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79話 鴨が葱を背負って

「参ったな、もうこんな時間」


リーティアとメーデの昔ばなしで盛り上がって、気付けば何時間もいてしまった。


メーデが作ってくれた大量のサンドウィッチのおかげで、お昼ごろになってもお腹は空いてはいないが。


「どうしますか? もう出発します?」


「うーん、そうね。でも魔動車があるとはいえ、今から出発しても野宿の可能性高くなるよね」


「そうですね。厄介なのはデックアールヴの森は魔動車では通れない事です。かなり迂回していく必要があるので、今からだと主要な街に辿り着く前に深夜になるかと」


どうやらデックアールヴの森は、魔動列車どころか街道すら整備されてないらしい。


「なら、いっそのことデックアールヴの森を歩いて突っ切るってのは?」


「あー、それは止めた方がいいですよー!」


カールの提案にメーデが反対してきた。デックアールヴの森はダークエルフがいる森と言われているが、実際に森に入って帰って来なくなった者が後を絶たないという。


「それってダークエルフが原因なのかな?」


「ハッキリとは分からないなー、なにせ入り込んだ者は全然帰って来ないからー!」


「今まで誰一人として帰って来てないんですか?」


「いるにはいるけど、証言が曖昧なんだよねー。気付いたらリグレットの街に戻ってたとか、黄色い霧が出てきてからの記憶がないとか」


「黄色い霧だって? 普通は白いだろ」


「私に言われても分かんないよー!」


メーデの話しを聞く限りでは、デックアールヴの森は近付かない方がよさそうだ。もし本当にいるならダークエルフを見てみたい気もするけど、そんな事の為にわざわざ危険を冒す事もない。


「もうさ、今日はリグレットに泊まっていきなよー! 私の家を貸してあげるからさー!」


「そうね、急ぐ事もないしお言葉に甘えましょうか」


「はい、私もそれでいいと思います」


「俺も異論はないぜ!」


「じゃあメーデさん、一応四人分の宿賃払います。一人一万ミラでいいかしら?」


「そんないいのにー、でもここは有難く!」


財布から四万ミラを取り出して、メーデに手渡した。


そして折角だから、リグレットの町をもう少し散策する事にする。


「ご馳走様でした。また後で」


「はーい! 気を付けてねー!」


店の前で元気いっぱいに手を振って見送ってくれる。リーティアとは正反対で、本当に元気のいい子だ。


いや、私より遥かに年上だし、子って言い方は失礼かな。


その後はリグレットの中心地である、噴水のある広場へと出た。噴水を中心に円を描くように作られた広場からは、東西南北に延びる道が整備されてる。


田舎町とはいえ、噴水広場はそれなりに賑わいを見せていた。


「昨日は深夜だったから毒づいてしまったけど、こうやって明るい時に見ると凄く良い町ね」


「本当ですね! ガーデン・マノスにある公園を思い出します!」


「魔族の賑わいも丁度いいし、時間の流れがゆったりとした町だよな」


思わず三人で日向ぼっこをするように、噴水の近くに腰掛けた。


「朝市行くんじゃなかったですか? もうじき閉まりますよ」


「あ! そうだった! すっかり忘れてた!」


すでにお昼前、リーティアに言われて慌てて朝市の方へと向かった。


到着した頃には、当然ながら半分ほどの露店は閉店しており。


まだ開いてる露店だけを見て回る事になった。


「お嬢さんたち! 良かったらうちの店で買ってかない? いい肉があるよ!」


まだやっている露店のおばちゃんが話し掛けてくる。売っているのは、リグレット周辺で取れるコカトリスの肉だそう。


十キロで三千ミラか、確かに安いと思うし買おうか悩んでいたら。


「三千ミラは高過ぎます。千ミラにしてください」


「ちょっとちょっと! いくらなんでも値切り過ぎだよ! 二千八百ミラでどうだい?」


「ダメです、千二百です」


なんと隣から割り込んできたリーティアが、おばちゃんと値段交渉し始めた。


私としては三千ミラでも全然良かったと思ったんだけど。


「二千五百だよ! これ以上は譲れないよ!」


「私も千五百までしか出せません」


「ねえリーティア、別にそこまで値切らなくてもいいじゃん。二千五百でも十分じゃない」


「いや、俺も千五百が限度だな。それ以上はボッタくりだ!」


まさかのカールまでもが参戦。しかも、とんでもない発言まで飛び出してしまって、店のおばちゃんは顔が真っ赤になっている。


「アンタら! いい加減にしなさいよ! こっちが下手に出ていれば付け上がって!」


「そっちこそ俺達をカモろうとしておいて何言ってんだ! こんな鮮度も落ちた、しかも老いて卵も産めなくなったコカトリスの肉を、十キロで三千ミラで売りつけようなんてな!」


「そうです、卵が産めなくなった老いたコカトリスの肉は百グラムで三ミラが相場。つまり十キロで三百ミラが妥当です」


「い、言い掛かりだよ! これは紛れもなく若いコカトリスの肉だよ! そんなに気に入らないなら他を当たっておくれ」


「おいおい、吹っ掛けてきたのはそっちだろ? それでも五倍の千五百ミラで買い取ってやるって言ってたのに、そっちが欲を出して妥協しなかったんじゃないか」


カールとリーティアが完全におばちゃんを黙らせてしまった。


もう止めに入りたいけど、出来ればあんまり巻き込まれたくない感情もあり、チビ雪と二人で事の成り行きを見守っていた。


「はあ、アンタらやるじゃないか。一体どこで老いたコカトリスの肉だって気付いたんだい?」


しばらく睨み合った後、おばちゃんの方が折れて質問をしてきた。


「簡単だよ。若いコカトリスの肉は、もっと赤みがあって脂身も少ない。

だが、こいつはやけに綺麗なピンク色をしてる。これは自然のコカトリスの肉の色じゃない。老いたコカトリスの肉は赤紫色に変色してくるから、大方それを誤魔化す為の添付剤が塗られてる。脂の臭みもするしな」


「それに朝から店を出しているのにも関わらず、未だに変色しないのも不自然ですし」


「いやはや、そこまで見破られてたとはね。声を掛ける相手を間違ったよ。ちょっと待ちな。お詫びにちゃんとした若いコカトリスの肉を出してあげるよ」


完敗したおばちゃんは、後ろに置いてあるボックスを開けた。中には冷気の魔力が篭った魔石が置かれていて、そこから大きな凍ったままのコカトリスの肉を取り出してきた。


「正真正銘、若いコカトリスの肉十キロだよ! アンタ達の希望価格の千五百ミラでいいよ!」


「え? いいのか! じゃあ有難くもらうぜ!」


「では千五百ミラです」


リーティアが財布からお金を取り出して支払い、カールがコカトリスの肉を受け取った。


「毎度あり!」


ひと悶着はあったけど、とりあえずコカトリスの肉を無事買う事ができた。


「良かったね、安く買う事ができて!」


「ん? 姉御は何言ってるんだ?」


「え? だから若いコカトリスの肉を安く買う事ができて良かったねって」


「スノー様、これは正規の値段ですよ。若いコカトリスの肉でも百グラムで十五ミラが相場です。

だから私は最初から千五百ミラを超える金額は出せないと言っていたんです。少しは世間の事を知らなければいいカモですよ」


「そ、そうだったのー!?」


「スノーお姉さま一人だと確実にカモられてましたね」


リーティアとカールのおかげで私はカモられずに済み、そしてその光景を見ていた他の露店たちも慌てて店仕舞いをし始めた。


なるほど、お昼近くまで残っていた露店は、私みたいな世間知らずをターゲットにボッタくるつもりでまだやっていたのか。


世間の厳しさを改めて痛感しリグレットの町を観光して、夕方が近付いてきたところでメーデのいる喫茶ゴルゴンへと戻ったのだった。

最後までお読みいただきありがとうございます!


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