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76話 メデューサの喫茶店へ

夜遅くに着いたリグレットの町で、ようやく宿を見つけて泊まれたのは良かったものの。


部屋は掃除が行き届いておらず、壁のあちこちには穴が開いている始末。ベッドも一つしかなく、私とチビ雪で小さいシングルベッドを使い、カールはシュラフで床に雑魚寝した。


虫も入り放題で、はっきり言ってこれなら野宿した方がマシだったぐらい。


「おはよう、全然寝付けなかったわ」


「スノーお姉さま、おはようございます。私も何度も起きてしまって」


「二人はまだいいじゃないか! 俺なんて床だったから体が痛くて堪らないんだぞ!」


朝起きてから、みんな宿への不満が噴出してしまった。


しかも素泊まりで一人五千ミラと、ヴィントナーで泊まったミントさんのボロ宿よりも高い。あっちはボロ宿とはいえ掃除は行き届いていたし、ミントさんが毎朝作ってくれる朝食込みで三千ミラだった。


そう思うと、凄く良い宿屋だったんだなと思わされる。


「早く出ましょう。こんな宿屋」


「はい、私も賛成です」


「では私がチェックアウトしてきましょう」


リーティアがフロントへと向かい、私たちは出発の準備を始める。


出発の準備が整い、しばらくしてリーティアが戻ってきた。


「それでは行きましょう。港町ワースまでは、ここからでもまだまだ掛かります」


「そうだったわ、ここから歩きなのよね」


「スノーお姉さま、いっそのこと魔動車でも買いませんか」


「いや流石に車を買うのはどうなんだろ」


「いいんじゃねぇか? カジノの金がまだ残ってるだろ」


みんな魔動列車を使ったことで、すっかり歩くことが億劫になってしまってる。


できれば私も魔動車を使えるものなら使いたい。


そんなことを話しながらボロ宿を出たとき、リーティアが思いがけない事を言ってきた。


「そんなに魔動車を使いたいんなら、ディメンション・ボックスから出しましょうか?」


「ええ、じゃあお願い……え? 今なんて言いました?」


聞き間違いかと思って、思わず聞き返してしまう。


「ですから魔動車をディメンション・ボックスから出しましょうかって」


「魔動車を持ってたの!?」


「はい、今の時代で魔動車を持ってないなんて有り得ませんから」


「なんで持ってたのに言わなかったの!?」


「チビ雪ちゃんの言うとおりだ! それに俺の村じゃ魔動車は数人しか持ってなかったぞ!」


「誰にも聞かれなかったので。それに魔動車は使わないようにと、てっきり制限してるのかと」


いやいや、いつもは何でもお見通しのリーティアが、こんな時ばっかりどうして察しが悪いの。


「じゃあ魔動車をお願い。宿が悪かったせいで、もう歩く元気はないかも」


「分かりました。ではリグレットを出てから魔動車を用意しますね」


魔動車を持っていたんなら、ヴィントナーを出た時も楽にユトグアまで行けたのに。漆黒の剣と関わることもなかったのに。


「あのスノーお姉さま、せっかくならリグレットも少し回りませんか? 明るくなって町の景色を見てみると、景観の良い町で落ち着きますよ」


確かに言われてみれば。町並みはガーデン・マノスやヴィントナーのような大都会と違い、昔ながらの建物が並ぶ古風な町。


言ってしまえばファンタジー世界のような、ノスタルジックな雰囲気の落ち着いた町だ。


しかし、そんな町に大陸横断鉄道の大型駅があるのは、かなり異質にも見えてしまう。


「リグレットって小さい町なのに、よく大陸横断鉄道が整備されたわね」


「いずれは港町ワースまで繋げる計画らしいですよ」


「そうか、ワースまで繋げてしまえばユトグアまで一直線で魔動列車が使えるようになるのか」


「ええ、そうなればグリテア領の貿易も今以上に活発になるでしょうね」


港町ワースの海産物に、さらには東大陸との貿易でも大陸横断鉄道が整備されれば、陸路での貿易もかなりしやすくなる。


「それなら早く整備すればいいのにね。何でしないんだろ」


「ワースに向かう途中に、広大な森が広がっています。その森が中々厄介みたいで」


「モンスターでも住み着いているの?」


「でもモンスターなんて、そこら中にいるだろ」


「モンスターではありません。その森の名前は『デックアールヴの森』と呼ばれているんです」


「デックアールヴ、つまりダークエルフですか」


魔界に住むといわれるダークエルフだけど、実際に見たことはない。彼らは非常に数が少なく、めったに人目に出ることはないと言われてる。


だから魔族の間では、ダークエルフはおとぎ話の世界の架空の生物だと思っている者も少なくない。


「ダークエルフなんて、あんなの迷信だろ?」


「いるかいないかは、ハッキリ確認が取れるまでは可能性はどちらもあります」


確かにリーティアの言うとおり、ダークエルフが架空の存在だと言い切ることはできない。


何より私自身、実はダークエルフはいると信じている。


だがやはり不思議だ。


「ダークエルフが仮にいたとしても、それだけで鉄道が整備できないっておかしいよね」


「これがですね、意外にもグリテアが森を開拓する事を反対しているんですよ」


「ええ!? 魔王グリテア様が!?」


「なんでだよ! 魔王グリテアって、貿易にかなり力を入れてるはずだろ? なら港町ワースまで繋げた方が絶対いいはずだ!」


「森の保護と自然破壊を防ぐ為らしいですよ。表向きは。

それに対して商人のギルド組織は、グリテアにデックアールヴの森の開拓を何度も要望してますけどね」


リーティアは、やっぱり色々詳しいな。そもそも旧敵であるはずの魔王グリテアの領内に、何で住んでいるんだろ。


だけど何時までも、つまらない話しをしているのも飽きてきた。


「まあいいじゃない。とりあえず今はリグレットを少し観光しましょう」


話しを終わらせ、そろそろリグレットを回ることにした。


「ここには、お洒落なカフェがあるんですよ。良かったらそこに行きませんか?」


「リーティアはリグレットにも来た事あるの!?」


「ええ、チビ雪さん。昨日も言いましたけど私の友達がいるんです」


「もうグリテア領に関しては、リーティアに任せておけばいいんじゃねぇか?」


「ホントね。ならそこで朝食にしましょう。リーティア、案内をお願い」


「はい、では行きましょう」


リーティアの案内の元、石畳の白い道を歩き出していく。都会とは違い、朝でも時間の流れがゆっくりに感じてしまうほどだ。


途中、露店を出している通りに差し掛かり、大勢のリグレットの町人達や魔動列車で来たと思われる観光人たちで賑わいを見せている。


「ここは朝市ですね。友達のカフェはこの先です」


「ここって何時までやってるの?」


「お昼ぐらいまではやってますよ」


「じゃあカフェの後に来ましょう。せっかくなら、ここの名物なんかも食べたいし!」


「あ! 私も賛成です!」


「俺も異論はないぜ!」


行きかう魔族たちとすれ違いながら、朝市の通りをようやく抜けれた。


「ここを左です。カフェはこの坂の上にあります」


少し高台になっている場所にあるというそのカフェは、リグレットを見渡せるような場所に店を構えているという。


「着きました。ここです」


坂を上がってすぐの角に、その店はあった。確かにお洒落な店のカフェだが。


店の名前は、喫茶ゴルゴン。看板の左右の装飾、文字を見るように蛇のようなデザインが施されている。


それを見て、まさかとは思ったが。


「さあ入りましょう。私の友達のメデューサが経営している店です」


「やっぱり! 本当に大丈夫なの!?」


「何がですか? さあ入りましょう」


私達の不安をよそに、リーティアはそのまま店の中へと入っていった。

最後までお読みいただきありがとうございます!


少しでも楽しんで頂けたら、ブックマークや評価をして頂けると嬉しいです。


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