83話 危険を冒す決断
起きた時には、お昼になっていた。昨日のパーティーで深夜遅くまで起きていた事で、完全に朝起きる事ができず。
先に寝ていたチビ雪とカールは朝には起きて、メーデのお店で寛いでいたようだ。私の方は起きてからぼんやりする頭を覚ますため、メーデからシャワーを借りる事になって体を洗っていた。
「スノーさん、着替えここに置いておくねー!」
「あ、はーい! ありがとう!」
シャワーを浴びてスッキリして、お店のある一階へと下りると何組かのお客がいて、チビ雪とカールはトランプで遊びながら昼食を食べている。
「あ、スノーお姉さま。おはようございます」
「おはよう姉御! また随分と遅くまで寝てたな!」
「おはよう二人とも、昨日というか今日の朝方近くまで起きていたから」
「ごめんねー! 私達が付き合わせちゃって!」
「気にしないでください。起きていたいから起きていたので」
すぐには旅立つはずだったリグレットなのに、今日も出発するのは難しくなった。本当に計画性がないな。
これも旅の醍醐味と言えばそうなのかもしれないけど。
「そういえば聞きましたよ。メーデさんから新しいモンスターを貰ったんですよね?」
「うん、コーヒーを美味しくしてくれたミーちゃんだよ」
「あーだから今日のコーヒーは、昨日ほどの美味さを感じれなかったのか」
「あの、蛇は苦手ですけどミーちゃん見たいです」
「俺も折角だから見せてくれ!」
二人から使役したミーちゃんを見たいと言われ、とりあえず先に昼食を頼んで食べた後に部屋に行く事にした。
流石に他の客がいる前でモンスターを召喚するのは迷惑になる。
昼食を食べ終えてから、三人で借りている部屋へと向かった。そういえばリーティアの姿が見えなかったんだけど、どこに行ってるんだろ。
「リーティアいないみたいだけど何か知ってる?」
「たぶん朝市じゃないですか。今後の食料の買い出しとか」
「食料なら、ユトグアである程度買っていたのにね」
「よく分かんないけど、デックアールヴの森を突っ切る話しが出たかららしいぜ。念のためって言ってたよ」
「ふーん、そうなんだ」
まだ通ると決めた訳じゃないけど、準備をしておくに越したことはないか。食料のことはリーティアに任せておけばいいとして、今後どうするかいい加減決めないとね。
そんな事を考えながら三人で部屋へと、早速ミーちゃんを召喚した。
「うわー!」
「うるさい! 黙れ!」
「は、はい!」
叫んだチビ雪に喝を入れるミーちゃん。相変わらず気の強い蛇だ。
「喋るんだな! この蛇!」
「お前如きに喋る事ができるのに、私が喋れないはずないだろ! シャー!」
「うお!? なんだよこの蛇!」
今度はカールを威嚇する。この気の荒さはどうにかならないのかな。
「名前は変わらずミーちゃんだよ。仲良くしてあげて」
「仲良くするにしても、ミーちゃんの方が威嚇してくるんだが」
「ちょっと気が強いだけで私が命じない限り攻撃しないわよ。たぶん」
「たぶん?」
チビ雪の不安そうに見つめる目を逸らしながら、ミーちゃんの能力を披露することにする。
「ミーちゃん、二人にも見せたいから甲冑になって」
「はあ、新たな主は蛇使いが荒いな」
少し嫌そうなミーちゃんは私の体に巻き付いて、あの時と同じように目が光り出す。徐々に体が変化して、体全体を覆う甲冑へと変化した。
「なんだよそれ! すげー!」
「わー! スノーお姉さま、カッコいいです!」
「でしょ! でしょ! ミーちゃんは私専用の甲冑になるのよ!」
実は私自身、このミーちゃんの甲冑を何気に気に入っていた。小さい時に見ていたアニメに出てくる美少女戦士も、変身アイテムを使って変身していたから。何となく自分もそれに近づけた気がして、私の中に眠る厨二心を大いにくすぐったのだ。
「いいなー姉御は、専用の剣もあって防具もあって」
「カールはまだいいじゃん! リーティアに作ってもらった武器があるんだから! 私こそ何もないです!」
二人から羨望とも嫉妬とも取れる眼差しを受け、その空気に耐え切れなくなってミーちゃんの変化を解いた。
と、そうだった。カールに私が今まで使っていた防具をあげるつもりだったんだ。
「これ良かったら使って。前にリーティアに貰ったんだけど、見ての通り私にはもうミーちゃんがいるから必要なくなって」
「マジでか! じゃあ有難く貰うよ! サンキュー姉御!」
カールは武器はあったけど、防具が無かったからこれで少しは安心だ。腕宛てと胸当て、そしてレッグガードを早速装備している。
「こいつは動きやすい! いざという時もこれで大丈夫だな!」
「無防備なところも多いんだから無茶はダメよ!」
「あー! カールばっかりズルい! 私も何か欲しいです!」
「今度リーティアに頼んで何か作ってもらいましょう。今は我慢して」
「むー、絶対ですよ!」
不貞腐れるチビ雪をなだめてから、いよいよ今後の予定を決める事にした。ユトグアを出る前に粗方計画を決めたはずなのに、すでにそれは破綻状態だ。思った以上にリグレットに滞在してしまった。
だけど収穫も大きかった。メーデに会って、ミーちゃんを使役することが出来たから。これでいざという時、私も前線で大いに剣を振れる。
さて、問題はここからだけど。デックアールヴの森を突っ切るルートか迂回して遠回りルートを進むか。
普通に考えればデックアールヴの森は回避した方がいいように思う。だけど、私の中でうずく物がある。
「ねえ、私やっぱりダークエルフを見てみたい。本当に居るのか分からないけど、だからこそ行ってみる価値があるじゃない。みんなが知ってる場所に行っても、結局それって観光と変わらないし。
何より冒険ってそういうものでしょ? 『危険を冒す』と書いて冒険だよ!」
「おお! 俺も異論はないぜ! 例えがよく分からんが、ファルシオンを試す良い機会になるかもしれないしな!」
「はあ…やれやれ、たぶんそう言うだろうなと思ってました。できれば反対したいところですけど、こういう時ばっかり頭が働くんですね」
「こういう時ばっかりって、それって普段私バカみたいじゃない!」
「今でも十分バカです!」
「ミーちゃん!」
「シャー!」
「キャーキャー!!」
ホントに一言、二言うるさいチビ雪。ミーちゃんに威嚇されたチビ雪は、悲鳴を上げながらカールの後ろに身を隠した。
「ず、ズルいですよ! ミーちゃんを使うなんて!」
「じゃあ私への言葉使いは気を付ける事ね!」
「姉御、ちょっと大人気ないぜ」
三人で騒いでいたら部屋のドアが開く。買い出しに出ていたリーティアが戻ってきたのだ。
「ただいま帰りました」
「おかえり、リーティア。次の目的地が決まったわよ」
「デックアールヴの森ですか?」
「何で分かったの!?」
「何となくです。たぶんスノー様なら、そう言うだろうなと」
私ってそんなに分かりやすいかな…。ちょっと複雑な気持ちになりながら、デックアールヴの森について巣魔火で調べるが、やはり有力な情報は全然出てこない。
一方、買い物から戻ってきたリーティアは、ミーちゃんに何やらお願いをしている。
「あなた今すぐ脱皮できるかしら?」
「やろうと思えば可能だぞ。どうするつもりだ?」
「あなたの皮膚を使って盾を作ろうと思って」
「なるほど、そういう事か。なら少し待っていろ」
するとミーちゃんは、少しずつ脱皮を始めた。
「ねえ? 盾を作ってどうするの?」
「もちろん守るためですよ。チビ雪さんをね」
「え? 私をですか?」
「じゃあその盾って、リーティアが使うために?」
「そうです。前線は二人に任せればいいですが、それだと後方にいるチビ雪さんが無防備ですからね。今の私でもチビ雪さんの盾ぐらいにはなれますよ」
話してる間に脱皮をし終えたミーちゃんの皮膚を持って、リーティアは部屋を出て行ってしまった。買い出しというのは食料もそうだけど、新しい盾を作る為の素材集めでもあったのか。
新しい盾ができ上がってくるまで、私は店の裏にある広場を借りて剣の稽古をする事にした。




