオークなどと!」
「落ち着いてください、イシェイルさん! あくまで偽の身分証明書の中だけですよ! ただでさえ魔王グリテア様に目をつけられてるのに、このままダークエルフだと隠さずにいるのは都合が悪いんです!」
「ぐっ…それは分かるが、だが他にも種族はいるだろ」
「貴女だけでなく、タケルさんもオークということにしているのですから何も問題ないでしょう」
フルフルと震えながらイシェイルは考えている。やはり納得はできないのかもしれないが、そんな事を言われても困るのだ。
「嫌ならいいわよ。ここで降りてちょうだい。別にあなたに来てほしいなんて頼んでないし」
「な、なんだと!?」
「スノーお姉さま、それはいくら何でも言い過ぎですよ!」
昨日のパーティーでせっかく仲良くなれたと思っていたのに、この一言で微妙な空気になってしまう。イシェイルが今にもスノーに掴み掛りそうな勢いだ。
しかし一触即発の中、突然車が止まった。
「何やってんだよ二人とも! そんなくだらない事で喧嘩はよせよ! 姉御も姉御で口が悪いしチビ雪ちゃんがいるから、イシェイルさんが弟が心配なのも分かるだろ! それにイシェイルさんも偽の身分上なんだから真に受けて悪態つくのは止めようぜ!」
「「………………」」
運転席からカールが喧嘩の仲裁に入り、最悪の事態は何とか回避された。
「……わ、悪かったわよ。降りろって言ったのは言い過ぎだった。ごめん」
「……私も変に感情的になってすまなかった。身分証明書、タケルの分は後で私から渡しておく。作ってくれて感謝する」
「いえ、どういたしまして」
カールのおかげで仲直りすることができ、食事を再開することになった。再びキャンピングカーは走り出し、すでに真っ暗になった街道を進んでいく。
そんな時だった。後ろから猛スピードで迫ってくる魔動車が一台。
後ろにピタリと接近すると、私たちの乗るキャンピングカーを煽り出した。
「なんだよ、遅いと思うなら追い抜けばいいだろ! 面倒な車だな!」
カールが苛立ちを見せる中、煽る魔動車はやっと追い抜いていくのかと思ったら、前に強引に割り込んだ後に急停車した。
当然のことながら、こっちの車も止められる事になる。
「なあ、前の車はどうやら絡んでくるぞ。どうする?」
と、カールが後ろを振り向き聞いてきたときには、すでに私とイシェイルがキャンピングカーの外に出ていた。
「お、おい!? 二人とも、もう出ていったのか!?」
「チビ雪さん、メディカルキットの用意を」
「そうですね、二人の手当てが必要かもしれないですし」
「何言ってるんですか? 手当てが必要になるのは相手の方ですよ」
「え?」
色々と弄ってある汚い魔動車からは、四人のガラの悪い魔族が降りてきた。
「てめぇら、何ちんたら走ってんだ? 邪魔なんだよ」
「イライラさせやがって。お前ら、殺さない程度にやってしまえ」
「チッ、偉そうに命令するなよ」
「あん? なんか言ったか?」
「何も言ってねぇよ」
チンピラ四人は一人が後ろで命令をして、他三人が少しイラつきながら近づいてきた。対して私とイシェイルは無表情で、キャンピングカーのライトを背に真っ直ぐ前を見据えていた。
「ねえ女男、どっちが早く片付けられるか勝負しない?」
「ならばさっさとケリを着けるか、奴らをぶっ飛ばした後はお前をぶっ飛ばさないといけないからな」
男達に全く反応しない様子を見て、チンピラ達が苛立ちを見せる。
「俺たちを無視して何喋ってんだ! このアマ…ほげぇ!!」
刹那の如く、チンピラの一人が後ろに吹き飛ばされて自分たちの車にまで吹っ飛ばされる。
顔からは鼻血が大量に流れて白目を剥いて気絶していた。
「ふー、手加減してやったのだがな。全く外の住人は軟弱だな」
一瞬でチンピラの間合いに入ったイシェイルは、強烈な正拳突きを叩き込んだ。
「ちょっと! 何フライングしてんのよ!」
「貴様が鈍間なだけだろう!」
イシェイルに負けじと慌ててミスリルソードMK-Ⅱを抜刀し、チンピラ達に斬り込んでいった。
「こ、こいつら!? やりやがったな!? かまうな、容赦なくやっちまえ!」
「ええ、今からやるところよ!」
「なに!? ぎゃああ!!」
仲間が一人やられて狼狽えていたチンピラの一人を捉え、右下から斬撃を加えた。一応殺さないように、致命傷にはならない間合いギリギリでの斬撃だったけど、相手は左太ももから右肩にかけて大きく斬られて痛みで倒れ込んだ。
一人を斬って捨てた後、すぐ近くにいるチンピラに間髪入れずに、体を回転させて斬撃を撃ち込む。
「う、嘘だろ!? ぐあああ!! いてぇえ!」
相手は金属の棒を持っていたけど、関係なく真っ二つに切り裂いてチンピラの両腕にダメージを与えた。
「これで二人目! 残りはあと一人!」
「もう片付いてるぞ」
残りの一人は一番後ろで命令していた奴だったけど、スピードのあるイシェイルがそいつの首を片手で鷲掴みにして持ち上げていた。そのチンピラは口から泡を吹き、白目を剝いて気絶している。
「勝負は私の勝ちだな。お前が二人目を斬る前に、私はこいつを捕えていた」
「はあ? 私の方が早かったわよ!」
「いや、殴れば私の方が確実に早かったぞ。だがそれだと、あまりに暇になるから首を絞めて見物していたのだ」
「こ、この女男ー!」
傍から見ると心底どうでもいい張り合いをしながら、チンピラ四人を瞬く間に片付けた。
それを見届けた後、キャンピングカーからメディカルキットを持ったチビ雪とリーティアが降りてきてチンピラ四人の手当てを始める。




