84話 デックアールヴの森
「それでは出発しましょうか。メーデさん、お世話になりました」
ミーちゃんの脱皮した皮で作った盾も完成し、リグレットを出発する日が来た。これから向かうのは、当初の予定になかったデックアールヴの森だ。
全員が出発の準備を終え坂を下ろうとしてる中で、まだ店の前でリーティアとメーデが何やら喋っている。
「リーティア、これ持って行って! 今日までに何とか完成させた白蛇のリタちゃんから作った血清! あらゆる毒を解毒する事ができるよー!」
「はあ、全く。貴女というヒトは。本当に」
「心配性なんだから…でしょ! だから持って行って!」
リーティアは小瓶を二つと、何かが入った袋を受け取っていた。それをすぐにディメンション・ボックスに収納する。
「リーティア、何してるの! 早く行くよー!」
「はい、今行きます」
リーティアが合流して、ようやくデックアールヴの森へと出発することになったが。行方不明者が続出し、さらには謎も多いデックアールヴの森は余程の物好きでなければ誰も近付かない森になっている。
「みんな本当に気を付けてねー! 危なくなったらすぐ戻って来るんだよー!」
「危なくなってからでは手遅れですけどね」
「リーティア何でそう一言多いかなー!」
「メーデさん、お世話になりました! また遊びに来ます!」
「ああ! またコーヒー飲みに来るよ!」
メーデさんが元気いっぱいに手を振って別れを惜しむ中、私達は出発した。そして、リグレットの郊外に出てから、リーティアが魔動車をディメンション・ボックスから取り出した。
「うわー! 凄い! なにこれ!」
「後ろが居住スペースになってます! ベッドまで!」
「此間の宿屋より全然いいじゃねぇかよ! すげーぜ!」
リーティアの魔動車は後部が居住空間になっていて、本人の説明曰くキャンピングカーという車らしい。魔都市クランレアドからヴィントナーまで一人で来た時も、この魔動車があったから快適に旅できたそう。
三人がテンションを上げて後ろで盛り上がる中、リーティアが運転してデックアールヴの森へ着いたのはそれから魔動車で走ってから五時間ほどだった。
「大分木々が生い茂ってきたな。道も舗装されてないぜ」
「そうですね。ここから先は歩いて行きましょう」
快適なキャンピングカーでの移動も終わり、渋々車から降りた。
「今更なんだけどさ。やっぱりデックアールヴの森止めない? このまま町を目指そうかなって」
「スノーお姉さま、魔動車に揺られて段々めんどくさくなりましたね?」
「ち、違うわよ! ほ、ほらだって! わざわざ危険を冒す必要はないっていうか! 安全に冒険するのは大事よ!」
「姉御、昨日と言ってる事が真逆だぜ」
なんか私だけ駄々こねてるような空気になり、他三人からの視線が痛い。言い出しっぺは私だし、諦めてデックアールヴの森を予定通り進む事にした。
「ではみなさんの武器を出します。受け取ってください」
リーティアはディメンション・ボックスを開き、私の剣とカールのファルシオンを取り出す。リーティアはミーちゃんの皮で作った盾を左手に装備した。
各自武器を装備して、いよいよダークエルフがいると言われるデックアールヴの森へと入ってく。
「緊張しますね! もうすでに不気味な森です!」
「ええ! みんな気を引き締めて行くわよ!」
「おお! 任せておけ!」
私とカールが先頭を歩き、チビ雪とリーティアが後ろを付いて行くように森の中へと入っていった。
デックアールヴの森の中は昼間なのにも関わらず薄暗く、どこか寒さを感じるぐらいに気温が低い。まるでここだけ別世界だ。あちこちから茂みをガサガサと音が鳴り、その度に警戒心が掻き立てられる。
「野生のモンスターも多いだろうから、できれば森の中での野営は避けたいわね」
「方向感覚が狂うぜ。これ大丈夫なのか?」
「私が巣魔火で、ここまで歩いた足跡を残してます。いざとなれば、それを辿って戻る事は可能です。邪魔をされなければね」
「邪魔されるってどういう事? もしかしてダークエルフに?」
「この森で行方不明になる者と戻って来る者の違いは何だと思いますか? 恐らく前者は行方不明ではなく、何者かに連れ去れてると私は考えてます。理由は分かりませんけどね」
何とも意味深な事を言うリーティアだが、デックアールヴの森に入ってから約一時間。やはり想定していた事態が起きた。同じ場所を何度も回っている事に気付いたのだ。
「ここさっきも通りましたよね?」
「そうね、この派手な花は見覚えがあるわ」
「おいマジかよ! こんなテンプレみたいな迷い方があるかよ! リーティア、巣魔火を辿って一旦戻ろうぜ!」
「実はさっきからやってたんですよ。なのに同じ所をグルグルと回っています」
「え? 嘘でしょ?」
「この森、入る前から思っていましたが、やっぱりどこか変です。ちょっと待ってください」
ディメンション・ボックスを開いたリーティアは、そこからフィギアを取り出した。リーティア自作のアニメのフィギアだけど、それで何をするつもりなのか。
三人の疑問をよそにリーティアは手斧を取り出すと、一つの木の前に立って表面を削り出した。そこにフィギアを引っ掛けて、落ちないようにしっかりと固定した。
「このフィギアをここに置いておきます。では行きましょう」
「え? 何がしたいの?」
「後で分かりますよ。私の推測が正しければ」
それからまた歩き始めるが、やはり気になってリーティアを問い詰める。
「ねえ、一体何を考えてるの?」
「まだハッキリとは言えませんが、私達が同じ所を回っているのではなく、森が私達に付いて来ているような気がします。」
「え? それってどういう事なの?」
「森が付いてくるって、マジで不気味だな」
「ええ、もし私の推測が正しければ。ほら」
リーティアが指差した所には、なんとついさっき削った窪みに固定したフィギアの乗った木が生えていた。木の形はさっきと違うものの、あのフィギアを乗せた木である事は明らかだった。
「思った通りです。この森は動いています。ここに生えている木や花、草や動物に至るまで入り込んだ者を惑わすように。恐らくですが、この森は自然の森ではありません」
「じゃあ、誰かが私達を監視しているってこと?」
「ええ、おそらく」
「そんな事をするって、何か見られたくない物でもあるのかな」
「おいおい、段々きな臭くなってきたな」
ダークエルフがいると言われるデックアールヴの森だけど、リーティアが森自体が動いているのを見破った事で何者かが裏で仕組んでいる可能性が出てきた。
リーティアは常に北を指し示す魔道具を取り出し、その魔道具から一本の光が北に向かってレーザーのように伸びる。それからは林道は使わず、多くの草木が生い茂ろうが関係なく北に伸びるレーザーを頼りに、東へと歩みを進めた。
一見順調に進んでいるように思えたが、何故か再び道に迷い出す。
「あの、何かまた道に迷ってませんか?」
「おかしいですね。間違いなく東に向かっているはずなのに」
パーティの後ろにいたチビ雪とリーティアが不信に思い、二人で一旦立ち止まって巣魔火を見てから後ろを振り返り歩いてきた道を確認するが。
そのわずかな間に、前を歩いていたスノーとカールの姿がどこにもなかった。
「あ、あれ? スノーお姉さま!? カール!? どこに行ったの!?」
「チビ雪さん、落ち着いてください。これは…やられましたね。とにかく二人を探す前に、私達が離れる事を防ぎましょう」
リーティアは髪の毛を一本引き抜くと、魔力を込めて巨大化させて髪の毛はロープのようになった。それでお互いの体を結び、離れ離れにならないように固定した。




