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8話 機長の娘

最近、自習のため帰って来るのが遅かったチビ雪が、今日はすぐに帰って来た。


その理由は、すぐに分かる事になる。


奈美先生が私と会う事を、承諾してくれた事を報告する為だ。


だが奈美先生は、一度私と会う事を断っている。

堅造から連絡があり、断れたと報告してきたからだ。


だからチビ雪から承諾の話しを聞いた時は、正直意味が分からなかった。


「奈美先生って気まぐれな人なの?」


当然、気になってチビ雪に聞いてみる。


するとチビ雪が、奈美先生が堅造の依頼を断った本当の理由を話してくれた。


「奈美先生は小雪様と会うなら、一対一で話したかったそうです。堅造くんの依頼を受けてしまうと、魔王の側近達も来てしまうからと」


なるほど、それは私としても都合が良かったかもしれない。

同じく個人的に会いたいと思っていたから。


ん?


でも私と一対一で会いたいとは、どういう事なのかな。


向こうは私の事は知っててもおかしくないけど、だからと言って特別に会いたいと思う相手でもないはず。

私の方だって、京助校長から話しを聞くまでは会おうと思う事もなかった。


「あと会うなら魔導士学校で会いましょうと。それが条件らしいです」


ますます分からない。

でも向こうがそう言うなら、今はとりあえず従うしかない。


あれ、魔王が一般の魔族に従うっておかしくない?


やっぱり私って、つくづく魔王に向いてないな……。


「わかったわ、会える日程は調整しましょう。あと、この事は堅造にも内緒にしておいた方が良さそうね」


「そうですね。個人的に会うとなれば、内密にした方が動きやすいと思います」



――数日後



奈美先生との都合が着いたので、今私は魔導士学校にいる。

こっそり入って、チビ雪に促されて、魔導士学校の誰も使ってない部屋で一人待機させられている。


ただし、これは非公式で会うもの。

いつものように魔王専用車を使って行く事は出来なかった。


じゃあどうやって、ここまで来たか。

当然歩くか、一般の交通機関を使うしかない。


魔王とバレないように帽子やサングラスをかけて変装をして、マンションの外へと出た。


久しぶりに魔王としてではなく、一般の魔界人として外を歩ける。

実はちょっとだけテンションが上がっていた。


魔導士学校はマノスヒルズから、南西に車で約一時間の距離。


そこから、どうやって移動してきたのか。


そうさ、その距離を歩いたのさ。

魔王小雪は自分の街と言ってもいい、ガーデン・マノスを歩いたのさ。


本来なら、強大な魔力を持つはずの魔王は呪文でテレポートも容易い?

それこそ魔王が操る居城で簡単に移動できる?


何言ってるのか、これが現代魔王というものだよ。

魔王は何でも出来る、万能な存在では最早ないのだよ。


そんな時代は当の昔に終わっているのさ。


「それにしても疲れた…、剣の稽古は欠かさずやってるけど、これだけ歩いたのは久しぶり…」


長時間も歩き続けた事で、実はもう息を切らしてる。

学校に着くまでに約二時間半。


さらに、この魔導士学校自体がメチャクチャ広い。

学校の敷地内だけで、小規模な町が出来るぐらいあるんじゃないだろうか。


校舎は石造りで、外壁はクリーム色、屋根は青く塗られたお洒落な見た目。

中央の一番高い塔が立つ建物を中心に広がり、学校の形は日本語の「円」という文字に近い形をしてる。

ハッキリ言って、学校というより城だ。


だから余計に迷って、学校内を歩きまくった。


もう疲れ切ってしまって、チビ雪が用意してくれた水を飲みながら一休みしている。

このまま寝てしまいそうだ。

いつの間にか、ウトウトとしてしまっていた時だった。


小さくノックする音が響く。


「魔王小雪様、お待たせして大変申し訳ございません。私がチビ雪ちゃんの担任、奈美と申します」


そう言って入ってきた、大人の雰囲気を存分に漂わせる女性、奈美先生が入って深々とお辞儀をした。


睡魔に襲われていて反応が遅れてしまったけど、慌てて立ち上がって挨拶を返す。


「はじめまして、小雪といいます。いつもチビ雪がお世話になっております。」


この人が機長という人の娘、そしてチビ雪の担任の先生。

なんか緊張してきてしまった。

色々話しを聞きたいと思っていたけど、どう話したらいいか思考が目まぐるしく動く。


私の状況を察したのか、奈美先生がクスっと微笑み、ソファーに座るように促してきた。


「魔王小雪様、立場は私の方が遥かに下なので、あまり緊張なさらず」


恥ずかしい…全て見透かされてるようだ。

でも一つだけ注文したい事があった。


「奈美さん、私の事は小雪で大丈夫です。魔王は付けないでください!」


「それは失礼しました、小雪様。そして本来なら私が出向かなければいけない所、魔導士学校まで御足労頂いてありがとうございます」


堅苦しい挨拶が続いたが、ようやく落ち着いて話しが始まった。


まず気になるのが、なぜ私と一対一で会いたがったのか。

そして、なぜ魔導士学校でだったのかだけど。


こっちが話す前に、先に奈美さんの方から話してきた。


「小雪様が私に会いたがっていると聞いて驚きました。おそらくですが、芹沢さんから聞いたのですか?」


芹沢―京助校長の事か。

予想はしていたけど、やはり奈美先生も知り合いだった。


「はい、京助校長から奈美さんの事を聞きました。賢人の箱舟を動かしてた機長という人の娘だと聞いて」


私の返答を聞いた奈美さんが、照れくさそうに右頬を掻く。


「私の父が賢人の箱舟の機長だった事は、なるべく伏せているんです。話すと変に英雄扱いされたり拝まれたりして、居心地が悪くなるので」


なるほど、だからチビ雪も知らなかったんだ。

私も魔王という立場だから、なんとなく奈美さんの気持ちは分かる気がする。


その上で奈美さんの知ってる事は、京助校長の話した事とほぼ変わらないと言われた。


「でも私の父上は…」


一番伝えたい機長への感謝。


その素直な気持ちを伝えようと思った時、奈美さんが自分の口に人差し指を立て、それ以上言わなくていい! という仕草を送ってきた。


「確かに大事故にならなかったのは、私の父の功績かもしませんし私も父を尊敬してます。だけど私達が今を生きてるのは、父だけのおかげではありません。小雪様の御父君、マサオ様がいなければ、この街もなかったはずです。

本当に私たちは、色々な人や魔族によって今を生きているんだと思います」


奈美さんは私に諭すように、目をジッと合わせて話してくる。

何故だろう。

この人には、絶対逆らえないという感情が働く。


決して怖いからというものではない。

言うなれば「憧れ」

これに近いかもしれない。


初めて、私はこうなりたいと思う人を目の前にしている気がする。

初対面なのに、何でそう思うのか正直分からなかった。


ここで奈美さんは話題を変える。


「私の父の話しはこれぐらいにして本題に入りましょう。小雪様も気になってたのではないですか? 私が個人的に会いたがった事に」


確かにずっと気になってたこと。

個人的に会いたいというのは、奈美さんの方は私に興味が有ったという事なのか?


それは魔王という立場の私に会いたかったからなのか、正直なところ最初はそう思った。

だけど奈美さんに実際に会ってから、絶対そんな事で興味を持つ人ではないと今ならハッキリ言える。


頭の中で推測する中、奈美さんの次の一言が想像を遥かに超えるものだった。


「小雪様、私は亡き母君からあなた様をサポートする様に頼まれていました」


この一言で、私の思考は完全に停止する事になる。

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