91話 解放の条件
「いたたた、全くあの女男。なんて力してんのよ」
イシェイルとの決闘を終えたスノー達は、一つの部屋に集められていた。部屋の前にダークエルフが見張りに立って監視されている中で、スノーはリーティアから手当てを受けていた。
「おそらく骨にもダメージがいっています。しばらくは無理しないようにしてください」
「あの甲冑の上からでも、それだけのダメージかよ。マジでやばいな、美女のダークエルフは!」
「カール、少しは空気読んでよ」
「あ、ああ。すまんチビ雪ちゃん。でも本当に危なかったな姉御」
決死の覚悟での体当たりだったとはいえ、頑丈なミーちゃんの甲冑を纏っているにも拘わらず、イシェイルの攻撃がここまで通るとは思ってもいなかった。
もしミーちゃんがいなかったらと思うとゾッとする。
「ミーちゃんがいなかったら、今頃スノー様の体には大きな風穴が開いて息絶えてましたね」
「そ、そんなに!?」
リーティアの言葉に、さらに背筋が凍った。それだけイシェイルの攻撃は半端なかったという事だ。
でも、タケルはそれだけの攻撃に耐えて私達を逃がそうとしてくれたのか。
「あのタケルっていうイケメンのダークエルフに感謝しないとね。おかげで助かった…あああああ!!」
タケルへの感謝を口にした途端、近くにいたミーちゃんが体に巻き付いて締め上げてきた。とんでもない力と右胸の痛みで絶叫してしまう。
「誰のおかげで助かったって?」
「タ、タケ…いえ…み、ミーちゃんの…おかげ、です! ていうか………痛い痛い! た、助けてー!」
僅かに動く左腕をバタバタとして、ミーちゃんに助けを乞うた。
それを聞いて、ようやくミーちゃんが離れて締め付けを解いてくれた。
「ダイレクトに攻撃を受けた私の方が痛いのだ! 感謝を伝える奴を間違えるな!」
「あ、ありがとうミーちゃん。でも、もう少し優しくしてよね…」
気性の荒いミーちゃんは本当に容赦ない。体の骨がギシギシいってたんですけど。
「新たな主、私も早く休ませろ」
「いくら強烈な一撃だったとはいえ、休むの早過ぎない?」
「シャー!」
「わ、分かったわよ! ミーちゃん統魔の指輪に戻って!」
これ以上ミーちゃんを外に出しておくと、返って身の危険を感じたので慌てて統魔の指輪に戻した。
しばらくリーティアによる応急処置も終わり、部屋で寛いだ時間を過ごす。
「俺達このままどうなっちまうんだろうな」
「イシェイルというダークエルフが負けを認めたと言っても、すんなりデックアールヴの森から出してくれるか分からないもんね」
「ええ、ここはグリテアが隠したがってた研究施設。普通に考えれば口封じをするでしょう」
「ちょっと待ってよ! そしたら私の怪我はなんだったの!」
閉じ込められた部屋で四人で話すが、当然答えなんて出ない。今は大人しくダークエルフ達の対応を待つしかない状況に、苛立ちを隠し切れなかった。
何よりデックアールヴの森を通ろうと言ったのは自分自身。万が一の時は、私が全責任を負う覚悟をしていた。
リーティアが取り出してくれた食料やドリンクを口にしながら、しばし落ち着かない時間が続いた時だった。
部屋のドアが開く。
「お前達、出ろ。だが可笑しな真似はするなよ。少しでも怪しい素振りを見せたら容赦しない」
六人もの武装したダークエルフ達が部屋の前に立ち、私達をイシェイルが待つ場所に連れて行くという。
前に二人、後ろに四人のダークエルフに囲まれながら、目的の場所へと連れていかれた。
大きな扉の前に立つと、前を歩くダークエルフが扉の横にあるモニターを捜査している。
「イシェイル様、侵入者を連れてきました」
「分かった、入れ。ただしお前達は外で待機。侵入者だけを入れろ」
「し、しかし!」
「私に同じ事を二回言わせる気か?」
「は、はい。了解しました」
モニター越しにイシェイルと会話をしたダークエルフは、渋々大きな扉を開いた。
「お前達入れ。だが念のため、その指輪は預からせてもらう」
私とリーティアがしている統魔の指輪をダークエルフ達が奪う。そして言われた通りに大きな扉の中へと入り、再び扉が閉められた。
「なに? この空間」
扉の中は地下施設とは思えない、綺麗な森の姿があった。森だけでなく小さな川も流れていて、虫や小動物、なんとモンスターまで飼われている。
僅かに木漏れ日まで再現されていた。
「凄い、まるで本物の森みたいです」
「ああ、とても地下にいるとは思えないぜ」
「ここはかつてのワセアの森を我々の手で再現したものだ。本来の我々の森は、正に楽園という言葉が似合う程の綺麗な森だった。
だからここだけは我々ダークエルフの強力な結界が張ってあり、魔王グリテアであっても干渉はできない。存分に本音を話す事ができるんでね」
片腕に小鳥を乗せたイシェイルが施設内に作られた森の説明をしてくれた。その姿は決闘場で血気盛んな表情だったときとは真逆の、優しく愛情に満ちたイシェイルの姿だった。
「女男!」
「だ、誰が女男だ! せめて男女と言いなさい!」
あ、また血気盛んな顔に戻った。腕に乗っていた小鳥もビックリして逃げて行ってしまった。
いかんいかん、戯れてる場合じゃない。
「私達をここに呼んだという事は、処遇が決まったという事でいいのかしら?」
相手の出方を待つ。こっちの質問にイシェイルは表情を変えないまま、少し言葉を考えているようだった。
「もし私達を処刑するつもりなら私だけを処刑して。他の三人は見逃してちょうだい」
「スノーお姉さま!? 何言ってるんですか!?」
「そうだぜ姉御! 自分だけ責任を負う必要はないぜ!」
「そういう訳にはいかないわ。ここに行こうと言い出したのは私だし。何より私がパーティのリーダーでしょ」
「それで助かっても、私はこれっぽっちも嬉しくないです!」
互いの意見がぶつかり合う。
沈黙を保ったまま、こちらの様子をしばらく見ていたイシェイルは一瞬目を瞑ってから言葉を発した。
「本来であれば、お前達侵入者をここから出す訳にはいかない。ここは魔王グリテアの秘密の地下施設。秘密を知ったからには全員処刑しなければならない」
「だからそれは私だけを!」
「スノーお姉さま! いい加減にしてください!」
「全くだ! 大体俺はこんなとこで死ぬなんて御免だし、誰一人死なせるつもりもないぜ! 最後まで抗ってやる!」
再び意見がぶつかり出し、場が熱くなった時だった。
「黙りなさい! 私の話しを聞きなさい!」
イシェイルの怒号が飛び、一瞬にして静まり返った。その直後に大きな溜め息をついたイシェイルは、一息入れて語り出す。
「本来なら全員ここから出す訳にはいかない。だけど…今回は特別に全員出してあげる」
「それは何で? ここの秘密を知られたらマズいんだよね?」
「もちろんタダで出す訳にはいかない。ある条件を飲んでくれれば」
「その条件とは何ですか? 一応言っておきますが、私はそこにいるスノー様の命令があれば本来の力を開放できます。呑めない要求であれば、その時は私はここを焦土と化す決断をしますよ」
「そう熱くなるな。なに簡単なことさ。私も一緒に連れて行け」
「「「「は?」」」」
四人全員で声を揃えてポカンとしてしまった。一体このダークエルフは何を言っているのかと。
すると頬を真っ赤にしたイシェイルが、少し声を荒げながら返してきた。
「だ、だから私も一緒に行く! 同じ事を二度言わせるな! それがお前達をここから出す条件だ!」
「それってつまり、私達を監視するためってこと?」
「どう捉えてもらっても構わない。嫌だと言うなら私もここで貴様らを葬るまで」
「いいんじゃねぇか姉御! あんな美人さんで強いダークエルフが来てくれるなら大歓迎じゃないか!」
「ええー、私それならタケルっていうイケメンの方がいいんだけど」
「もう二人とも真剣に考えてください! 私達の命運が掛かってるんですよ!」
ギャーギャーと一気に騒がしくなり、どうするかを話し合った。もちろん選択肢は一つしかないのだが。
「いいわ。あなたの同行を許可する。でもパーティに入る以上は、私がリーダーだという事を忘れないでよ」
「それぐらいは心得ている。今後はお前の指揮下に入る。まあ何はともあれ、よろしく頼む」
「はい! よろしくお願いします! イシェイルさん!」
「やったぜ! 今後の旅が楽しくなりそうだ!」
イシェイルがパーティに加入する事になったが、気になる事も当然ある。
「あなたがここを離れても大丈夫なの? 魔王グリテアの秘密施設なんでしょ?」
「それなんだがな。我々も色々話し合った結果…ここを捨てる事にしたのだ」
「え!? デックアールヴの森を捨てるんですか?」
「そうだ、最早ここはかつての我々の聖地と呼ぶには程遠い存在になってしまった。今までは不本意ながらも魔王グリテアの命令を受け入れここを守ってきたが、最早その価値はここにはない。
だから、ここのエネルギー源であるワセアの神木を消滅させる。そうすれば、この森は完全に終わるだろう」
「そんな事をすればグリテアが黙ってないのではないですか?」
「だろうな。だから他のダークエルフ達は西と東、それぞれの大陸へ散り散りに逃げる事になった。そして私はお前達に付いて行く決断をしたのだ。グリテアに一矢報いてやろうと思ってな」
右手をギュッと握りながら胸の辺りに持って来てイシェイルは覚悟を表す。本気で魔王グリテアをぶん殴るつもりなのだろうか。
それはそれで困るのだけど。
「あなたの覚悟は分かった。でもワセアの神木を枯らすのは待って」
「なに? それはどういう事だ?」
「あなたの弟のタケルが命懸けで守ろうとした物を壊す必要はないわ。これだけの森を再現できるんだから、いつか必ず昔のデックアールヴの森を復活できるわよ」
「お前…」
イシェイルは力強く握った拳を解くと、ゆっくりと下に下ろした。僅かに目に涙を浮かべながら、少し嬉しそうに笑顔を作っていた。




