81話 二体目のモンスター
パーティーも宴たけなわとなり、カールは泥酔してその場で寝落ち。チビ雪も目を擦りながら二階へと上がって寝てしまった。
寝落ちしたカールは三人で支えながら、何とか二階の部屋まで持って行って床に転がした。
一階に戻ってからは、相変わらずザルのリーティアと友達のメーデはまだ呑んでいて、私の方もまだ眠くないから起きていた。
カウンター席で私の左右にリーティアとメーデの二人が座り、喫茶店からさながらバーに早変わりしているようだ。
「この調子だと、明日出発するのも怪しいわね」
「ごめんねー! 私がパーティーなんか用意しちゃったから!」
「あ、いえ。メーデさんのせいではないですよ」
「最悪デックアールヴの森を突っ切ってみますか」
デックアールヴの森は危険だから止めた方がいいとメーデに注意されたはずだけど、港町ワースまで急ぐなら森を突っ切るのもアリだと言ってきた。
「うーん、でもわざわざ危険を冒す必要もない気がするけど」
「お任せしますよ。決めるのはスノー様です」
どうするか悩んでいた時に、メーデが私が右手に付けている統魔の指輪に気付いた。
「ねえスノーさん。それって統魔の指輪だよねー? しかも三体まで使役できる特別製だと思うんだけどー!」
「あ、はい。これは旅に出る前に魔王クライドから貰った物で」
「ふーん、そうなんだー」
どうしたんだろう、私の統魔の指輪をジロジロと見ながら何かを考えている顔だ。
「今モンスターは何体使役してるー?」
「一体だけです。スキアーって名付けたアンデットモンスターだけど」
「そっかそっかー! じゃあまだ席は空いてるんだねー!」
何故かメーデが嬉しそうに手を叩いて喜ぶ。
「メーデ、一体何を考えているの?」
「えっとね! せっかくだから私の可愛い蛇を一体プレゼントしようかと思って―!」
「え!? もしかして頭の蛇ですか!?」
「そうだよー! 私の魔力の塊だから、そんじょそこらの蛇とは訳が違うよー!」
メーデの頭の蛇は切り離してしまえば、モンスターと変わらないらしいが。
それにしてもメデューサの頭の蛇を使役? この私が!?
突然の事で固まってしまう。
「メーデ、スノー様がビックリしているじゃない」
「あーごめんごめん! でも私の頭の蛇は役に立つと思うよー!」
「えっと、それなら一体頂いてもいいかしら?」
「オーケー! 好きな子を選んでー!」
いや好きな子を選べと申されましても。色が違うだけで、どれも一緒に見えるし。
少し悩んだのち決めたのは。
「あの、じゃあこのミーちゃんでいいかな?」
私が選んだのは、初めて訪れた時にコーヒーを途轍もなく美味しくしてくれたミーちゃんだった。
「ええー! まさかのミーちゃんをー!」
何で驚くの!? 好きな子選べって言ったじゃん。
「だ、ダメなら他の子でいいです」
「あははは! いいよー! 明日からコーヒーの味が落ちてしまうのは致し方ないけどー!」
そう言うとメーデは両手をかざし魔力を集中させて、頭からミーちゃんを優しく引っこ抜いた。
メーデから離れたミーちゃんは、次第に凶暴化して今にも暴れ出しそうになっている。
「私が抑えておくからやってみて! たぶん貴女には懐くはずだよー!」
「でも、もし失敗したらミーちゃんはどうなるんですか?」
「その時は残念だけど食料になっちゃうねー!」
「ええー!」
「一度切り離された蛇は、二度とメーデには戻らないんです」
「そういう事は始めに言ってよ! 私、責任重大じゃないのよ!」
心を落ち着かせるために大きく深呼吸をして、目を瞑って精神を集中させた。そして統魔の指輪を使う為の呪文を唱える。
「魔王小雪の名において命じる。魔界の理に従い汝の主となり、そして汝を従属させる者とならん。我と契約し我が四肢の一部となれ! 『フェアトラーク』!」
統魔の指輪が赤く光り出し、ミーちゃんを抱えられるメーデの頭上に赤い魔法陣が現れる。
魔法陣が現れるとメーデはミーちゃんを放して、その場から離れた。
緊張の瞬間だ。果たしてミーちゃんが私を主として受け入れてくれるのか。ミーちゃんは微動だにせず私を凝視している。
「あなたの名前は、今まで通りミーちゃんで」
「…………」
それから少し経っても、何の変化もなかった。ミーちゃんは相変わらず微動だにせずに、ジッとこっちを見据えている。
やっぱりミーちゃんは、私を主として受け入れてくれなかったのかと落胆してしまった。
だけど諦めて終わりにしようと思った、次の瞬間だった。
「はあ、全く。もっとマシな名前を付けてくれると思ってたのに」
「え? ミーちゃん今喋った!?」
「でもいいよ。貴女の専属モンスターになってあげる」
私との契約を受け入れたミーちゃんは、そのまま統魔の指輪が作り出した魔法陣に吸い込まれていった。
スキアー以来の、新しい専属モンスターが誕生した瞬間だった。
「成功した…のよね?」
「ええ、成功ですよ。おめでとうございます、スノー様」
「いやー良かったねー! ミーちゃんも食料にならずに済んだよー!」
二人が拍手をして祝福してくれる。だけどメーデが、ミーちゃんをすぐに呼び出して欲しいと言ってきた。
言われるがままミーちゃんを召喚すると、使役する前よりも少し大きくなったミーちゃんが統魔の指輪から出てきた。
一体何をするつもりなのか気になっていると。
「ねえミーちゃん。さっき名前が気に入らないって言ってたけど、それは私への当て付けかなー?」
「はあ、もう貴女は主ではないのでハッキリと言わせてもらいますけどね。
ミーちゃんなんてダサすぎ! もっとマシな名前を考えられないの!」
「あー! ダサいって言ったー! それが元主への態度かー!」
「シャー!」
ミーちゃんが威嚇した。
「ギシャー!」
それに応えるようにメーデも威嚇し返した。
突然メーデは、元は頭の蛇だったミーちゃんと喧嘩を始めてしまい、二人して奇声を上げてお互いを威嚇し合ってる。
これって要は、自分の髪の毛と喧嘩をしていると思うと、何ともシュールな光景に映ってしまった。
「よしなさい、このバカが」
「いたー!」
リーティアがゲンコツをしてメーデを止めた。
しかしミーちゃんという名前が気に入らないというのであれば、気に入る名前に変更してもいい気がする。
「えっと、名前が気に入らなかったら変えてもいいよ?」
「スノー様、それは無理です。一度統魔の指輪で使役してしまうと、名前の変更は不可になります」
「え、そうなの!?」
「本当に魔王だよねー? それぐらい知らないのー?」
「…も、もちろん知ってるわよ! ちょっと冗談言っただけで!」
「私もしかして主を間違えたかな」
「わー! ミーちゃん待って! 使役して数分で見限らないでー!」
そういった知識は全てチビ雪に任せていたツケが回ってきた。
つまりはミーちゃんは、名前が気に入らないにも拘わらず、私を主に選んでくれたという事だ。
「ミーちゃん、ありがとう。私を主として選んでくれて」
「ぶっちゃけ言うと、気に入らなかったら私の毒牙で何時でも貴女の首に噛み付くよ? 覚悟しておいてね!」
「ネー! ミーちゃんめっちゃ怖いんだけどー! メーデに返してもいいかなー!」
「それは無理だよー! 精々ミーちゃんに認められるように頑張れー!」
「安心してください。統魔の指輪で使役されたモンスターは主が死ぬと自分も死ぬので、恐らく二日か三日ほど寝込ます程度の毒に抑えてくれますよ」
リーティアがフォローしてくれるが、それは何のフォローにもなっていない。結局は私に牙を剥く事に変わりはないじゃん。
「スノー様を毒牙にかける事は我が許さん」
「先輩面するなよ、シャー!」
今度はスキアーとミーちゃんが喧嘩を始めてしまう。もう好きにしておくれ。
久しぶりにモンスターの仲間ができたけど、ミーちゃんを使役してしまった事を少し後悔しながら、宴は完全にお開きとなった。




