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86話 接触

滅多にお目にかかれないダークエルフを、ついにお目にかかる事になった。


だけど相手は大きな弓を構えて、二発目の矢を何時でも放つ準備を完了させている。


つまり全く歓迎されていないのは明白だった。


「ダークエルフだ! 本当にいたんだ!」


初めてみるダークエルフに、チビ雪のテンションが大きく上がる。


相手のダークエルフは緑色の目に、背中まである長い銀色の髪の毛をポニーテールにして束ねている。中世的な顔立ちで、男なのか女なのか見ただけでは判断が付かない。


だけどエルフ特有の長い耳ではなく少し尖った程度の耳、さらにダークエルフに多い褐色の肌ではなく、むしろ少し色白に近い肌色をしている。


そして、そのダークエルフは木の上から鋭い眼差しで二人を凝視し、殺気を全く隠す気がない。


「ダークエルフさん、あなた達の森を荒らしてしまった事は謝罪します。ですが、私達も仲間を探しています。二人を見つけたらすぐに出て行くので、見逃してもらいないですか?」


リーティアがダークエルフに対して説得を試みるが、有無も言わさず矢を放ってきた。リーティアは瞬時に反応をして、左手の盾でガードをする。


「待って! 敵対する気はないの! これ以上争うのは止めませんか!」


焦ったチビ雪も説得に入るが、相手は聞く耳を持たないらしい。大きな耳をしているくせに。


「チビ雪さん、無駄です。残念だけど、相手を倒すしかなさそうです」


「そんな…初めて会ったダークエルフなのに。何で戦わないといけないの」


対峙するダークエルフが三本目の矢を構えて、初めて一言だけ発する。


「貴様らを生かして帰す訳にはいかない」


「あ、男だったんですね。どっちか分からなかったから」


チビ雪がダークエルフの性別を分かった事で、何となく嬉しそうにしている。だが今はそれどころじゃない。


「仕方ないですね。またメーデに世話になるのは癪に障るのですが」


リーティアは服の袖に隠し持っていた指輪を取り出して、それを右手の薬指に嵌めた。


「それって、もしかして統魔の指輪?」


「ええ、スノー様のと違って一体までしか使役できない廉価版ですが。アビゲイル、出てきなさい」


統魔の指輪をかざして、中にいるモンスターを召喚させた。中から出てきたのは、真っ黒な大蛇。額には稲妻に似た模様がある。


リーティアが使役した事で、当初よりも格段に大きくなっていた。


だが水が流れるような透明感は相変わらずだ。


「キャー!!」


蛇が苦手なチビ雪が大声を上げた。


それを無視して、出てきた黒き大蛇にリーティアが命令をする。


「アビゲイル、あのダークエルフを食っておしまい」


「ええー!?」


まさかの命令に、チビ雪は目が飛び出るんじゃないかと思うぐらいの驚きを見せる。命令を受けたアビゲイルは、ダークエルフへ一目散に襲い掛かった。


「な、速い!?」


さすがのダークエルフの青年も焦って矢を打つが全く通用せず、大きな口を開けたアビゲイルに飲み込まれてしまう。


初めて会ったダークエルフなのに、蛇の餌にしてしまう光景を見てしまってチビ雪が膝から崩れ落ちる。


「酷いよリーティア! いくら何でもそれはないよー!」


「落ち着いてください。死んではいませんよ。私は彼と話しをしたいのです」


「え? それってどういう」


チビ雪が聞き返そうとしたのも束の間、今度はさらに驚きの命令をした。


「アビゲイル、私とチビ雪さんも食ってちょうだい」


「ええー!? えええー!?」


木の上にいたアビゲイルは、そのまま大きな口を開けて飛び掛かって来る。


「いやー!! 生きたまま蛇に食べられるなんていやー!!」


少女の大きな悲鳴が木霊して、アビゲイルはリーティアとチビ雪の二人も丸呑みしてしまった。


全員を平らげたアビゲイルは額の稲妻模様が光り、その瞬間に次元の裂け目を作って入り込んで姿を消してしまった。





――――





「巨大ヘビ消失!? タケルも完全に見失いました!」


ある施設の中に集まる数人のダークエルフ達が慌てふためく。リーティアが召喚したアビゲイルの反応を完全に見失ってしまったからだ。


「バカな!? 結界が破られた形跡はないぞ!? とにかく探せ! 必ずどこかにいる!」


巨大なコンピューターの前で似つかわしくない、ダークエルフ達が必死になってリーティアとチビ雪を探す。さらに仲間である、タケルという名のダークエルフの行方を追っていた。





――――





(なんだ、僕は夢を見ているのか)


ゆりかごに揺られる様な心地よさ、さらには安心感にも思える空間の中でダークエルフのタケルは目を覚ました。


一瞬、自分の置かれた状況が全く理解できなかった。これは夢なのか現実なのか。


徐々に自分が大きな蛇に食われた記憶を呼び起こすが、その後の記憶がなく目の前に広がるのは、何故か豪華な料理がテーブルに置かれた広くて綺麗な部屋。


ここは夢か現実か、はたまた死後の世界なのか。


体をゆっくりと起き上がらせると、タケルはフカフカのベッドの上で眠らされていた。


「一体ここは。僕は死んだのか?」


キョロキョロと周囲を見渡すタケルに、一人の女性の声が響き渡る。


「いいえ、あなたは死んでいませんよ」


「だ、誰だ!?」


タケルはすぐに弓を構えようとしたが、自分が横たわっていたベッドには弓がない事を悟る。背中に担いでいた矢の束を入れたえびらも無くなっていた。


「あなたの弓と矢は預かっています。とりあえず余計な抵抗をせず、ここに来て話しをしませんか?」


タケルに話しかける女性はリーティア、手には三つのマグカップとティーポットを持っていた。


当然タケルは不快感を示すが、さらにリーティアの後ろからチビ雪が姿を現し、タケルの元へと近付いて行く。


「お願いです。私達は貴方と戦いたくありません。どうか話だけでも」


納得はしない、だがタケルは今の状況を打破する目的でベッドから立ち上がり、料理の置かれたテーブルにある椅子に着席した。


タケルが座ったのを見て、リーティアがティーポットから茶をマグカップ三つに入れて、それぞれの席の前へと置いた。


「どうぞ、これならダークエルフでも飲めます。美味しいですよ」


「…………」


淹れられた茶に全く反応を示さず、タケルが二人に殺気と鋭い視線を向ける。


それに目もくれず椅子に座るリーティアと、タケルの反応が気になるチビ雪が席へと座った。


開口一番。


「ここはどこだ? 貴様たちの目的はなんだ?」


怒気の篭った圧と共に、二人に向けて放たれる言葉。チビ雪が怯むがリーティアは冷静に答える。


「ここはアビゲイル、私が使役する蛇の体内です」


「なんだと!? あの大蛇の腹の中だというのか!?」


「そうです。あの蛇は存在しているようで存在しない。謂わば次元の狭間にいる存在の蛇なんです。だから体内も異空間になっていて、蛇事態も異次元を行き来する事ができます」


「私も驚きました。蛇に食べられた時は、泣き叫びましたし」


アビゲイルは次元の狭間を移動して、完全に姿かたちを消す事ができる。次元の狭間に入ったアビゲイルは、一切の干渉を受けなくなり誰にも見つける事はできなくなる。


元々はメーデがデックアールヴの森を脱出させる手段としてリーティアに託した蛇だったが、リーティアはダークエルフを捕らえる手段として使ったのだった。


「なら貴様らを殺して、この蛇の体内から脱出するまで」


タケルが目の前にあったフォークを手に取って敵意を剥き出しにする。しかしリーティアは、ほくそ笑むようにタケルを見下ろした。


「やれるものならやってみなさい。だけどアビゲイルの主である私が死ねば、同時にアビゲイルも死ぬ。そうなったらあなたは二度とここから出れず、永久に次元の狭間を彷徨い続ける事になる。それは死よりも辛い永遠の苦痛に等しい」


「ぐ…おのれ、なんと卑劣な」


「止めて―! お願いだから止めてー!」


タケルよりもチビ雪の方が、精神的ダメージが大きかったようだ。タケルに必死に思いとどまるように大声を上げる。


チビ雪の説得が効いたのか、それとも諦めたのか、タケルはそっとフォークを置き、椅子に座り直した。


「それで、一体僕から何を聞きたい?」


鋭い視線は残したまま、タケルはリーティアを睨みつけた。


茶を一口啜ったリーティアは、


「私はリーティア、こちらはチビ雪さんです。宜しければ、あなたの名前をお聞かせください」


まさかの自己紹介にタケルは驚きを通り越して拍子抜けした。そして少し溜め息を吐いて答える。


「僕はタケルだ。笑いたければ笑え」


何故か嫌そうに、というより答え辛そうに自分の名前を答えた。眉をひそめ、二人からも視線を逸らした。


だが二人にとって、それが不思議でならなかったのは当然だった。


「何で笑う必要があるの? いい名前じゃないですか!」


「何を言ってるんだ? 僕の名前をバカにしないのか?」


「バカにする訳ないじゃん! そんなこと言ったら私の名前はチビが入ってるんだよ! でも今まで嫌だと思った事はないしバカにされた事もないよ!」


「まさかダークエルフにも日本風の名前がいたなんて驚きです。益々あなたに興味が出てきました」


アビゲイルの体内で三人の話し合いが始まる。スノーとカールを助けるためには、何としてでもタケルから情報を聞き出す必要のある緊迫した状況ではあった。

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