77話 唯一の友達
リグレットにある、リーティアの友達が経営しているという喫茶店。
そこは以前リーティアがご馳走してくれた、新鮮な頭の蛇を提供してくれるというメデューサが経営している喫茶店だった。
「いらっしゃいませ、あ! リーティアじゃん! おひさー!」
「ええ、久しぶり。相変わらず元気そうで何より」
店に入った途端、リーティアが店主のメデューサと挨拶を交わす。
それを横目に、目を瞑ったままの私達が店に入る。
「もしかしてリーティアの友達? アンタみたいな根暗に友達ができるって意外ー!」
「そして相変わらずウザいわね。次言ったらボコるよ」
「はいはい! そこのお友達さん! 目を瞑らなくても石にならないから大丈夫ですよー!」
そう言われて恐る恐る目を開けた。目に飛び込んできたのは、顔は絶世の美女とも言える顔立ちの女性。
真っ黒な化粧をした唇に黒い水晶体の瞳で、薄っすらと笑顔で私達を出迎えている。
だけど頭には無数の様々な色をした蛇が、私達を威嚇するように動いていた。
「ひぃ! 私ちょっと蛇がダメなんです!」
チビ雪がオロオロとしているが、好きな席に座るように言われて出入り口に一番近い席に座る。
そしてメデューサは、全員分の水を持ってテーブルに近付いてきた。
「うわー! その蛇噛まないですよね!?」
「大丈夫だよー! 私が命令しない限り、絶対に攻撃しないから!」
「チビ雪ちゃん、あなた平気で蛇鍋食べていたくせに、生きてる蛇ダメなの?」
「それとこれとは話しが別です!」
チビ雪が一人騒ぐ中、メデューサが全員の前に水を置いた。
そして、とりあえず三人はコーヒーを頼み、チビ雪はジュースを頼む。
客は私達以外は誰もおらず、完全に貸し切り状態だ。
「紹介します。私の友達のメデューサです」
「よく種族名と混同されがちなんだけど、メデューサが私の名前ですからねー! よろしくお願いしまーす!」
キャピキャピした喋り口調で、リーティアとは対照的にやたら明るい。
それにリーティアとも随分砕けて話してる所を見ると、付き合いも相当長いのかもしれない。
「はじめまして、私はスノーです。この子が妹のチビ雪、それでこっちが」
「カールって言うんだ! よろしく!」
「メデューサだと呼び辛いと思うので、彼女の事は今後アバズレと呼んでやってください」
「友達に対して、何て酷いこと言うのー! そんな事言うなら、もう新鮮な蛇分けてあげないからね!」
リーティアが毒の篭った言葉を吐き捨てると、メデューサの方も負けじと言い返す。一見、仲が悪いと思ってしまいそうだけど、むしろ仲がいいからこそ言い合えるのかもしれない。
「でもメデューサと呼ぶのは言い辛いのは間違いではないと思うから、私のことはメーデと呼んでねー!」
「あ、はい」
最初は、どんなおどろおどろしい感じなのかと思っていたけど、想像に反して凄く明るくて笑顔の絶えない女性だ。
「メーデ、お腹も空いてるので何か作ってきて」
「もうリーティア、少しは物の頼み方を知らないのー! とりあえずサンドウィッチでいいかなー?」
「私はそれでいいです」
「はい、私もサンドウィッチで」
「異論はないぜ!」
こうしてメデューサが全員分のサンドウィッチを作ってくれる事になったが、リーティアはまだメデューサに絡む。
「どうせ暇だからいいじゃない。仕事を与えてあげたんだから」
「じゃあアンタのだけは、具を少なめにしてやるー!」
あっかんべーしながら、メデューサは奥のキッチンへと引っ込んでいった。
私達と話す時と明らかに違うリーティアに、三人共ポカンとした表情になってる。
「お見苦しい所を見せてしまいましたね。あの子といると、ついはっちゃけてしまって」
「うんまあ、仲のいい友達とだと、そうなっても仕方ないんじゃないかな」
「メーデさんとは、結構長い付き合いなの?」
「そうですね、昔は唯一私が心許せた友達だったかもしれないです」
何だか少し嬉しそうに話しながら、リーティアはコーヒーを啜った。
「リーティアがタメ口で話すなんて珍しいもんな」
「でも私が初対面で会った時は、普通にタメ口だった気がするんだけど」
「何故でしょうね、なぜかスノー様には初めて見た時から心を許せたんですよ」
それを聞いてちょっと頬を赤くしてしまう。カールとチビ雪が赤くなった顔を見て笑ってきたので、照れ隠しのようにコーヒーを啜った。
「このコーヒー美味しい!」
「そうでしょう? メーデの淹れるコーヒーは格別なんですよ」
「へー、なんでこんなに美味いんだ?」
「それはですね、私の頭の蛇のミーちゃんの唾液が隠し味として入っているからですよー!」
奥からメーデの声が響き、少ししてからキッチンから大きなお皿に大量に乗ったサンドウィッチを持って出てきた。
そのまま近付いて来て、サンドウィッチの乗ったお皿をテーブルの真ん中に置いた。
あまりの量の多さに驚きながら、聞き間違いでなければ気になるセリフがあったので改めて聞き返す。
「あの、頭の蛇のミーちゃんって」
「あー、この子ですよー! 可愛いでしょう!」
「キャー!!」
コーヒーの隠し味の唾液を出すという蛇のミーちゃんは、メーデの右耳付近にいる全体が青紫色で、頭や体の一部に黒色の模様がある蛇だった。
メーデの呼びかけに、シャーっと舌と声を出しながらこっちに向かって伸びてきた。
蛇が苦手なチビ雪が、堪らず椅子の上に乗っかって恐怖に打ちひしがれる。
「おっと、ごめんねー! ミーちゃん、こっちにおいでー!」
「蛇の唾液が隠し味で入ってるのか…?」
「そう! ミーちゃんの唾液を入れるとコーヒーに深みが出てまろやかになるんですよー!」
本当なら、ふざけるな!と言いたいところだけど、リーティアの友達というし何か怖いから止めておいた。
それに、このコーヒーが凄く美味しいのは事実だったし。
「それじゃあサンドウィッチもいただきます」
「いただきます」
「どんどん食べてねー! まだ一杯あるから!」
「いや、そんなに食えねぇよ!」
サービス精神が物凄く旺盛なメーデだが、お皿にあるサンドイッチだけでも食べ切るのは無理なぐらいの量だった。
「メーデ、残った分は持ち帰るから容器をちょうだい」
「しょうがないなー! ならキッチンにある分も包んでおくねー!」
これだけ大量のサンドウィッチにも関わらず、料金は一人四百ミラでいいという。
つまり四人で計千六百ミラという格安の値段だ。
「久しぶりにリーティアが訪ねて来たから、私もテンションが上がって作り過ぎちゃってー!」
「でもこのサンドウィッチも凄く美味しい!」
「ああ! こんな美味いサンドイッチは初めてだ!」
「私レシピ教えて欲しいかも!」
「ならチビ雪ちゃん、後でレシピ教えるからキッチンにいらっしゃいー!」
「わー! ありがとうございます!」
頭の蛇鍋も美味しかったけど、メーデの作るコーヒーもサンドウィッチも本当に絶品だった。
食べ切れないと思っていたお皿のサンドウィッチだったけど、結局は四人で全部平らげてしまう事になる。
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