9話 秘密
母上から私のサポートを頼まれていた?
どういう事だろう。
いや、そんな事より母上が奈美さんと知り合いだった?
母上からは一度も聞いた事がない。
完全に混乱した私を見て、奈美さんはまるで子供を見るような、ほんのりとした笑顔を見せる。
「突然の事で驚きましたよね、申し訳ありません。実は、小雪様の母君は私の師だったんです」
ちょっと待って、全て初耳なんですけど。
魔導士学校が出来たのが、今から二十年前。
魔導士だった母上は創立メンバーだった。
そして母上が魔導士学校で教官をしてたのは、設立されてから最初の二年間という本当に僅かな間。
私を身籠った時に、母上は魔導士学校を辞めたと聞いてる。
余計に混乱させてしまったと感じた奈美さんが、一から順序立てて説明してくれた。
まず奈美さんは、魔導士学校の一期生として入学したらしい。
当時は出来たばかりだったので、特に年齢の規定がなく、バラバラの年齢の者達が集まったそうだ。
その時で奈美さんは十五歳、下から二番目に若かったそう。
つまり現在は三十五歳という事か。
年齢よりも肌艶も良くて若々しいんだけど、何か特別な事をしているのだろうか。
いや、そんな事はどうでも良くて。
入学してからの最初の二年間、担任をしていたのが私の母上だった。
魔王マサオの妃という立場の母上が担任というのは、当時のクラス内はザワッとしたらしい。
でも母上は特に偉ぶることなく、それどころか生徒達と同じ目線に立って接していたそう。
ただ母上の教え方は、何というか理論的にではなくて、感覚で教えるタイプだったそうで。
要するに、誰かに教えるのは下手くそだったみたい。
仕方ないよね、母上は魔導士学校が出来る前から魔導士やってたんだから。
でも奈美さんは抜群のセンスで成績を伸ばしていき、一期生を首席で卒業したそうだ。
卒業をしてからは、今度は後進育成の為に魔導士学校の教官として働き始めた。
「気付けば、もう十二年もここで働いています。その間に私の父も亡くなり、マサオ様も亡くなって今は小雪様が魔王となられました」
母上が魔導士学校を辞めてからというもの、それまで全く関わりがなかったそうなんだけど。
六年ほど前、突然母上が魔導士学校を訪ねてきた。
久しぶりの再会を懐かしんだそうだけど、母上が奈美さんに会いに来た理由を話してきた。
「私がそこで言われたのが、魔力を一切使えない小雪様の特訓を手伝って欲しいと」
え?母上、私の知らない所で何言ってくれてるん?
これは家族内の秘密だったはずなのに、奈美さんにバラしてたの?
そう、実は私は一切魔力を扱えない。
これは魔族としては致命的。
魔族であれば、大なり小なり魔力は扱えて当たり前なのだ。
特に魔王という立場であれば、他の魔族より強大な魔力を扱えて当然なんて思ってる者も少なくない。
父上は表向きは魔界を変えた賢人という立場だったから、魔力が使えなくても問題なかった。
でも純粋な魔族ではないけど、半分魔族の血を引いてる私が魔力を使えないというのは、今後魔王という立場になった時の弊害になると父上は考えた。
下手をすれば暗殺される危険性さえあると、父上は危惧していた。
だから家族内だけでの秘密にして、絶対に他言してはいけない事になってた。
今この事実を知ってるのはチビ雪だけ。
堅造すらも知らないのだ。
これに関しては、申し訳ないけど亡き母上に対して少し怒りが込み上げた。
思わず無言のまま、不機嫌な態度を取ってしまった。
「小雪様、何度も言葉足らずですみません! この事は絶対に秘密にして欲しいと言われ、私は誰にもこの事は話してません」
奈美さんが慌てて補足してきた。
母上は私が魔力を扱えないのは、自分の教え方が下手なのかもしれない。
もしそうでないなら、他に何か原因があるから一緒に調べて欲しいと伝えてきたらしい。
絶対に他言無用でお願いしますと、何度も頭を下げられたそうだけど。
分かりましたから頭を下げるのは止めて欲しい!と、逆に何度も訴える羽目になったとか。
「でも、次に会った時に今後の段取りを決めるはずだったんですけど…」
母上は妃としての公務などに追われて中々都合が着かず、それから約一年会えなかった。
内密に動いていた事だったから、母上も身動きが取り辛かったのもあったんだと思う。
ようやく、お互いの都合が着いたのは約束した日から約一年後。
ところがその矢先に、母上はこの世を去ってしまった。
結局会えず仕舞いになってしまい、私が魔力を扱えない事は絶対の秘密になってるので、奈美さんとしては自分から出向くなんて事は当然できない。
そのまま月日だけが流れてしまったそう。
ちなみに母上の死の原因は、何かの実験中の事故だったらしいけど詳しくは私も知らない。
確かに母上は晩年、何かに没頭するようにホワイトガーデンの地下にある実験室に篭っていたと聞いてる。
その実験室は現在、厳重に閉鎖されて開かずの間になっている。
あれから五年。
「今回、小雪様から私に会いたいという話しをチビ雪ちゃんから受けた時、やっと約束を果たせると思いました」
だから堅造からの依頼を断って、私と一対一で会いたがったのか。
でも約束を果たすと言われても、私はもう魔王になっている。
今更、魔導士学校に通う事なんて出来ない。
マンツーマンで指導を受けるなんて事も当然無理。
立場が違えど、忙しいのは奈美さんも同じだが。
「小雪様、私も沢山の生徒を抱えていますし、魔導士学校を休むわけにはいきません。なので私は今回、母君がおっしゃられていたように小雪様が魔力を使えない原因を探りたいと思っています」
十歳になった時から、母上から魔力を扱う特訓を受け始める。
同じくチビ雪も一緒に、特訓を受け始めた。
その時はまだ五才だったにもかかわらず、母上に引き取られて少しでも役に立ちたいと、幼いながらも感じていたんだろうな。
母上からの特訓を受けて、チビ雪はメキメキと上達していく。
生まれつきセンスの良し悪しは当然あるけど、チビ雪は正に優秀な部類に入っていた。
母上が亡くなった後に七歳で魔導士学校に特別推薦で入ったけど、すでに十二歳以上の中等部に匹敵するだけの魔力を扱えてたそうだ。
でも私の方は全然ダメで、全く使える気配すら感じられなかった。
奈美さんの話しだと、当初母上は自分の指導不足と考えたようだけど。
父上は日本人の血が邪魔してるからでは?と、そう考えていた。
でも、それはどちらも違うという事が今はハッキリしている。
もし母上の指導が下手なのが理由なら、同じく特訓を受けてたチビ雪がそこまで伸びるはずがない。
勿論母上の教え方は下手だと言われればそう思うけど、でもそれだけが原因じゃないと思う。
そして日本人の血だけど、これが違うのは目の前にいる奈美さんが証明してる。
つまりハーフだろうが関係なく魔力は使えるのだ。
だからこそ母上は、娘が魔力を使えない原因は他にあると思って奈美さんを頼った訳だし。
「原因を突き止めれば、私も魔力を扱えるようになるのでしょうか?」
「それは分かりません。でも突き止める事で、何か見えるものがあるかもしれません」
私を魔導士学校に来させた理由、それは学校の魔道具を使って原因を特定する為だったのか。
一通りの説明を終えた奈美さんはソファーから立ち上がると、チビ雪が準備をしている部屋へと案内すると言って扉を開けた。




