82話 新たな能力
新しいモンスターが仲間に加わったけど、この先が前途多難な気がしてしまう。
このミーちゃんがとにかく気性が荒く、私の言う事を素直に聞くかどうか不安だったからだ。
「ミーちゃんはおそらく、昔のメーデの性格をより強く引き継いでるみたいですね」
食器やグラスなどを片付けながら、リーティアが説明をしてくれた。つまり私は不良の蛇を掴まされたわけか。
自分で選んだから仕方ないんだけどさ。
「ところでミーちゃんは、どんな能力持ってるの?」
普通に考えたら、牙での毒攻撃かなと思ってしまうが。
あとは蛇だから相手に巻き付いて絞め上げるとか? でも、それだとスキアーも出来るんだよな。わざわざミーちゃんを使役したメリットはない。
「私、こう見えても毒はないからね。さっきのは冗談で言っただけで、毒牙なんて持ち合わせてないのさ!」
「ミーちゃんに毒があったら、コーヒーの隠し味の唾液使えないでしょー!」
「え? じゃあ、ただコーヒーを美味しくできるだけの蛇ってこと?」
どうしよう、どんどんミーちゃんが要らない存在になっていく。私は特段コーヒー好きでもないし、こんな気性の荒い蛇なら、ぶっちゃけ要らないかも。
巣魔火を取り出し、統魔の指輪で使役したモンスターの解除方法を検索し始めてしまった。
「スノーさん、ちゃんとミーちゃんには凄い能力があるんだよー!」
「新たな主、私を役立たずと決めつけるのは早いよ?」
「じゃあ何ができるの?」
「口で説明するより、見てもらった方が早いと思うー!」
ちょっとだけイラついた声を出してしまう。私は役立たずを引き連れるほど、お人好しではない。
いくらメーデの元蛇だったとはいえ特別扱いする気はない。
「新たな主、剣はあるか?」
一体何がしたいのか分からないけど、とりあえずリーティアからディメンション・ボックスを開いて、ミスリルソードMK-Ⅱを取り出してもらった。
「剣で一体何をするつもり?」
「それで私を斬ってみて」
「は? 何を言ってるの?」
「いいから早く」
よく分からないけど、ミスリルソードを両手で持って構える。
「本当にいいの?」
斬れと言われても躊躇してしまい、なかなか攻撃できないでいた。
「くどい! 何度も言わせるな!」
「スノーさん、大丈夫だから思いっきりやってみてー!」
「わ、分かったわ」
どうなっても私を恨まないでよと開き直り、力いっぱい振りかぶってミーちゃんに斬撃を加えた。
ガキーン!
ミスリルソードはミーちゃんの頭に直撃したが…なんと斬れるどころか、ミスリルソードの方が弾かれてしまう。
弾かれた反動で、そのままバランスを崩して、後ろに尻もちをつくように倒れ込んでしまった。
「私の皮膚は鋼鉄よりも固いのさ。その辺の剣だと、むしろ剣の方が折れるだろうね」
「スノー様のミスリルソードMK-Ⅱは、私が強化しておいたので折れなかったわけですね」
しかし、よく見るとミスリルソードMK-Ⅱに若干の刃こぼれがあった。それに対してミーちゃんは全くの無傷。
「凄い、これならミーちゃんは立派な盾になるんだね!」
「いやー、それだと勿体ないよー! ミーちゃんにはもう一つ大きな能力があってねー! むしろそっちがメインだよー!」
「そうなんですか? それってどんな能力…」
こっちが聞こうとしたのも束の間、突然ミーちゃんが途轍もない速さで私の体に巻き付いてきた。
「ちょ!? 何を!?」
振り解こうと抵抗するが、ミーちゃんは全く離れようとしない。剣で攻撃をしても全く通用しないし、完全にどうしようもなくなってしまう。
「いきなり反旗を翻すなんて、マジでふざけないでよ!」
ミーちゃんは足元から私の頭まで、完全に巻き付いてしまった。そして額のすぐ上に、ミーちゃんが頭を乗っけてきた。
「勘違いしないでよね。とにかく信じて、じっとしてて欲しい」
ミーちゃん、勘違いしないでよねの使い方間違ってる気がする。
だが、どのみち抵抗しても振り解くことはできない。
メーデとリーティアにも見守られ緊張しながらジッと待っていると、ミーちゃんの目が光り輝く。徐々に体に巻き付いたミーちゃんの体が変化していき、なんと私の体全体を覆う甲冑へとなっていった。
「な、なにこれ!? 凄いんだけど!」
「これが私の能力。蛇乃甲冑だ」
青紫色を基調として所々に黒の装飾の施された甲冑へと変化する。頭の兜は、ミーちゃんの頭のレリーフのようになっていて目が赤く輝く。
甲冑の所々には蛇の鱗に似た模様が、甲冑をより引き立てていた。
「ミーちゃんは防具として活用する事できるんだよー! 凄いでしょー!」
「青紫色の甲冑ですね。現代の青紫蛇の誕生です」
「いやいや! 私には荷が重いって!」
でも凄い。前線で戦う事になる私としては、とても心強いし有難い。しかも物理攻撃だけでなく、大抵の呪文も打ち消してしまうそうだ。
「気を付けて欲しいのは、当然装甲を上回る攻撃は防げないからねー。その甲冑はミーちゃん自身だから、過信し過ぎるとミーちゃんを失う事になるよー」
「うん、気を付ける! だけど本当にありがとう!」
「旧主よ、私はどんな攻撃も通用しないしやられはしない。あまり舐めるな!」
「こうすぐ調子に乗る所が、昔のメーデそっくりなんですよ」
「えー! 私そんな調子に乗ってたー!?」
「ええ、地平線の彼方までブイブイ言わせながら乗り回してたよ」
二人が冗談言ってる横で、試しに剣を振ってみた。こんな体全体を覆う甲冑なんて今まで着た事がない。
防御力が上がったのはいいけど、動きが鈍くなってしまったら目も当てられない。
だけど、そんな不安は杞憂に終わる。
「凄い…普段の格好と負担が変わらない気がする」
びっくりするほど剣を今まで通り振る事ができ、俊敏に動く事もできた。甲冑を着ているのを思わず忘れそうになるぐらいに軽くて動きやすい。
それでいて全然重くないし、動きも邪魔されない。これでメチャクチャ丈夫だから驚きだ。
「スノー様、カッコいいですよ。ようやく魔戦士らしくなってきましたね」
「まあ外見だけはね。実力はまだまだだから、これからも頑張らないと」
「いやー、ホントよく似合ってるよー! ミーちゃんをプレゼントした甲斐があったよー!」
「ありがとう、メーデさん。そしてミーちゃんも、これからよろしく」
「うん、よろしく。そして新たな主、私を落胆させないでくれよ」
甲冑となっても話す事はできるらしく、そのまま会話する事ができた。お互いに挨拶を交わす。
そしてミーちゃんは攻撃というよりは完全に防御特化のモンスターだから、攻撃特化のスキアーとの相性もいいかもしれない。
「それじゃあミーちゃん、元の姿に戻ってちょうだい」
「はいよー」
兜代わりになっている蛇の頭の目が光り出し、甲冑から元の蛇に戻っていった。それからミーちゃんを統魔の指輪に戻し一息ついた。
「あ、リーティアから貰った防具どうしよう。今後はミーちゃんがいるから、私にはもう必要なくなっちゃったし」
「それならカールさんにあげればいいんじゃないですか。チビ雪さんには少し大きいでしょうし」
「それもそうね。なら起きてきたらカールにプレゼントしよう」
「でももうこんな時間だよー。いやー遅くまで盛り上がっちゃったねー!」
ホントだ。気付けば夜も大分遅くなり、もう朝と夜の境目とも言える時間になっていた。今から寝ても朝に起きれる自信は正直ない。
後片付けはリーティアとメーデに任せて、流石に睡魔に猛烈に襲われた私は二階へと上がりベッドにダイブした。
――――
スノーも寝室へと上がって、店内ではリーティアとメーデの二人で後片付けをしていた。
粗方片付いたところで、メーデが手を止めグラスを二つ用意して酒を注いだ。
「子供たちは寝てしまったし、ここからは大人の時間を過ごしてもいいんじゃない?」
すでに朝方近くになっているが、リーティアとメーデの二人は飲み直しをする事にしてカウンター席に座った。
「なかなか楽しい小娘さんじゃない! あなたが気に入るのも分かるわー!」
酒を一口クイッと傾けながら、少しほろ酔い気分でメーデが話す。それに対して無言でグラスを傾けるリーティア。
「この先の事は決めてるの?」
「港町ワースに向かうつもりだけど。でもスノー様なら、恐らくデックアールヴの森を通るでしょうね」
「まあ、あの子ならそう言いかねないかもねー! でも、あそこは本当に危険な森だよ。私も詳しくは知らないけど、たぶん魔王グリテアが絡んでるからね。リーティアも力を開放しないといけないんじゃない?」
「それはないわ。私は見守るだけ、でも補助はするわよ」
少しの間、沈黙の時間が流れる。その沈黙を破ったのはメーデだった。
「ねえ、統魔の指輪は持ってる?」
「安物のなら持ってるわよ」
リーティアはディメンション・ボックスから、統魔の指輪を取り出して見せる。安物だから一体しか使役できない物になるが、まだ未使用で使役しているモンスターはいない。
「そっかー、丁度良かった! ならこの子を持って行ってよー! 私からの餞別!」
メーデは両手に魔力を集中させると、前頭部にいる黒い蛇を引っこ抜いた。
とても大人しい蛇で一切暴れる素振りも見せない。しかし不思議な雰囲気を漂わせる黒い蛇で、どこか水が流れるような透明感があり、それでいて存在感のない蛇でもあった。
「全く、貴女は昔からお節介というか本当に心配性だよね」
「私もあの子達が心配だからー!」
リーティアは統魔の指輪をかざし詠唱を開始する。
「悪魔リーティアの名において命じる。魔界の理に従い汝の主となり、そして汝を従属させる者とならん。我と契約し我が四肢の一部となれ。『フェアトラーク』」
その直後に、赤い魔法陣が黒い蛇の真上に現れる。
「あなたの名前はアビゲイル、受け入れなかったら蛇鍋にする」
「ちょっとちょっとー! そんな怖いこと言わないでよー!」
だが黒い蛇はアビゲイルの名前を受け入れ、統魔の指輪が作り出した魔法陣に吸い込まれていった。




