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78話 消し去りたい黒歴史

メデューサこと、メーデの作るサンドウィッチやコーヒーは絶品だった。お店自体もクラシックなお洒落な喫茶店だ。


なのに何で客足が少ないのかと思っていたけど。


最初は時間が早いからかと思っていたが、すぐにそうじゃない事が分かり。


「あ、いらっしゃいませー!」


「うわ! し、失礼しましたー!」


私達の後に三組ほど客が入ってきたのだが、メーデを見るや否や頭の蛇に驚いて逃げて行ってしまった。


「あ! お客さん待ってー! ……はあ、また私を見ると逃げて行っちゃったー」


うん、そりゃそうでしょうね。頭に生きた蛇を大量に乗せた店主が、いきなり出て来たら誰だって驚くもの。


地元民ならメーデを理解してくれる者も少しずつ増えてきてるそうだけど、リグレットの外から来た者達はあっという間に逃げてしまうらしい。


「メーデ、貴女は接客業に向いてないから廃業したら」


「ちょっとリーティア、それ酷くないー!」


完全にお前が言うなというブーメランがリーティアに突き刺さっている。それにしても、ここまでリーティアが砕けて話してるのも初めて見るかも。


「二人とも凄く仲が良いみたいだけど差し支えなかったら、どんな関係だったか聞いてもいい?」


「あ、私も気になります!」


「リーティアが、ここまで辛辣に冗談言うのも珍しいもんな!」


「そんなに面白いことはないですよ」


リーティアは気乗りしないという感じだったけど、メーデの方はノリノリで話してくれる。


「別に減るもんじゃないしいいじゃん! 私もコーヒー淹れてくるねー!」


「仕事しなさいよ」


嫌そうなリーティアの静止も聞かず、私達のコーヒーのおかわりを持って来てくれた後、メーデは椅子を持って来て一緒のテーブルに着いた。


「あれって何時だったっけ? リーティアがまだ随分荒れてた頃だったよねー」


「え? 荒れてたって、どんな感じだったの?」


「三人ともリーティアの正体知らない?」


「それは知っています。かつて魔界の覇権を争ってた、あの大悪魔リーティアだった事は」


「なら話しが早い! 私とリーティアが出会ったのも、それぐらいだったよねー!」


「ちょ、ちょっとメーデ! 余計な事を言わないで!」


必死に止めようとするリーティアだけど、その反応を見てメーデは面白いと思ったのか笑いながら話し出す。


「今でこそ、こんな感じで大人しくなってるけど。当時のリーティアは、それはそれはもう大変だったんだから! すぐキレるし暴れるし、一度暴れ出すと手が付けられない程の荒くれ悪魔だったわー!」


「そ、そうだったの…?」


「あ、あれは昔の事です! 若気の至りというやつです!」


「街を歩いてても、その辺の魔族と目が合うと『テメェ、何メンチ切ってんだ? ああ? コラァ!』ってすぐ突っかかっていって、私も止めるの大変だったよー!」


「ええー!? 想像できないです!!」


「マジか…こえー…」


そう言えばリーティアは以前、少しだけ昔ばなしを聞かせてくれた時に、自分には従う勢力が無かったから魔王の肩書はないって言ってたけど。


メーデの話しを聞くと、ただ面倒だったからだけじゃなくて当時のリーティア自身が相当な問題児で、誰も付いてこれなかったという事なのかも。


でも本当、今のリーティアからは想像もつかない…。


「あまりにヤバい時は、私は道行く魔族を石に変えて守ってから、リーティアを誰もいない場所に移動させる事もあったなー」


「守るために石に変えるって…本来は、相手を倒すためにやる事だよね」


「め、メーデ! コーヒーおかわりいいかな! もうこの話しは終わり!」


リーティアが慌てて話しを終わらせようとする。だけど、ここまで聞いたら気になるし、まだまだ聞きたいのが本音。


「ええー! 私まだ聞きたいです!」


「俺も聞きたい!」


「あん?」


「「ひぃ!?」」


話しを聞きたいというチビ雪とカールに対して、リーティアがまるで昔に戻ったかのような鋭い視線とドスの利かした声を出した。


蛇に睨まれた蛙の如く、カールもチビ雪も固まってしまう。


「こらリーティア! そういう事したらダメだって言ってるでしょ!」


「そうよリーティア、カールはともかくチビ雪ちゃんを怖がらせないで」


「何で俺はともかくなんだよ!」


「はい、申し訳ありません。スノー様」


少し気まずい空気となってしまったので、一旦メーデが立ち上がってスイーツを持って来てくれた。


なんと奢りだからタダでいいという。


「リーティアからしたら話されたくない話しもあるんだろうし、これ以上は止めておきましょうか」


「話されたくないというか、消し去りたい黒歴史というか…」


「あ、それならメーデさんはどんな感じだったんですか?」


チビ雪が話しをメーデの昔話に変えた。するとメーデは、巣魔火スマホを取り出して昔の画像を見せてくれた。


「今は便利な時代だよねー、昔の写真もこれ一つに保存しておけるし! あ、これが私だよ! やっぱり今よりも若いなー!」


そこに写っていたのは、背景が真っ赤に燃えている街の真ん中で、本来の姿のリーティアとメーデの二人で写っている写真だった。


「ほら見て! この時のリーティア、めっちゃくちゃ眼つき悪いでしょー!」


「貴女も他人のこと言えないでしょうが!」


確かにその通りだ。二人とも何と言うか、今とは眼つきが全然違って、めっちゃくちゃオラオラ系の女子という感じ。


リーティアは腕組してゴミ虫を見下すような目でいるし、メーデの方は大きな鎌を右肩にかけて、もう片手には石にしたであろう魔族の頭を鷲掴みにして舌を出して笑いながら写ってる。


もう完全に二人とも不良な見た目で怖すぎ。もし今もこうだったら、絶対近付かなかったと思う。


「私、今後は言葉使いを気を付けます」


「チビ雪さん、そういう気を遣わなくていいですから! だから私は過去を言いたくなかったんですよ!」


「いや、チビ雪ちゃんの気持ちは分かる。俺も気を付けないと」


「ねえ、それよりも気になったのが後ろの背景なんだけど。これって街が燃えてるよね?」


二人の意外な姿に誰もツッコまなかったけど、明らかに後ろの背景がおかしい。


「あー、これ私とリーティアで街を潰した時のだよ! どこだったかなー」


「二人だけでですか!?」


「ええ、確かグリテアの生まれた街を二人で潰したんですよ」


「あ! そうそう、私達に喧嘩を売ってきたグリテアの若造に焼きを入れに行ったんだよねー!」


「焼きを入れに行ったというか、焼いてますよねこれ」


これが五百年以上前に魔界が三つの勢力に分かれていた時の時代だったのか。本当に今の時代に生まれて良かったと心から思える。


「でも、この後が大変だったんだよねー。怒ったグリテアがクライドと一時的に手を組んで」


「そうでしたね。結果的に私達は追い込まれて西大陸に逃げ込みました。今となっては懐かしい話しです」


「西大陸って、ディア教団という胡散臭い組織が牛耳ってるところね。当時からあったの?」


「いえ、その時の西大陸は発見されて間もなかったのもあって未開の地というか。それに、ほぼ砂漠しかないような荒れた大地だったので、原住民ぐらいしかいなかったんですよ」


「そうだったねー、私とリーティアが初めて西大陸全土を制圧したんだよねー!」


たった二人で西大陸を制圧したって、本当にとんでもない二人だな。


「特にリーティアが西大陸の原住民から絶大な人気を得てねー! 途中から神格化されてしまったんだよね!」


「ええ…あれは本当に面倒でした。全然似てない石像は立てられるし、私を祀る変な教団はできるし」


「リーティア普通に美人だけど、あの時の全てを見下すようなリーティアの言動とクールな見た目が、原住民を完全に虜にしてしまってたよねー!」


ケラケラと笑いながらメーデは昔ばなしに華を咲かせ、リーティアの方もだんだん懐かしくなってきたのか話しに乗って来るようになっていた。


「大変だったんですね。何だかリーティアが遠くに行ってしまった感じです」


「ああ、俺達とは住む世界が違うというか」


「ん? あれ? 変な教団できたって言ったけど、もしかしてそれって」


「はい、今のディア教団です」


マジですか、今や神話になっている大魔王ディアメデスを信仰する教団だって聞いてたのに。その元はリーティアだったなんて。


「今はディア教団って言ってるけど、元はティア教団だよ! リーティアを崇めていたからティア教団ね!」


「そうだったんですか!?」


「今のディア教団は、大悪魔リーティアがディアメデスの生まれ変わりだと本気で考えているからね! 今もリーティアの帰還を待っているんだよー!」


「ああ…本当に止めて欲しい…」


「もしかして、魔界の表舞台から消えたのって、それが原因?」


「ええ、奉られるのに耐えられなくて逃げました。西大陸の住民は、何度も脅して本当に町を焼き払っても、何故かみんな歓喜して笑顔で讃えてくるから気持ち悪くて」


「そ、そうなんだ。確かにそれはキモイわね」


「あの時のリーティアの怖がりようったら傍から見てたら面白かったなー!」


二人の楽しい昔ばなしを聞きながらコーヒーを頂いていたら、気付けばお昼近くになってしまっていた。


完全に出発する時間を逸脱してしまった。

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