85話 ダークエルフの罠
スノーとカールの二人を見失ってしまい、デックアールヴの森を二人で進む事になったリーティアとチビ雪。
二人を探すにしても、手掛かりが全くない状況では変に動くわけにもいかない。
「リーティアどうしよう、このままだと身動き取れないよ」
「チビ雪さん、ちょっとこれを見てください」
巣魔火を持つリーティアが、チビ雪に画面を見せた。
「これは魔力を測定する魔力測定アプリなのですが、メチャクチャな数値を叩き出してます」
「リーティア、このアプリって認可を受けた機関でしか使えないはずじゃ」
「今はそんな事を言ってる場合ではありません。恐らく今現在も、何者かの干渉を受けています」
何とかして二人を探さなければいけないが、相手の正体が掴めない以上、リーティアは対策を練り始める。
ところが、ここでチビ雪が可笑しなことを言い出した。
「あ! スノーお姉さま! そんなとこにいたんですか!」
「チビ雪さん?」
チビ雪が突然、誰もいない所に向かって手を振り出して、スノーの名前を呼んで進もうとする。
それをすぐにリーティアは止めた。
「チビ雪さん! 何をしてるんですか! あそこには誰もいませんよ!」
「リーティア! 邪魔しないで! 手を放さないと容赦しないよ!」
激昂したチビ雪は、リーティアの手を振り払って呪文を唱え始める。その目は瞳孔が開き、明らかに正気ではなくなっていた。
「これは、まさか精神への干渉? しかし一体どこから」
「死ね、ファイヤーブレイズ」
至近距離でチビ雪が巨大な炎を作り出し放とうとした。お互いを髪の毛で作ったロープで固定しているのが仇となり、リーティアは避けようがない。
「仕方がありません。まさかチビ雪さんを守るために作った盾で、チビ雪さんの攻撃を受けなければならないなんて」
チビ雪の杖から巨大な炎の塊が至近距離で放たれ、左手に装備したミーちゃんの蛇皮に表面を覆った盾を構えるリーティアに襲い掛かった。
「ううぅ、熱い。力を制限されてる上に、この至近距離。流石の私も堪えます」
ゼロ距離での呪文攻撃をまともに受けたリーティアだが、新しく作った盾で何とか凌ぎ切った。だが何度も喰らっては、いくら何でも持たない。
そこでリーティアは急ぎディメンション・ボックスを開き、メーデから貰った瓶を取り出した。
中には赤い色をした液体が入っている。
「お守りとしてメーデから貰った血清。もうこれを使う事になるなんて」
さらに長細い筒を取り出し、瓶の蓋にある窪みに筒を嵌めこむと、瓶に入っている血清を吸い上げた。
再びチビ雪が呪文の詠唱を開始している僅かな間、準備を終えたリーティアがチビ雪の首筋に筒の先端から出ている数本の短い針を刺し、血清を投与することに成功する。
あと少し遅れていたら先に呪文を放たれ、大ダメージを受けていた可能性があった。正に間一髪。
「うう…ぐぅぅ…うわああああ!!!」
血清を打たれたチビ雪は、その場でもがき苦しみ出す。ここで可笑しな異変が起きた。
チビ雪の体から、黄色い気体が漏れていることに気付いた。
「これは、何かのガス? そういえばメーデが話してくれた中に、黄色い霧を見た者がいたと言っていたけど、もしかしてこれが?」
となれば、チビ雪が受けたのは魔力を使っての干渉ではない。そして僅かではあるが、自身の体にも影響が出ている事に気付いた。
手が若干の痙攣をしていて、軽い目まいがする。
「あらゆる魔毒耐性を持つ私ですら干渉を受けるなんて。恐らく私だからこの程度で済んでいますが、並の物であれば、精神を乗っ取られ幻影を見せられてますね」
リーティアはもう一つ筒を取り出すと、念の為に自分にもメーデから貰った血清を打った。
「はあ…はあ…リーティア、私は一体…」
「何者かから干渉を受けて幻影を見せられていたんです」
ようやく血清が効いたのか、チビ雪が意識を取り戻した。少なくとも数時間は大丈夫なはず。
リーティアはお互いを結んでいた髪の毛のロープを切り離した。そしてガスが噴出している場所を探し出す。
「恐らくこの元凶は、そこか!」
リーティアが前方にある大きなマーブル色の花に向かってナイフを投げた。ナイフは花のど真ん中に突き刺さり、その切れ目からプシューという音と共に何やら黄色い気体が大量に溢れ出た。
チビ雪の体から噴き出てきた、あの黄色い気体と同じだ。
「チビ雪さん! 離れて!」
「あれは一体なんなの!?」
「これは危険な毒ガスです。体内に大量に入り込むと精神を乗っ取られ、幻影を見せられます。チビ雪さんの体からも出てきました」
「本当にー!? やだ、気持ち悪いー! じゃ、じゃあスノーお姉さまやカールは!?」
「ええ、残念だけど、あのガスにやられたと見て間違いないかと」
大量に噴き出た黄色いガスから、逃げるようにリーティアとチビ雪は走る。
「少しこの森を舐めていました。チビ雪さん、一度体勢を立て直しますよ」
「でもどうやって、あんな毒ガスを出す森に何時までもいられないよ! それに二人を助けないと!」
「あれは間違いなく自然のガスではない。となれば、この森にはあれを管理している支配者がいるはずです。そこを突き止めます」
「そっか! 森のどこかに出入り口があるんだね!」
二人は一目散に走り続けた。
一目散に走り続けて数分、結界が張られた場所に辿り着く。
「はあ…はあ…ここから先が結界が張ってあって入る事ができないよって、リーティア大丈夫!?」
「はあ……ぜぇ……うっ!?」
思ってた以上に体力のないリーティアは、その場で蹲ってリバースしてしまう。昨日の呑み過ぎも響いたようだ。後ろからチビ雪が優しく背中を擦った。
「あ、ありがとうございます。チビ雪さん。とんだ失態を見せてしまいましたね」
「うん、気にしないで! さっきは助けてもらったし!」
「とりあえずこの結界を破りましょう。チビ雪さん、手を貸してください」
リーティアは、結界を破るためにチビ雪から魔力を補助してもらう。チビ雪の手を握り、もう片手で結界に手を当てた。
「魔力裂傷!」
リーティアの手から青紫色のオーラが出始め、結界に裂け目を作る。
だが、それ以上結界を破壊する事はできなかった。
「思った以上に頑丈です。今の内に行きますよ!」
「はい!」
僅かな間に空いた裂け目から二人は結界内に入り、しばらくして裂け目を修復するように結界は閉じた。
「この場所は一体」
結界の中は、それまでの雰囲気の違う開けた場所だった。そこには、かつて何者かが住んでいたであろう、生きた木を住処に改造をした木々の残骸が残っていた。
木をくり抜いて部屋にしてる家や、枝分かれしている場所に小屋のような家が固定してあるものから。しかし結界の中の木たちは、心なしかあまり状態が良くないように思える。
さらに奥に進むと、他の木とは比べ物にならない程の巨大な大木が姿を現す。
「凄く大きな木、それに凄いパワーを感じる」
「ん-、恐らくデックアールヴの森の主とも言える木でしょうか。この森の力の源となっているのでしょう」
「もしここがダークエルフの住処だったなら、彼らはどこに行ったんでしょう?」
「分かりません。自分達でここを去ったのか、それとも去らざる負えなくなったのか。しかし、それだとあの結界は何の為に。もしかしたら、ここが本来のデックアールヴの森なのかもしれません」
「え? 本来の?」
二人が立ち止まって話しをする中、強烈な風切り音が走る。共に一本の矢が二人を襲った。
「チビ雪さん! 伏せて!」
瞬時に殺気に気付いたリーティアが盾を構えて、向かってきた矢をガードした。
リーティアが矢が飛んできた方角を見る。そこには木の上から二人を見下ろす、一人のダークエルフの青年の姿があった。
――――
「奴らが聖域の中に、マズいわね」
ある施設の中では、いくつかのモニターを見ながらチビ雪達を監視している者達の姿があった。耳が横に大きく伸びる者、もしくは上に大きく伸びる者達。褐色やこげ茶色の肌に、髪の毛の色はブロンドもしくは銀髪。
魔界の中でも見たことある者が少ないダークエルフ達だった。
森の中で住んでいるとは思えない程の、似つかわしくないハイテク機器の中に彼らはいる。
「しばらく森を迷わせて、二度と近付かないようにするだけのはずだっんだけどね」
「イシェイル様、ここを見られたら魔王グリテアも黙っていません。どうされます?」
「仕方がない。奴らを捕獲する以外にない。これ以上、秘密を知られる前に奴らを捕らえる」
とある施設の中では、数人のダークエルフ達がリーティアとチビ雪を取り逃がした事への対応を話し合っていた。
「我々全員で外に出るわけには行かない。ここは門番に任せておけばいい」
「大丈夫なんですか? あいつは我々と違い」
「相手は女と子供の二人、それぐらいは出来るでしょう。それに、いざとなれば人質を使えばいい。本当は幻影を見せたまま帰すつもりだったんだけどね」
ダークエルフ達を指揮しているのは、若い女性のダークエルフだ。長い銀髪をして横に長い耳を持った美人のダークエルフ。肩からローブを羽織り、さらに肩から先の腕を露出させた拳には、指の開いたグローブを付けている。
そして、リーティアとチビ雪が映るモニターの横には、スノーとカールが閉じ込められている牢屋の映像が映し出されていた。
先頭を歩いていた二人はリーティアとチビ雪よりも先にダークエルフの罠にハマってしまい、幻影を見せられたまま捕らえられていた。




